次年度新規事業で留学必修化やST比改善を支援、学びの密度向上へ-文科省
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2026.0928
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3行でわかるこの記事のポイント
●5年間の支援で全学部の1割強を留学必修に
●計10万人の留学費用補助をめざす
●支援終了後の「ST比1対25」程度を義務づけ
文部科学省は2027年度から、学部単位での留学必修化とST比改善を大学に促す事業を始める。大学による体制整備に加え、学生の留学費用も補助し、初年度は6500人、5年目には既存の予算も合わせて計10万人の留学支援をめざす。
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事業の名称は🔗「高等教育の学びの質的転換による創造的人材育成事業~知的修羅場体験事業~」(資料P2)。学部単位での留学必修化やST比改善など「学びの質的転換」に取り組む国公私立大学を5年間支援する。2027年度予算で165億円を要求。2031年度までに総額 3368億円の予算を見込む。
文科省は、①ST比の改善、②MDA(数理・データサイエンス・AI)教育の充実、③留学経験者の拡大-を事業の3本柱に掲げる。大学がこれらに一体的に取り組むことによって、規模適正化、少人数での文理融合教育の実現も図る。
3本柱の考え方と求める水準は次の通り。
① ST比の改善
2018年の中教審グランドデザイン答申で打ち出された「学修者本位の教育」という理念の下、一人ひとりの学生に手をかけて学びの密度を上げるためST比の改善が重視されている。この事業では、5年間の支援終了後に「ST比1対25」以下にするという具体的な数値目標を設定。
私学助成の減額対象基準(1対18)よりハードルを下げ、工学系学部の平均ST比(1対27)を目安にした。高等教育局大学振興課の石橋晶課長は「この水準をめざせば、留学をはじめフィールドワークやPBLなど、インタラクティブな教育・経験の機会を充実できるはずだ」と説明する。
② MDA教育の充実
数理・データサイエンス・AIを現代社会で必須のリテラシーと位置づけ、文系・理系を問わず初年次を基本とした必修化を求める。
入学時には、プレイスメントテスト等でMDA教育の前提となる数理的スキルを確認することも課す。入試の変更に必要な周知期間等も考慮し、初年度は「入学時の確認」とするが、今後、入試で数理科目を課すことで、大学でのMDA教育の充実につなげることも考えられる。
③ 留学経験者の拡大
留学先は海外、国内いずれも可とし、学部単位で1か月以上の留学必修化を求める。文科省は「できれば1セメスター以上の海外留学を」と期待するが、大学の現状もふまえて期間を設定した。滞在費は半年、1年など、期間と留学先の国・地域に応じた額を補助する。
異文化の中での"知的修羅場体験"を通じて問題設定力や決断力、胆力を養成できるよう、ディプロマ・ポリシーと関連付けたプログラムにする必要がある。留学プログラムの要件についてはこの後、詳述する。
文科省は2027年度から3年間で100学部ずつ選定し、それぞれ5年間支援する。
初年度の概算要求額165億円の主な中身は次の通り。
・教員人件費など少人数・MDA教育の学修環境構築、留学プログラム構築や実施の体制整備など、大学に対する支援に90億円
・留学の渡航費や滞在費など、学生個人に対する支援に74億円
初年度は100学部から最大6500人程度が留学すると見積もり、多様な渡航先や滞在期間を想定して渡航・滞在費を積算。大学経由で学生に支給する。
「学生により真剣な姿勢で留学に臨んでもらうため、あえて全額の補助はしない方向で検討している。実際にかかる総額をちゃんと知ったうえで、税金による支援を受けて学びに向かうという自覚を持ってほしい」(佐藤参事官)
事業の具体的な申請要件は次の通り。
① 5年間でST比を1対25以下にする計画を示す
② 初年次のMDA教育必修化
③ 留学の必修化
学部の文系・理系を問わず、すでに①②③のいずれか、またはすべてを実現している場合も、申請は可能だ。
①については具体的な人事計画の提示を求め、他の補助事業と同様、年度ごとの進捗確認で実現不可能と判断した場合は支援の打ち切りもあり得る。
②③は申請年度から必修化を求めつつ、初年度の予算執行可能期間をふまえて柔軟に対応するという。
財務省との折衝において予算を確保でき、その後、最短のスケジュールで進めば、2027年度のゴールデンウィーク前後に募集要項を示して夏までに公募、9月から10月にかけて選定結果を発表する見通しだ。
選定結果が出る前に全員必修での実施は難しいことを考慮し、文科省は2027年度に申請する大学については次のような対応を想定している。
・2028年度の学生募集要項で、当該学部について「◎◎年度からの留学必修化を予定し、文科省の支援事業に申請する」とPRすることは可能。
・2027年度は留学・MDA教育とも、当該学部のカリキュラム上は全員必修としたうえで、申請時にはそれぞれどの程度の規模、形態で実施し、◎◎年度からの必修化をめざすかという計画を示す。
佐藤邦明高等教育局参事官(国際担当)は「学部で全員に留学させようとする場合、多くの大学にはすでに海外大学との交流協定があり、毎年、短期の交換留学を実施するなど、足掛かりとなるプログラムがあるはず。2027年度はその規模を拡大して2年かけて必修化するなど、具体的な計画を示してほしい」と話す。
留学プログラムは語学研修ではなく、学部の人材育成目標やDPに関連づけられたインターンシップやフィールドワークを盛り込むことを課す方向。就職活動の早期化や長期化が留学の阻害要因になっている現状をふまえ、就職活動の備えにもなるプログラムにしようとの発想だ。
事前研修と事後研修の実施は、プログラムの要件として明示する。佐藤参事官は「『何を学ぶために行くのか』という渡航前の意識づけと、帰国後の『どう成長したか』という振り返りによって、留学の効果が飛躍的に上がることは学術的に明らかだ」と説明する。
コーチングスキルが高い人材を採用して事前・事後研修の質を高め、同時にST比改善にもつなげるといったことも考えられそうだ。
「知的修羅場体験」というインパクトある事業名称について、佐藤参事官は「生まれ育った環境の中で当たり前だと思っていた価値観が根本から崩れ、脳から汗が出るような経験を、という思いが込められている」と説明する。
一方、石橋課長は「『修羅場』という言葉から受けるイメージだけでは学生も辛いので、新しいことを発見する喜びと楽しさもあふれる学部教育にしてほしい」。
両氏は「学生に人間的成長を促すうえで留学に大きな効果があることを誰も否定しないのに、必修化の動きは鈍い。私たちが把握している限りでは、全学での必修化は国際教養大学と千葉大学だけで、学部単位の必修化も数える程度」と指摘する。
学生側も、全体として留学に積極的とは言い難いことについて、佐藤参事官は「大学のシステム、つまりカリキュラムが後押しするものになっていないからだろう。円安と物価高で留学費用も高騰する中、わざわざお金と時間を費やして "知的修羅場"に赴くことは、その時点だけで考えたらタイパ、コスパは最悪かもしれない。それでも、カリキュラムに組み込まれるなら行ってみたい、成長したいと思う学生は多いはずだ」。
佐藤参事官は、今や日本を代表する国際系大学となった国際教養大学の設立に関わった。「全授業英語での実施や1年間の留学義務づけなど、際立った教育に期待して目的意識の高い学生が集まることが成功の要因」と指摘。プレッシャーと向き合いながら留学のために圧倒的な勉強量をこなし、半数超が4年の修業年限を超えて卒業していくというタイパとは無縁の学びの文化は、留学前後も含め「まさに"知的修羅場"と言える」と評する。
そんな大学を増やし、"脳から汗が出る"体験に自ら飛び込もうとする学生を顕在化させようというのが、この事業だ。「イノベーションをけん引し、グローバルに活躍する人材を育成」という理念を5年間限りにはしないという意思の下、文科省は事業終了後も、学生に対する留学費用の支援を継続する方向で、財務省と協議するという。
支援の目標とする300学部は現在、約2700ある学部の1割強にあたる。佐藤参事官は「そこには必ず、目的意識の高い学生が一定数集まってくる。この事業は大学教育に大きなインパクトをもたらし、学生の行動を変えると確信している」と話す。
2026年9月取材
文・株式会社進研アド(ベネッセグループ)
真境名妙子(事業企画部)