〈共に挑む学生募集DX〉vol.06 「数」だけでは見えない行動の背景を探る。施策の「質」を磨く甲南大学の学生インサイト分析
学生募集DX
2026.0309
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3行でわかるこの記事のポイント
・定量データだけでは掴みきれない「学生心理」を知るため、学生インタビューを実施
・「併願層の動き出しの遅さ」や「保護者の影響力」など、想定とは異なる実態が明らかに
・分析結果を基に、DMの発送時期変更や保護者向けコンテンツの拡充を実行
甲南大学は、MAツールの導入により、ターゲット層へのアプローチ基盤を「定量」的な側面から整えてきた。しかし、アドミッションセンターの荻山菜邦課長は、数値データだけでの判断に限界も感じていた。「高校生が何に心を動かされ、なぜその行動をとったのか」までは、数字からは読み取れないからだ。この定性的な情報を補完するため、同大学が進研アドと共に取り組んだのが「学生インサイト分析(学生へのインタビュー)」である。アドミッションセンターの中島隆之課長補佐は、分析を通じて「ターゲット層の動きは我々の想定と違っていた」と語る。現場の思い込みを修正し、広報施策の精度向上につなげた甲南大学の取り組みを紹介する。

MAツールで「いつ」「誰が」動いたかを把握できるようになった一方で、荻山課長は「なぜ」その高校生が動いたのかという理由(インサイト)を掴みきれていないことに課題を感じていた。
「高校生に響く情報を届けたいという思いはあっても、自分たちの広報施策が実際の高校生の感覚とズレているのではないか、という懸念がありました」
当時、アドミッションセンターではその懸念を払拭するため、独自に「ペルソナ(ターゲットとなる架空の学生像)」の設計を試みていた。Webサイトの制作などを進めるうえで、ターゲットの明確化が必要だったためだ。 しかし、設定は難航した。荻山課長は「イメージを膨らませることはできても、実際の施策に落とし込めるほどリアルな設定を作るのは難しかった」と振り返る。どうしても「自分たちの施策に好意的な高校生」という、大学側に都合の良い学生像になりがちだったという。
そのような状況下で導入したのが、学生へのインタビュー調査を行う「学生インサイト分析」だった。「自学のファンになっている層と、そうではない層で、動きや心理にどのような違いがあるのか。それが明らかになれば、施策をより的確に設計できるのではないか」。荻山課長は、この分析が求めていた「リアルな高校生像」を知る手段になると考えた。

分析の実施にあたり、実務を担当した中島課長補佐は「協力してくれる学生を集められるか」という点に不安を持っていた。入試広報に関する踏み込んだ質問に対して、率直に答えてくれる学生を確保する必要があったからだ。
アドミッションセンターは、普段から学生と頻繁に接する部署ではない。そこで中島課長補佐は、過去にオープンキャンパス(OC)の運営に協力してくれた学生スタッフに協力を依頼することにした。学生広報団体の所属学生に依頼する方法もあったが、愛校心が強く志望度が高かった学生に偏る可能性があるため、より幅広い層が含まれるOCスタッフを対象とした。
まず、OC協力学生のうち、出身高校のランクや入試制度などの属性で選別した75人にWebアンケートを依頼。回答があった24名の中から、今回の調査趣旨に合致する18名にインタビューへの協力を取り付けた。 日程調整においては、ピンポイントで日時を指定するのではなく、学生の都合の良い時間を幅広く聞き取り、中島課長補佐が調整を行うことでスムーズな実施に繋げた。

【参考】本取材で実施した「学生インサイト分析」とは
在学生一人ひとり(N=1)に対し、高校時代の進路選択プロセスを深く掘り下げる1対1のインタビュー調査。定量データでは見えにくい「行動の理由」や「心理変容」を可視化することを目的としています。
●実施のポイント 学生が忖度なく「本音」を話せるよう、大学職員は同席せず、第三者(進研アドの担当者)がインタビュアーを務めました。
●主な質問項目例
• 進路検討を始めた時期と、その時の意識
• 志望校や併願校の変遷(いつ、どの大学と比較し、順位がどう入れ替わったか)
• 甲南大学を知ったきっかけと、当初のイメージ
入念な準備を経て実施されたインタビューでは、中島課長補佐をはじめ、アドミッションセンターの想定を覆す発見があった。
「本学を第1志望にしてくれていたコア層は、ある程度私たちが考えていた通りのスケジュールで受験に向けた行動をとっていました。しかし、併願校として検討していた学生の動きは、全く違っていたのです」と中島課長補佐は語る。
当初の仮説では、「志望度は違っても、大学選びの時期やスケジュール自体に大きな差はない」「高校の進路指導に合わせてイベントに参加するだろう」と考えられていた。 しかし実際には、併願層の学生の中に「来校履歴も資料請求の履歴もなく、受験直前の時期になっていきなり出願する」というケースが複数確認された。MAツールのデータ上では捕捉しきれていなかった「動き」が、インタビューによって具体的に浮かび上がったのだ。
さらに、荻山課長が注目したのは「高校生に対する大人の影響力の大きさ」だった。 特に、前述の「いきなり出願する層」の多くが、保護者や親戚、高校の教員といった周囲の大人から甲南大学を勧められ、それをきっかけに進路を決めていたことが判明した。「保護者の存在が重要だとは思っていましたが、予想以上に大きな影響を与えていることがわかりました」と荻山課長は言う。
「高学力層は自分自身で情報を調べて志望校を決めるはずだ」という大学側の仮説とは異なり、周囲の助言が大きなトリガー(行動のきっかけ)になっていたのである。
今回の分析で得られた「気づき」は、具体的な施策の見直しへとつながった。
まず着手したのが、DM(ダイレクトメール)施策の改善だ。中島課長補佐は、併願層がコア層とは異なるタイミングで動いていることがわかったため、それまで一律だったDMの発送時期を見直し、ターゲットに合わせて一部を前倒しするなどの調整を行った。
そして、最も大きな変化は「保護者へのアプローチ」の強化だ。保護者の助言が高校生の背中を押しているという事実を受け、急遽「保護者向けLP(ランディングページ)」の制作に着手した。 「それまで『保護者向けの情報もあったらいい』程度の認識でしたが、『なくてはならないもの』へと優先順位が大きく変わりました」と荻山課長は話す。定性的な事実が、施策の優先度を決定づける根拠となった。

こうした本音は、なぜ引き出せたのか。荻山課長は「第三者」の介在価値を強調する。
「学生も大人なので、職員に対しては本音を隠して大学側にとって都合がいいことを言いがち。それでは有益な示唆には繋がりません。」
「今回、進研アドの担当者が『第三者だからこそ、忖度しなくていい』と学生に伝えてくれたおかげもあって、本音を引き出せたと思っています。」
さらに荻山課長は、この分析が持つ本質的な価値を「大学生になってから過去の自分を振り返る」点にあると語る。当事者である高校生に直接聞くのとは違うというのだ。
「学生は自分が高校生だった頃のことを客観的に振り返り、話してくれました。」過去を俯瞰して「高校生のリアル」を話すからこそ、施策に繋がる示唆が得られるのだ。
MAツールという「定量」的な基盤に、学生インサイト分析で「定性」という血を通わせる。「N=1のリアルな声」を大切に受け止め、甲南大学は、戦略ターゲット層の心を動かす次の一手に取り組んでいる。

写真左から、甲南大学 アドミッションセンター・荻山菜邦課長、進研アドDX事業本部 コンサルティング部・元宗わかな、甲南大学 アドミッションセンター・中島隆之課長補佐
(文・写真:大坪 侑史)
(文責:進研アド DX事業本部 本部長 高橋 毅)
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