国内留学を通して地域課題を解決できる人材を育て、地域に返す―大正大学
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2026.0126
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3行でわかるこの記事のポイント
●独自のネットワークを基盤にして地域創生学科を設置
●2・3年次の地域実習を必修化し、連携協定先の自治体に派遣
●「従来型の大学教員」とは異なる教員陣が成長を支援
文部科学省は2026年度、大学による🔗国内留学制度構築を促進する新規事業を実施する。モデルケースの一つとして想定されているのが、大正大学地域創生学科の取り組みだ。2・3年次の国内留学を通し、地域の課題解決に貢献できる人材の育成をめざす教育プログラムを紹介する。
大正大学(東京都豊島区)は、仏教各宗派の連合大学として1926年に開学。仏教学部、文学部などに、2026年度から情報学部が加わり6学部となる。
2016年度に設置された🔗地域創生学部地域創生学科では、2年次と3年次で国内留学を必修にしている。自治体単位で連携関係にある全国120以上の地域をフィールドとして、学生を送り出す。
地域創生学部設置の背景には、仏教系大学ならではの独自の強みがあった。
仏教学部では、全国から入学してくる寺院の子弟を後継者として育てて地元に返すというサイクルが確立されている。地方では寺院がコミュニティの核の役割を担うことも多く、大正大学は卒業生を介して各地域との強固なネットワークを築いてきた。
また、宮城県南三陸町とは東日本震災からの復興支援を通じて特に深いつながりがある。地元の有志が地域外の人と協働してコミュニティ再生に取り組むための宿泊研修所「南三陸まなびの里いりやど」の設置を支援し、グループ法人として運営にも関わっている。
こうした背景の下、大正大学は2014年、地域創生、地域課題解決を目的とする地域構想研究所を設置。法人と同研究所が全国120以上の自治体と連携協定を結び、シンポジウムなどの活動を通して首長ら幹部と直につながっている。
その基盤を生かし、地域創生学部を設置。
地域創生学科長代行の高橋若木准教授は、学科の学びの特色について次のように説明する。「学生は経済学や経営学の理論を学んだうえで実際に地域コミュニティに入り、協定先の行政や地元企業による産業振興や、住民の地域活性化の現場に触れる。住民と関わりながら理論を実践することによって、新たな価値を創出する実証的な課題解決能力を育てる」。
課題解決能力の具体的な要素として、課題を見極める洞察力、解決の仕組みを考える発想力、リーダーシップや協働する力、調査やイベントを実施するための企画力や実行力などを挙げる。
地域創生学科は全国から学生を受け入れ、地元の活性化に貢献できる人材に育てて返す「地域回帰」を掲げる。東京に残って都市の課題解決に取り組んだり、首都圏出身の学生が地方に移住したりすることも、出口のモデルとして想定している。
「学部名に『地方創生』ではなく『地域創生』を掲げていることもあり、都市も、解決すべき課題や埋もれた価値がある『地域』と考えている」(高橋准教授)
大正大学はクォーター制を採用している。地域創生学科の1~3年次の第3クォーター(10月・11月)は首都圏や地域での実習のみ。各学年、第2クォーターまでは準備学習を行い、第4クォーターは実習の報告書を作成して発表するというカリキュラムだ。3学年合同の報告会もある。
1年次から3年次にかけて、経済学、経営学、地域創生理論など、柱となる科目を段階的に履修。各学年第1、第2クォーターの「フィールドワーク方法論」では、実習先での研究の進め方を修得。同時に、地域の暮らしや生業の場に対して敬意を払い、尊重しながら円滑に活動できるよう基本的なマナーも学ぶ。
3年次にはゼミが始まり、実習は4年次の卒業研究を念頭に置いたテーマを設定し、自分で内容を決める。
各学年の実習について詳しく見ていこう。
1年次は地元・巣鴨を主なフィールドとする「首都圏実習」に取り組む。15人の教員がそれぞれの専門分野と関連づけてごみ問題、地域通貨、商店街の活性化、スポーツによる地域振興などのテーマで、日帰り・2週間のプログラムを企画。学生はその中から2本ずつ割り当てられ、計4週間の実習を体験する。
2年次からは各地に赴く「地域実習」となる。
2年次の「地域実習Ⅱ」は、地方9か所から選ぶ滞在型実習に東京での活動を加えた10のプログラムの中から、学生の希望をもとに人数を調整して振り分ける。地方に4週間滞在するパターンと、2週間の地方滞在と2週間の首都圏実習を組み合わせるパターンがある。

2年次の「フィールドワーク方法論」を担当する谷ノ内識(さとし)教授は「どこに行きたいかではなく、何に興味があるかを明確にしたうえで、そのテーマを掘り下げられる地域を選ぶよう指導している。問題意識の高い学生を送り出せば、受け入れ側の意欲も高まる」と話す。
各地域では、役所の元職員や市民グループの代表など、住民として活性化に関わるキーパーソンを大正大学の教員(現地講師)として委嘱。学生の生活の相談に対応する生活指導員も一人ずつ配置している。
大学は現地講師に対し、実習を通して育てたい能力などの要件を提示。必要に応じてFDにも参加してもらう。現地講師はそれらに基づき、地域資源の視察や自治体・企業・住民等への調査、課題解決提案書の作成、報告会といった実習プログラムを企画し、関係先と調整する。
「地域資源はそれぞれ異なるので、一律に同じ条件を示してもうまくいかない。一方で、単位認定する以上、共通のディプロマポリシーや到達目標の下で力をつけさせる必要があり、それも簡単ではない。数年間の試行錯誤を経て、徐々に出来上がってきた」(高橋准教授)
大学の要請に応えてくれる地域講師の存在について、「個々の教員が主体となる連携ではなく、大学法人と地域構想研究所を基点とする連携協定があるからこそ、幅広く強固なネットワークを持ち、実習をコーディネートできる人材を確保できている」と自信をのぞかせる。

3年次の「地域実習Ⅲ」は、ゼミの指導教員と相談しながら研究テーマと実習先を決める。基本的には連携協定先から選ぶが、テーマにマッチする地域がない場合は他の地域での実習を認めることもある。例年1、 2割の学生が独自のフィールドに赴く。
3年次も、4週間フルの地方実習のパターンと、首都圏実習と2週間ずつ組み合わせるパターンがある。
学生自ら実習計画を立て、自治体や企業など調査対象を決めてアポを取る。実習先が2年生の実習先である9地域以外の場合、そこには現地講師や生活指導員など相談相手もいない。
こうした状況、環境の中で学生は大きく成長するが、リモートで支援する教員の不安と負担は小さくない。日中は首都圏実習の指導にあたり、夕方からは地域実習生とのオンラインミーティングで報告を聞き、アドバイスするというハードな日々が続く。
地域実習における東京と現地の往復交通費および宿泊費、首都圏実習の交通費と活動費は大学が負担する。
開設から10年目を迎え、地域創生学科が掲げる「地域回帰」はどの程度達成されているのか。
入学者のおおよその割合は、関東とそれ以外で7対3、東京とそれ以外で6対4。その中で、卒業後の地方移住が増える傾向にある。地方出身者のUターンのほか、都市部出身者が地方で就職するIターン、地方出身者が出身地以外の地方に就職するJターンを合わせると、2020年度から6年間の卒業生は23%だったのに対し、2025年度だけで見ると27%を占めた。

島根県益田市では実習経験者が同市役所に就職し、仕事ぶりで信頼を得て以来、地域創生学科からの受け入れ枠(1人)が設けられた。強固な関係の下、市内の高校から地域創生学科に進学するケースも出てきた。「他の自治体でもこうした関係を築いていきたい」と高橋准教授。
役所や企業が、実習で受け入れた学生に「卒業後、ぜひここで働いてほしい」と要望し、移住・就職が決まるケースは他の地域でも出てきている。
高橋准教授は、国内留学で学生を成長させ、制度を維持・発展させるためのカギとして①学生の経済的負担の軽減、②現地講師の確保、③適性と資質を備えた教員の確保―を挙げる。
「学生にとって1番の負担は交通費と宿泊費。インバウンドの増加でホテル代が高騰する中、大正大学では大学が100パーセント負担している。現地講師については、人材の発掘に加えて適正な謝金も考える必要がある」
教員に求められるものは何だろうか。
まず、首都圏実習のプログラム作りには教員それぞれの「持ちネタ」が欠かせないという。一方、地域実習の指導では「自分の研究の看板」に固執せず、学科による連携の枠組みの中で、学生の支援に徹するマインドが重要だと強調。
「経済学や経営学といった専門的理論に加え、地域での活動を通して学生に力をつけさせるには、アクティブラーニングのチームビルディング、自主的な計画や自己管理を教えるスキルが必須。学生一人ひとりの関心事とグループ全体の達成目標を調整しながら指導し、成績を評価できるよう活動をトラッキングする力も必要だ。これらが欠けると学生の満足度が下がるし、派遣先に迷惑をかけて関係を壊しかねない」
平たく言えば、「従来型の大学教員とは異なる資質」が求められるということになりそうだ。地域創生学科ではそのような教員を求める中で大きく入れ替わり、設置当初からのメンバーは高橋准教授ともう1人のみ。他大学での研究実績もあるベテラン勢から40代、50代中心の体制に変わった。
高橋准教授はヨーロッパ思想が専門で、元々は地域創生との接点はなかった。学部新設の計画が進んでいた当時、全学の初年次教育でアクティブラーニングの指導を担当していたことから抜擢された。
谷ノ内教授はジャーナリストから関西の私立大学職員に転じ、大正大学に移って2年目。非営利組織の広報を専門とする実務家教員だ。
前任校で広報責任者を務めた谷ノ内教授は、「国内留学制度は都市部の中小大学にとって、ブランド化の材料になり得る」と考える。「今後は、首都圏で地方創生をテーマにした探究学習に取り組んでいる高校、実習先の地域の高校、双方へのアプローチに力を入れ、地域創生学科との親和性の高い生徒を積極的に受け入れていきたい」と話す。