データサイエンス教育認定の敬愛大学-学長が決断、半年で副専攻開講
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2021.0823
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3行でわかるこの記事のポイント
●「文系学生にもAI・データサイエンスの素養を」と企業出身の学長が検討を指示
●既存科目を最大限に生かすカリキュラムを設計
●データサイエンスの体系的プログラムを学生募集でもアピール
文部科学省が6月と8月の2回に分けて発表した2021年度の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」の認定校は全78校で、そのうち大学は66校だった。文系、理系にかかわらずデータサイエンスの基礎的な知識・技術を体系的に学べるプログラムとして初の"お墨付き"を得た大学の中には、文系学部のみの大学もある。その一つである敬愛大学に、いち早くデータサイエンス教育を導入した背景とプログラムの概要を聞いた。
*データサイエンス教育認定プログラム第1号は大学7校、高専4校
*データサイエンス教育認定プログラム第2弾と先導的な「プラス」を発表
敬愛大学(千葉市)が「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」の認定を受けたのは、全学部が対象の副専攻「AI・データサイエンス」だ。2021年度のカリキュラムは「情報」「統計」「専門領域」の3分野で構成され、それぞれに「導入」「基礎」「応用」の3レベルの科目を配置。26科目が開講されている。
1年次に「導入」の科目からスタートし、3年次まで段階的に学ぶ履修が基本。必修科目が多い教育学部の学生は、教員以外の進路も視野に入れ出した学生が3年次から履修することが想定されている。
23単位以上(うち必修15単位以上)を修得し、社会調査士、ITパスポート、統計検定2級など、所定の資格の中から一つ以上を取得すると4年次に修了証明書が得られる。
副専攻「AI・データサイエンス」が開設された2019年度は、経済学部と国際学部の2学部体制だった(国際学部の改組により2021年度、教育学部を新設)。収容定員1600人の「純文系」の大学が、他に先駆けてデータサイエンス教育プログラムを整備した背景には、感度の高いトップとAIを専門とする教員の存在、データサイエンス系の既存科目、教職協働の体制、そして小規模大学ならではの意思決定の速さがあった。
2020年度まで理事長との兼務だった当時の三幣利夫学長(現在は理事長)は企業出身で、折に触れ、教職員に「これからは文系出身者にもAI・データサイエンスの素養が求められる」と話していた。この考えは「敬愛大学ビジョン2030」の中で「新たな時代の変化に対応する教育~Society5.0 に対応できる AI 人材を養成~」として示され、全学の一致した目標となっている。
当時の三幣学長から「早急に、文理融合人材育成プログラムの実現を」との命を受け、2018年秋から検討にあたったのは教務部長と、当時の国際学部長で現在はAI・データサイエンス教育センター長を務める高橋和子教授。同教授は自然言語処理と機械学習が専門だが、もう一つの専門分野である社会調査に関する科目を担当していた。
国際学部には、高橋教授が担当する「マーケティング・リサーチ」「社会調査法」等、データを扱い社会調査士の資格につながる科目が充実していた。一方、経済学部には統計学や数学の科目が揃い、以前設けていた高校教員(情報)の免許科目も一部、残っていた。「これら数理・データサイエンス系の科目を下地として、AI系の科目を追加すれば副専攻として通用する体系的なカリキュラムができると考えた」と高橋教授。
そこで、副専攻の必修科目として「データサイエンス総論」「AI概論」を新設。同教授は「AI概論」等を担当することに。
カリキュラムの設計から運営に至る意思決定はスムーズに進み、半年間の準備を経て2019年度、副専攻「AI・データサイエンス」のスタートにこぎつけた。時を同じくして政府も、データサイエンス教育の推進に乗り出していた。
文科省によるプログラム認定では2年間の実績をもとにいち早く申請し、"お墨付き"第1号に名を連ねた。高橋教授は「理事長・学長の方針に基づく全学的な取り組みとして推進できたため、提出用のエビデンスは豊富にあった」と振り返る。申請手続きは、認定要件を読み込んで熟知した職員の働きに負う部分が大きく、教職協働の成果が示された。
学生に対しては、副専攻のねらいを「AI やデータサイエンスの知識と技能、創造的思考力を身につけ、卒業後の社会で活用するための基礎力を育成する」「AI やデータサイエンスの進歩による社会の変化、技術の革新に対応する柔軟な力を養う」「文系・理系の素養を問わず文理融合人材の育成を目指す」と説明し、履修を薦めている。開講3年目の現在、約200人が履修している。
この間、カリキュラムはブラッシュアップを重ねてきた。
2020年度から開講されている「AI概論」の授業は14回のうち連続4回を特別講義とし、日本アイ・ビー・エム(IBM)のAI担当者を講師に招いている。同社の取り組み事例を交え、AIの最前線に触れてもらう人気の講義だ。
2021年度は科目の体系性と履修順序を整理してカリキュラムを改訂。「導入」の必修科目「AI・DS(データサイエンス)へのいざない」を新設し、前期の集中講義として開講した。日々の暮らしや経済活動におけるAIやデータサイエンスの活用シーンなど、文系の学生が楽しく学べるよう「いざなう」オンデマンドの動画教材を学内で作成した。
同大学では、まだ数が少ない「文系でもデータサイエンスが本格的に学べるプログラム」を学生募集における強みにしたいと考えている。開講当初からリーフレットを作成して高校訪問やオープンキャンパスで配付したり、広報誌で紹介したりと積極的にアピール。大学のウェブサイト内に設けたAI・データサイエンスのページには、高橋教授がデータサイエンスについてわかりやすく解説する動画も。
一方で、学内での浸透度は今ひとつと捉え、リーフレットの学内配付を始めた。2021年度は『履修の手引き』を作成したり、学生向けの説明会や相談会を開いたりと履修促進の活動を展開している。
今回の認定は、こうした学内外への広報の後押しになると期待を寄せている。
各学部を代表する教員によって副専攻を運営する「AI・データサイエンス教育研究会」は2021年度、「AI・データサイエンス教育センター」に改称。高橋センター長を中心に、数理・データサイエンス・AIに関わる教員がカリキュラムや教材の研究・開発にあたっている。職員からは大学事務局長や修学支援室長(教務課)、IR・広報室長などが加わり、教職協働の体制をとっている。
次は「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(応用基礎レベル)」の認定を受けるべく、申請準備が進行中だ。現在は、課題解決型授業(PBL)の科目新設と実データの収集などに取り組み、2022年度のカリキュラムへの導入を目指している。「AI・DS(データサイエンス)へのいざない 」を全学で必修化し、「応用基礎レベル」でさらに深い学修を行う2段階方式のAI・データサイエンス教育も構想中だ。
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