〈学生募集をDXで動かす~接触者育成のシナリオ〉vol.13
共栄大学-資料請求者の出願率向上をめざし1to1で働きかけ
学生募集DX
2024.0530
学生募集DX
3行でわかるこの記事のポイント
●「一斉配信」「エリア別」「1to1」の3階層でメールを配信
●ナーチャリング成果のスコアを注視し、施策に反映
●接触者のアクションやデータに対する職員の意識が向上
共栄大学プロフィール
〈学生募集の状況〉
◆入学定員:330人
◆課題:接触者の出願率向上
〈MAツール導入状況〉
◆稼働時期:2023年4月
◆運用する部署(人数):入試課(6人)
◆活用目的:高校生との1to1コミュニケーション
◆主な活用法:
メール・LINE配信、ポップアップによる資料請求促進とナーチャリング、スコアリング
◆データ件数:約5万6000件(資料請求者、高校訪問やガイダンスでの接触者データの合計)
共栄大学のMAツール活用について紹介します。本格運用が始まって間もない中、職員の意識向上など、思いがけない副次的効果が実感されています。
埼玉県春日部市にある共栄大学は、国際経営学部と教育学部の入学定員が計330人の小規模大学です。2023年度から、学生募集のマーケティング・オートメーション(MA)ツールを使っています。
初年度は、接触者管理の部分は従来のツールを使い、マーケティング部分に他社のツールを新たに導入。両者を連携させて接触者へのメール配信を自動化したり、大学ウェブサイトにポップアップを表示したりという施策を実施しました。2024年度は接触者管理ツールのリプレイスにより接触者管理とマーケティングを一元化、よりスムーズな運用が可能になりました。
同大学では例年、資料請求は一定数あるものの、そこからの出願率が伸び悩み、広報予算の費用対効果に問題を抱えています。出願率向上のためには、高校教員を介さない生徒との直のコミュニケーションを強化し、一人ひとりの特性やニーズに合わせた情報を発信する必要があると考えました。
入試課の植村啓介課長は、募集広報の協力会社から紹介されたMAツールを使えば自学の課題を解決できそうだと期待を寄せました。2022年夏のことでした。
「安いシステムではないので、導入によってどんな効果が見込めるか経営陣に説明する必要があり、次年度予算が決まる秋に間に合うよう資料を作りました」。
資料には、ツールによって接触者の出願率を上げることができれば外部業者リストを活用したDM等の出願促進施策の予算を削ることができるという試算も挿入。導入に学長の承認が得られました。
MAツールの初期設定は、施策部分の担当者とシステム・データ周りの担当者、いずれも30代の入試課職員2人が行いました。
接触者へのメール配信やポップアップ表示など、どのタイミングでどんなアプローチをするかという施策のシナリオ作り、メールのひな型作りに苦労し、試行錯誤が続きました。協力会社との週1回のオンラインミーティングでサポートを受け、「スモールスタートで、まずは動かしてみる」という方針の下、準備を進めました。
メールのひな型作成にはChatGPTを活用するなど、省力化を図り、試行的な運用と調整を重ねながら軌道に乗せました。
2024年度には、接触者管理とマーケティングのツール一元化に伴うデータ移行も行いました。
2024年5月現在、MAツールを使ってメール配信やスコアリング、個人カルテの管理、ポップアップ表示などの施策に取り組んでいます。
〈メール配信〉
接触者へのメール配信は3階層で実施しています。
①一斉配信
オープンキャンパスの告知や参加のお礼、入試の出願開始など、時期ごとのメールを1人の担当者が同じ内容で一斉に配信しています。
②都道府県単位での送り分け
課員6人で都道府県を分担し、各地域に合った入試やイベント情報を配信。新潟と長野を担当する植村課長は、それぞれの地元国公立大学の併願先として検討してもらうための情報提供を心がけています。
③1to1メッセージの配信
オープンキャンパスや高校内ガイダンスで直接接触した高校生とのその後のコミュニケーションは、対応した各職員が担当。リスト登録後、オープンキャンパスでの接触者には2日以内をめどに、まず①の担当者がお礼のメールを一斉配信。数日後、1to1の担当者が個別にメールを送ることになっています。ひな型のフリースペースにその生徒の興味・関心に合わせた情報やメッセージを書き加え、「あなたのための情報」に仕上げます。
以前は各担当者が対応した生徒の面談記録を手書きし、それを1人の担当者が集約してデータ入力。各担当者がお礼のハガキを手書きして送っていました。MAツール導入後は各担当者が面談記録を直接データ入力し、一連の流れの中でお礼メールを送信するなど、業務の効率化につながりました。
〈スコアリング〉
メールの開封やランディングページへの遷移、イベント参加など、接触者のアクションごとに積み上がるスコアを日々チェックし、一人ひとりの「温まり具合」を管理。
スコアが一定の基準に達したら、メールやLINEで志望学部ごとの詳しい情報を提供しています。国際経営学部については、各教員の専門分野と学びの内容を紹介。教育学部については、在学生が志望動機を語るウェブサイトの特集ページに誘導します。
〈個人カルテ〉
接触者のアクションが時系列で記録されるカルテも随時確認しています。
リスト登録起点のアクションのみが確認できた以前の接触者管理ツールと違い、アクションの履歴を日時含め詳細に追えるようになりました。スコアの上昇につながりやすい施策がわかれば、ナーチャリングのシナリオをより精緻なものに修正できます。
〈ポップアップ表示〉
大学サイトにポップアップを表示することによって、匿名の閲覧者を接触者に変えてリストに追加したり、個々のニーズに合うページに誘導してナーチャリングしたりといった施策を展開しています。
個人カルテの分析を通じ、自学のサイトを頻繁に訪問する人の多くが教育学部のページを見ていることが判明。教育学部のトップページに資料請求を促すポップアップを設定しました。
サイト内の回遊を促すポップアップも表示し、自学に対する関心を高めてもらい資料請求につなげるという施策も。
接触者に対しても、アンケートで取得した「希望する入試方式」の情報に基づき、その入試方式の出願が始まったら告知ページに誘導するポップアップを表示するといった工夫をしています。
共栄大学では、2024年度のツール一元化によって本格的な運用がスタート。学生募集の具体的な成果はまだこれからといったところですが、植村課長はすでに、予期していなかった2つの副次的効果を実感しています。
一つは職員の意識の変化。「以前は数値管理の担当職員以外は、オープンキャンパスの申し込み者数や資料請求からの出願率といった中間的指標にあまり興味を持ちませんでした。しかし、担当する高校生一人ひとりのアクションを細かく見られるようになってから、それらをとても気にするようになりました」。
担当する生徒のデータを入試課全員でチェックすることが習慣化。自分が書いたメッセージでメールが開封されると喜び、職員間でスコアの伸びを比べ合うなど、歓迎すべき競争意識も出てきたといいます。
二つ目は、一般選抜合格者の歩留まり予測における精度向上への期待です。これは、植村課長が受験生のある動きに気づいたことがきっかけでした。
「本学の合格発表の数日後にあった競合校の合格発表直後、本学に合格してまだ入学手続きをしていなかった数人のスコアが一気に上昇したのです。個人カルテから、本学のサイトで学部の内容や学費の情報を繰り返し見たためだとわかりました。競合校を不合格になり本学への入学を検討していると推測したわけですが、実際、これらの受験生のほとんどがその後に入学手続きをしていました」
次年度入試からは、こうしたアクションから歩留まりを予測したうえで、その後の入試の合否ライン設定する方向です。
「MAツールの継続的な利用について経営陣の理解を得るためには、次年度入試で資料請求者の出願率向上という具体的な成果を上げ、エビデンスとして示す必要があります」と植村課長。
その経営陣も、ただ傍観者のスタンスにとどまっているわけではないようです。植村課長は、今年度のオープンキャンパスの企画を報告した学内会議でのこんな1コマを話してくれました。
入試課が「お祭り感を出すため、例年通りの学食開放ではなくキッチンカーでランチを提供したい。受け付けで500円の金券を配ります」と説明。これに対し、就任間もない平林信隆学長が「せっかくMAツールを使っているのだからこのランチ企画を資料請求者に対して事前に発信し、金券も事前配付したうえで、実際にオープンキャンパスに参加してくれた高校生には当日別の特典を検討してはどうか」と提案。その場で採用が決まったといいます。
トップ自らアイデアを出し、現場は切磋琢磨しながら新しいことにチャレンジしていく-。活性化した大学の学生募集DXが今後どう深化していくか、注目されます。
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