データサイエンス教育の実践例紹介~ベネッセがセミナー開催
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2020.0721
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3行でわかるこの記事のポイント
●反転授業型ゼミ、全学共通科目、オナーズプログラムなど、多様な取り組みが登場
●今後、モデルカリキュラムを参考にしたプログラムが広がる見通し
●外部のデジタルコンテンツ活用が負担軽減と教育成果最大化のポイント
ベネッセコーポレーションはこのほど、大学の教職員を対象にデータサイエンス教育に関するオンラインセミナーを開いた。全ての大学生にデータサイエンスのリテラシーが求められる中、大学自前の授業と外部のオンライン学習プラットフォーム等を組み合わせたプログラムによって、教育成果の最大化を図ることを提案。大学の取り組み事例も紹介した。
*ベネッセがデータサイエンス教育のセミナー ~壁は教材と教員の不足
*全ての大学生にデータサイエンス教育を実施できる環境の整備へ―文科省
ベネッセのオンラインセミナー「これからのAI ・データサイエンス教育を考える会~モデルカリキュラムから教育をデザインする~」には大学教職員約550人が参加した。このセミナーは①文部科学省の事業を中心とするデータサイエンス教育関連の情報提供、②データサイエンス教育の専門家による実践のポイント解説、③ベネッセが提供するサービスと活用事例の紹介-の3部構成。各パートの概要を紹介する。
第1部 AI ・データサイエンス教育に関する情報整理
ベネッセから、文部科学省の施策を中心とする関連情報を提供した。
政府は文系・理系を問わず、AI ・データサイエンスに関するリテラシーレベルの教育を2025年に50万人が履修することを目標に、関連施策を推進している。2020年4月には、国立6大学を拠点校とする「データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム」がリテラシーレベルのモデルカリキュラムを公表した。
*モデルカリキュラムの資料はこちら
モデルカリキュラムは「導入」「基礎」「心得」「選択」の4段階で構成。データサイエンスを活用する「楽しさ」や「学ぶことの意義」を教え、好奇心や関心を持ってもらうことを重視した内容になっている。
モデルカリキュラムの活用イメージとして①独立した科目を設置、②複数の(既存)科目に織り込む形で教育内容を補充、③独自の体系的な教育プログラムの一部として設計―の3パターンが示された。
コンソーシアムは今後、公立・私立も含め大学と連携しながらモデルカリキュラムの普及を図るため、多くの大学にデータサイエンス教育が広がりそうだ。これを加速するために政府は認定プログラム制度もスタート。2020年夏頃には、リテラシーレベルのプログラムを対象に第1回の公募をする予定だ。「認定教育プログラム」の要件として、「全学生を対象に開講」「体系的な編成」「分かりやすく、かつ、学生の好奇心や関心を高めるような内容」などが挙げられている。
「第2部 大学におけるAI ・データサイエンス教育の実践のポイント」
講師は㈱キカガクの代表取締役社長・吉崎亮介氏。同氏は社会人向けデータサイエンス教育のデジタルコンテンツ開発を手がけ、オンライン学習プラットフォーム「Udemy」にもコンテンツを提供している。第1部で説明されたモデルカリキュラム活用のポイントや留意点について解説した。
大学、ベネッセとの共同で大学生向けデータサイエンスプログラムを開発した。その経験をふまえ、大学が今後、モデルカリキュラムを参考にしてプログラムを作る際のポイントをお伝えしたい。
新しい分野であるデータサイエンスは、教員の意見を調整する設計部分が特に大変だが、モデルカリキュラムでは履修の道筋が示され、どのような項目を含めるべきか明示されているので、設計段階の苦労はかなり軽減されるだろう。
もう一つ難しかったのは「事例との結びつけ」だ。リテラシーレベルでは学びの動機づけのために身近な活用事例や社会の実データ、実課題を取り入れた演習やグループワーク、実務家の体験談などを取り入れることが重要になる。しかし、学生はビジネス現場の実課題を示されても具体的なイメージがわきにくい。大学は、学生目線で理解しやすい事例との結び付けを考える必要がある。
受講対象者のレベル設定も重要で、前提となる数学やプログラミングの知識・スキルのレベルによって授業の中身は当然違ってくる。受講する学生像をペルソナとして描き、目指すゴールも明確にしたうえで両者のギャップを埋めるプログラムを考えてほしい。
例えば「数学の履修は数Ⅱまでで、微積分は習ったがほとんど覚えていない」「プログラミング経験なし」「Excel は多少使った経験がある」というレベルの学生を15回の講義で、「データサイエンスを活用するまでの道筋を理解し、活用に必要な引き出しを備える」というレベルまで引き上げることをゴールに設定する。
そこに到達させるために「最初から数学的な背景を説明すると挫折するので、前半ではノンプログラミングで AI の特性や活用するまでの道筋を理解してもらう」「後半では内部の考え方を理解するために、必要な基礎の数学と機械学習アルゴリズムを初歩レベルに絞って説明する」といった方針を立ててプログラムを設計するわけだ。カリキュラム作成の肝は「やらないこと」を決めることだ。
第3部「データサイエンス教育のコンテンツと活用事例」
ベネッセから、自社が提供するコンテンツの説明と大学による活用事例の紹介がなされた。
ベネッセが大学に実施したアンケートでは、データサイエンス教育の課題は「教える人手が不足している」(62%)、「よい教材がない」(32%)という回答が多かった。デジタルコンテンツの活用による負担軽減がこれらの解決につながる。文科省も、大学教育のデジタライゼーションによる学修成果最大化の方向性を打ち出しており、withコロナ、afterコロナの時代においてデジタル化が大きな潮流になるはずだ。
ベネッセは「大学向けオリジナルコンテンツ」と「オンライン学習プラットフォーム『Udemy』から厳選した大学向けサブスクリプション」という2つのサービスを提供し、大学のデータサイエンス教育を支援している。吉崎亮介氏の話にも出てきたようにオリジナルコンテンツは同氏とベネッセが共同し、大学の監修の下で開発した。サブスクリプションは大学教員や現役エンジニア、起業家などが提供し、常に最新の内容に更新される「Udemy」の講座から厳選した4000講座(日本語289講座)が学び放題となる。
「オリジナルコンテンツ」と「サブスクリプション」それぞれの活用事例を紹介する。
①オリジナルコンテンツを反転授業で活用―大阪大学
全学生対象の選択科目「データサイエンスの基礎Ⅰ・ Ⅱ」で活用している。当初は対面方式を予定していた教員による授業も、コロナ対応のためオンデマンド方式に変更。オリジナルコンテンツは教員によるオンデマンド授業の補助教材として活用している。事前知識をインプットしてもらうことにより、教員による授業がよりシャープに響くようになった。
②オリジナルコンテンツを授業の代替として活用―香川大学
主に1年次対象の全学共通必修科目「情報リテラシーB」として開講。全8 回の授業のデジタルコンテンツのうち、最初の2回は大学が独自に作成し、残り6回でオリジナルコンテンツを活用。1200人超の履修者がいる授業の質を標準化できた。
③サブスクリプションを反転授業で活用―私立A大学
元々データサイエンス教育をしていた3・ 4 年生対象のゼミで、知識・スキルは各自で修得させて対面の場を議論中心に変えるためにサブスクリプションを活用。学生は自分のスキルレベルに応じてコンテンツを選び、補強できるようになった。
④サブスクリプションを授業の代替として活用―私立B大学
2・3年生対象のキャリア教育のオナーズプログラム(課外)として活用する予定。データサイエンスのリテラシーをインプットさせ、アウトプットの場としてPBLも実施。就職活動でアピールできるよう、課題解決のスキルを修得させたい考えだ。
今や文系・理系にかかわらず、すべての大学生にデータサイエンスのリテラシー修得が求められている。コロナ対応として蓄積してきたオンライン授業のノウハウをafterコロナを見据えた教育のデジタライゼーションにつなげ、その中でデータサイエンス教育にも取り組むべきだ。「デジタライゼーションはゼロか 100 か」という発想ではなく、自学のめざす教育を実現するために「デジタルコンテンツをどの程度の割合で取り入れるか」という考え方で設計するといいだろう。
*大学向けの「Udemy」紹介サイトはこちら