早稲田大学が次年度、データサイエンス教育で独自の認定制度をスタート
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2021.0125
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3行でわかるこの記事のポイント
●「専門とデータサイエンスの融合」の理念の下、4段階で認定
●「専門分野重視」を反映したオンデマンド方式と柔軟な履修パターン
●全学生に「仕事で基礎的なデータ分析ができる」初級の取得を期待
データサイエンス学部を開設したり、この分野の科目を全学で必修化したりする動きが大学の間で広がりつつある。全学共通科目の中で関連プログラムを展開している早稲田大学は、2021年度から独自の「データ科学認定制度」を導入する。「専門分野とデータサイエンスの融合」という理念を前面に打ち出すこの新制度について紹介する。
*早稲田大学のデータサイエンス教育についてはこちら
早稲田大学におけるデータサイエンスの活用を教育・研究、社会連携など全方位で担うのは、2017年に設置されたデータ科学センターだ。松嶋敏泰所長は「データサイエンス学部でエキスパートを育てる、リテラシーレベルの科目を全学必修にしてデータ分析の素養を身につけさせるなど、大学がめざす方向によってさまざまな仕組みがある。われわれがめざすのは、それぞれの専門分野でデータを活用して課題解決ができる人材の育成だ」と話す。
「今や、企業の営業や人事も含めあらゆる部門でデータ分析に基づく意思決定が日常的になされている。英語力と同様、データサイエンスはどの分野でも欠かせないリテラシーと言える」。この認識の下、社会のあらゆる分野に人材を送り出す総合大学として「専門分野とデータサイエンスの融合」を掲げる。あくまでも専門を重視し、それを強化する武器としてデータサイエンスを位置付ける。
学生一人ひとりがめざす進路に応じて計画的、体系的にデータサイエンスを学べるよう、4段階の科目群を全学共通科目として整備することを計画。2019年度、「データ科学入門シリーズ」の開講からスタートした。独自のLMSを基盤とするフルオンデマンド方式で科目を提供。データ科学センターと全学共通科目を担当するグローバルエデュケーションセンターが共同でコンテンツを開発し、年々、拡充している。
4段階の科目群と対応させる形で、2021年度にスタートさせるのが「データ科学認定制度」だ。学生に到達目標を明示し、計画的な学習を促すことが主なねらい。「専門分野とデータサイエンスの融合」というコンセプトの下、リテラシー級から上級まで設定する4段階の各水準は下表の通り。
「全学部生を対象にリテラシーレベルのデータサイエンス教育を」という文部科学省の要請に応え、リテラシー級(教養としてのデータサイエンス)を設定。しかし、早稲田大学が全学生に「最低限ここまでは」と推奨するのは、もう一段階上の初級(基礎的なデータ分析を仕事で活用できるレベル)だ。
データ科学センターは「できれば中級(専門的な仕事に活用できるレベル。2022年度以降に開設)までチャレンジしてほしい」と期待を寄せる。上級(2023年度以降に開設)は専門外の分野でもデータを活用できるエキスパートレベルで、「本来の専門分野を持ちつつ、データサイエンス学部卒業者に近いスキルを想定している」(松嶋所長)という。
これら各級とデータサイエンス科目群は下図のように対応している。
入門編であるA群の履修によって、リテラシー級、初級が取得できる。C群は中級、D群は上級にそれぞれ対応している。
下図ではさらに詳しく、各科目群の主な科目名も示している。どの科目も1クオーターで完結し、1単位を認定。小テストとレポートによって「最低限、必要な力がついた」と見なせば合格とし、成績評価にかかわらず所定の科目で合格して単位を修得すれば各級を認定する。
「統計リテラシー」α・β(パターン①)の履修、または「データ科学入門」α・β(パターン②)の履修のいずれかでリテラシー級を認定する。
さらに、パターン①に続いて「データ科学入門」1・2を履修したうえで実データを分析する演習「データ科学実践」を履修すると初級を認定。一方、パターン②の場合は続いて「データ科学入門」γ・δを履修したうえで「データ科学実践」を履修すると初級を認定する。
「データ科学入門」α~δは早稲田大学独自のノウハウを駆使して統計学、データサイエンス、コンピューター言語のPythonなど、データサイエンスの主要素を統合的に学ぶ「日本のどの大学にもない特別な内容、教授法」(松嶋所長)で、データ科学センターはこのシリーズを網羅的に学ぶパターン②の方を理想形と位置付ける。
ただし、「統計リテラシー」α・βを必修にしている商学部など、学部によっては統計学を掘り下げる必要があることを考慮し、統計学を単体で学んだうえで、「データ科学入門」α~δから統計学の要素を削った圧縮版の「データ科学入門」1・2を学ぶパターン①も併設。それぞれの専門性に配慮する観点から柔軟な設計にしたわけだ。
中級に対応するC群には、経済学が専門の学生向けの発展的な統計学や、政治学に関連が深い回帰分析、金融業界志望者向けの時系列分析など、各専門分野に関連した応用科目を設置。めざす進路に合わせて選択し、3科目を履修すると中級が認定される。
2022年度からは専門外の分野でも通用するデータ分析力を修得させる最上位のD群を開講し、2023年度から始まる上級認定に接続する。
クオーターごとに1科目ずつ履修していけば、2年次の夏クオーターまでに初級が取得できる。松嶋所長は「1年間のオンデマンド授業でデータサイエンスの全容を理解させるためには、どの要素が必須でどこを削れるか、ゴールから逆算して内容を取捨選択した」と説明する。
最短で3年次の夏クオーターまでに上級を取得できるようにしたのは、大学がお墨付きを与えたデータ分析力を就職活動でアピールしてもらうためだ。
●さまざまな連携を通じて教育レベルの高さを企業にアピール
学生が目標を明確にして主体的にデータサイエンスを学ぶこと、就職活動の武器にすることが認定制度のねらいだが、学生がデータサイエンスの重要性を認識していなかったり、認定の価値が企業に理解されなかったりすると、制度は絵に描いた餅になってしまう。
そこでデータ科学センターでは、この分野のニーズの高まりと大学の支援システムを周知するため、新入生に配る全学共通科目のパンフレットにチラシを挟んだり、大学のウェブサイトに動画を掲載したりといった啓発活動を予定している。
一方、自学が主宰するデータサイエンス教育・研究のコンソーシアム参加企業に、さまざまな連携を通じて教育水準の高さを知ってもらい、認定制度の意義をアピールすることも考えている。コンソーシアムにはメーカー、金融、ICTなど幅広い業種の大手企業が多数、参加し、演習用の実データの提供を受けたり、学生を中期のインターンシップに送り出したりしている。早稲田大学は社員のリカレント教育も請け負う。
松嶋所長は「インターンシップで即戦力になるほどのスキルを見てもらったり、学生と同じ授業で研修を受ける社員が学習内容のレベルの高さに驚いたりということがあると思う。それらが『早稲田で認定された力なら信用できる』という評価につながっていけば」と期待する。
早稲田大学の創設者・大隈重信は明治政府の要職を務めていた時に統計の重要性を説き、1881年、現在の統計局・統計センターの前身である統計院を設立した。日本の統計制度の父とも呼ぶべき大隈のDNAを受け継ぐ同大学が135年後、データ駆動型社会が進展する中でデータ科学センターを設立したのは歴史の必然とも言えそうだ。
国家政策立案のための人力による統計から、地球規模のあらゆる課題の解決のためにAIを駆使するデータサイエンスへ。時代の変化を映すように、データ科学センターは3人の専任教員に加え政治、マーケティング、心理、生命科学など多彩な専門性とデータサイエンスの知見を併せ持つ教員、および統計や機械学習・人工知能、情報検索などデータサイエンス各分野の専門家、計53人の兼任スタッフを擁する。早稲田大学のデータサイエンス教育は、多様性の象徴とも言うべきこの組織から生み出される。
「今後、各大学がそれぞれのやり方でデータサイエンス人材を育成していくだろう。その中でわれわれは、社会のあらゆる分野に年間1万人の『データを活用できる人材』を送り出すことによって大隈の志を受け継ぎ、日本を変えたい」(松嶋所長)。
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