2025.0313

4私大が連携、「越境学習」を通して「分厚い中間層」の人材を育成

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3行でわかるこの記事のポイント

●桐蔭横浜大学を代表とする計画が経営改⾰⽀援事業に選定された
●リソースを共有し、さまざまな体験機会を提供するプラットフォームを構築
●高校や企業の参加を促し高大接続、大社接続のシステム開発もめざす

私立大学等を対象にした文部科学省の🔗経営改⾰⽀援事業の「メニュー2」は、複数大学間でのリソース共有による管理・運営業務の改善と効率化・高度化を促すもので、2024年度は4グループが支援対象に選ばれた。専門分野が同じ大学やエリア内の大学による連携が中心となる中、桐蔭横浜大学を代表校とする4大学は、「越境学習」を掲げて地域を越えた連携に取り組む。そのねらいについて聞いた。


「越境学習」ですでに連携実績

文科省の「少⼦化時代を⽀える新たな私⽴⼤学等の経営改⾰⽀援」事業のメニュー2で選ばれ、桐蔭横浜大学、東京家政学院大学、京都文教大学、日本文理大学(大分市)の4私立大学が取り組む事業の名称は「実践的人材を本気で育成する越境プラットフォームの構築」だ。「分厚い中間層」として社会課題の解決に貢献できる人材を、大学間連携を通して育成する。

東京家政学院大学以外の3大学には🔗2022年度から取り組む「越境学習プログラム」ですでに連携の実績があり、2024年度もこのプログラムを開講している。これを足がかりにして今後、連携への参加校を拡大。リソースの共有によって国内留学や就業体験など、学生の成長につながるさまざまな体験を提供するプラットフォームを構築し、教育プログラムの充実を図るという。

中間層人材とは「課題解決のための知見を社会実装する人材」

代表校である桐蔭横浜大学の森朋子学長に、取り組みの背景とねらいを聞いた。以下は、森学長の話。
*図は森学長が作成

私たちがイメージする「分厚い中間層」とは、「トップマネジメントを担う『ハイエンド人材』が生み出す課題解決のための知見を理解し、社会実装する人材」だ。

変化が激しく、先行きが不透明で予測困難な「VUCA時代」になり、大学はキャリア支援の見直しを迫られている。日本は危機的な人手不足に陥っているが、単なる労働力の供給ではなく、個人の幸福の追求にもとどまらず、社会課題の解決に目を向ける中間層人材の育成が必要だ。

今や、高校→大学→就職という単線型のキャリアモデルは揺らいでいる。学びと仕事の間を行き来するのが当たり前で、仕事には起業という選択肢も加わるなど、複線型のキャリアモデルに変わってきた。それに伴い、生涯学び続けることの重要性を理解し、いつからでもリ・スタートできる学習者、労働者としての「独り立ち」が必要になっている。

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越境学習を通し、自分にとっての「当たり前」 を揺さぶる

VUCA時代の社会を支える「分厚い中間層」に求められるのは、知識の獲得と記憶、それを呼び出す処理速度といった従来型の「認知的スキル」だけではない。成功体験に基づく自尊心や自信、目標に対する情熱、他者との協働といった「非認知スキル」が重要になってくる。

従来の大学教育では、認知的スキルとして専門知識を深め、ややもするとタコツボ化しがちな「垂直的学習」が中心だった。
これからは、いろいろな専門性を横につなげていく「水平的学習」が大事。すなわち、学生が自分のコミュニティから出てさまざまな人に出会い、自分にとっての「当たり前」が絶対的なものではないことに気づく経験を重ねる越境学習だ。

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 今回選定された連携事業では、多くの成功体験を通して自己肯定感を育み、新しいことへのチャレンジをためらわず、他者との協働によって課題を解決できる中間層人材を育てたい。

連携する3大学を含め大学のトップと話すと、誰もがこうした人材育成の必要性を感じていることがわかる。しかし、高等教育政策の関心はトップ人材の育成に向けられ、中間層についてはほとんど議論されない。それなら、現場に立つ私たちが自ら議論し、社会的なインパクトを起こそうということになった。

「地域に根差さない」広域プラットフォームを志向

さまざまな経験の機会を提供する越境学習には大きな意義があるが、自前のリソースだけではできることに限界がある。
連携する4大学はそれぞれ、中間層人材の育成を志向して教育の質的転換に取り組んできた。志を同じくするさまざまな地域・分野の大学が蓄積した知見とノウハウ、それぞれのリソースを持ち寄ることによって、よりインパクトの強い経験を学生に提供するプラットフォームを構築できるはずだ。

今後、参加校を増やす一方、企業や自治体、さまざまな機関の関係者が加われば、地域を越えた他の大学での学び、インターンシップや地域の活動、海外での学びや活動など、さまざまな機会を創出できる。
私たちの連携事業では、多様な人が集う「地域に根差さない」広域プラットフォームの構築をめざす。分厚い中間層とは必ずしも地域人材だけではなく、地理的に越境して学び、働く人材も必要だからだ。

高大接続改革を学生募集強化につなげる

本学が京都文教大学や日本文理大学と連携し、学生に地域や専門分野を超えた学び合いの機会を提供する「越境学習プログラム」も、今回の選定事業の中に位置づけている。2024年度は3大学のほかに三重大学、成城大学、神戸国際大学、福岡工業大学、そして高校から初となる宮崎県立飯野高校(2年生)も参加し、開講した。
企業や自治体を含む多様な機関との連携によって、理系人材だけではない、一般市民によるGX(グリーントランスフォーメーション)構想を深めたい。

多様な機関が集って議論を深めることによって、教育プログラム以外の面でもさまざまな成果を生み出せると考えている。
例えば、高大の相互理解の下、偏差値ではなく高校生の興味・関心に基づいて大学とのマッチングを図る育成型入試をはじめ、高大接続システムの開発が考えられる。さらに、企業と大学が協働して学生を育てながら即戦力としてマッチングする大社接続システムの開発もあり得る。これらは参加大学の学生募集やキャリア支援、すなわち経営力の強化につながるはずだ。

中間層としての役割を担えるよう、多くの学生を成長させるという発想は高大接続、大学教育、社大接続のあり方を変え、結果的に日本社会を良い方向に向かわせると確信している。
今回の連携事業は、その一歩目を踏み出すチャレンジなのだ。