大学間連携によるプロジェクト型授業で地域や専門分野を越境する学び
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2024.0213
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3行でわかるこの記事のポイント
●桐蔭横浜大学が開放するオンライン授業で4大学の学生が協働
●多様な視点から課題にアプローチし、成果の共有で視野と知見を広げる
●大学の自前主義からの脱却、共同FDにもつながる
多様なバックグラウンドを持つ仲間と共に学び、視野や知見を広げられる環境は、大学の貴重なリソースと言える。しかし、地方大学や単科大学、小規模大学が単独でこうしたリソースを学生に提供するのは容易ではない。そこで、複数の大学が連携し、学生がさまざまな視点から、共通の課題に取り組むプロジェクト型授業をオンラインで実施する試みが始まっている。東北から九州までの4大学が地域や専門分野を超えて学び合う「越境学習プログラム」とは―。
2023年度、事務局の桐蔭横浜大学をはじめ、東北工業大学(仙台市)、京都文教大学、日本文理大学(大分市)の4大学が共同で実施している授業は「プロジェクト入門『持続可能なエネルギー社会を考える』」(以下、「持続可能なエネルギー社会」)。2022年度に6大学で始まり、今回が2年目となる。
2023年12月からのオンデマンド学習を経て、2024年1月中旬からチーム単位のプロジェクト活動がスタート。3月中旬の最終報告会に向けて活動が展開されている。
「持続可能なエネルギー社会」は桐蔭横浜大学が、自学の授業を他大学に開放する形で運営の中心を担う。
同大学は「現代的課題の解決」というテーマの下、全学共通科目「MAST」を開講。「持続可能なエネルギー社会」は、「MAST」の選択必修科目「プロジェクト入門」(2単位)の1クラスとして設定されている。
講義による知識のインプットとアクティブラーニングによるアウトプットをセットにした、同大学の教育の特色を象徴するスタイルだ。
この科目に「大学間越境学習プログラム」を冠し、特別科目等履修生として他大学の学生も受け入れて単位を付与。所属大学での単位認定はそれぞれの判断に任されるが、2023年度は3大学とも所定の科目に読み替えて認定する。
桐蔭横浜大学でMASTを担当するのは、アクティブラーニングのファシリテーションのプロフェッショナル集団ともいうべき教育研究開発機構だ。
「持続可能なエネルギー社会」は2023年10月に他大学から同機構に着任し、学長特別補佐も務める成田秀夫特任教授が担当している。
知識のインプットはオンデマンド学習、アウトプットのプロジェクト活動はチャット等、成果の報告会を含む4回の双方向授業はオンラインというように、授業はすべてオンラインで構成されている。
オンデマンド教材では、世界と日本のエネルギー事情や最先端の研究動向を解説。さらに、三菱ケミカルグループ、東急(20203年度のみ)、ニチガスなどが、エネルギー関連の企業活動を紹介する動画を提供している。学生はこれらの講義を視聴したうえで、授業外の時間を使ってプロジェクト活動に取り組む。
プロジェクトのチームは、大学ごとに編成して地元の課題に取り組む形が基本だが、2023年度は学生の要望に応え、大学混成のチームも2組作った。混成チームは日本文理大学の研修所で合宿も行う予定だ。
初年度のテーマには、北海道科学大学が「雪氷熱利用」、日本文理大学が「地熱発電」という具合に、それぞれの地域特性が反映された。これら技術的なアプローチのほか、文系学部のチームは経済や行政の視点でテーマを設定。さまざまなアプローチの成果を共有することによって地域や専門分野を"越境"し、課題を相対化して捉える力を身につける―それが、この授業のねらいだ。
活動の成果は2段階で報告する。3月初旬の一次報告会で他チームの発表から気づきを得て、より広い視野で自分たちのテーマを捉え直して3月中旬の二次報告会に臨む。
蓄積された成果への積み上げも推奨され、前年度の履修者による報告の参照や引用が認められている。
初年度は6大学から計38人の学生が参加。2023年度は4大学から27人が参加している。いずれの年も、文・理にわたる幅広い学部の1~3年生だ。
桐蔭横浜大学からは今年度、資格取得をめざす医用工学部を除く3学部1学群すべてから参加があり、計17人。前年から10人以上増えた。
複数の大学の連携にはクリアすべき問題も多い。
それぞれの学事暦が異なるため、開講スケジュールの調整は特に難しいという。初年度は二次報告会が試験期間と重なる大学があり、今年度はプロジェクト活動のスタートを1カ月半早くした。2学期制の大学は後期の科目として、3学期制の桐蔭横浜大学は2学期から3学期にかけての集中講義として開講している。
新たな参加大学を募る場合、ファシリテーションのキャパシティを考慮して参加者数の制限も考える必要がある。
"越境学習"を深化させるために対面授業を設けようとすれば、交通費の問題も出てくる。
桐蔭横浜大学はこれらの問題を検討しつつ、次年度以降もプログラムを続けるという。それが、今の日本社会の課題解決につながると確信しているからだ。
2023年度の担当者の成田特任教授はかつて、大手予備校で現代国語を教えていた。「『学力不足』と言われるような生徒でも、動機付けさえできれば飛躍的に伸びることに気づいた」。動機付けのためのワークショップ型授業を数多く開発した後、大学に転身。前任の2校から現在に至るまで、一貫して教育開発部門でアクティブラーニングのプログラム開発に携わってきた。
「動機付けを必要とする生徒たちは、地方では社会の中核となる層だ。地方大学を訪問すると、高校の勉強は苦手だったという学生が大学で成長し、訪問者のアテンドを任されて頼もしい活躍をするケースが当たり前にある」。
同氏は、社会ではこうした中間層が「枯れている」と指摘する。「中間層に求められる資質は、かつての『マニュアルに沿って定型的な仕事をこなす力』から、『正解のない課題に粘り強く取り組み、他者と協働して解を導き出す力』へと変わっているが、多くの大学はそういう力を育てるノウハウが乏しい」。森朋子学長はじめ、桐蔭横浜大学で教育開発に携わる教員に共通する問題意識だという。
各地の大学と連携する越境学習に力を入れるのは、その解決に寄与できると考えるからだ。「問題意識を共有する大学と、日本の新たな中間層を育てる連合体を作りたい。高校までの教育で十分に伸びきれなかった学生を徹底的に鍛え、成長させて送り出す大学が増えれば、日本社会は大きく変わるはず」(成田特任教授)。
成田特任教授の着任が授業開始直前の10月だったために新規参加の呼びかけが間に合わず、参加校は前年より減ったが、次年度以降も数を増やすこと以上に、志ある大学と組むことを優先したいという。
初年度は9チームすべてのファシリテーターを桐蔭横浜大学から出した。今回は各大学の教員が自学のチームを担当する体制にステップアップし、桐蔭横浜大学がファシリテーションの事前研修を実施。「越境学習は大学に根強い自前主義からの脱却につながり、共同FDの場にもなっている。それぞれが得意なことで貢献したり、恩恵を受けたりするギブアンドテイクの関係が基本だ。次年度以降、別の大学が授業を開放して本学の学生が参加するということもあり得る」(成田特任教授)。
趣旨に賛同する企業とも連携し、支援ファンドを作ってもらったり優秀な学生を発掘する機会を提供したりするwin-winの関係をめざす考えだ。