2025.1201

自習講座で学習習慣が身に付き、初年次必修科目の再履修者が減少 -日本文理大学

入学前教育・初年次教育

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3行でわかるこの記事のポイント

●1期生は再履修者が多く、教員が対策を検討
●2期生から、2限目の空き時間は自習講座への参加を推奨
●2期生は再履修者の割合が5ポイント低下

大分市にある日本文理大学の保健医療学部は、開設2年目の2024年度から1年次全員を対象に毎日、午前中の空きコマを使った独自の自習講座を実施している。入学直後から主体的な学習習慣を身に付けさせ、着実な単位修得で資格取得を達成させるための支援だ。自習講座に伴走する教員に話を聞いた。


1期生の30%が1年次の必修科目を再履修

日本文理大学の保健医療学部は2023年度に開設された。保健医療学科に診療放射線学、臨床検査学、臨床医工学の3コースがあり、入学定員は160人。

「時代が求める『医療産業人』を地域社会へ」という理念を掲げる同学部だが、開設初年度、問題に直面した。年度末の時点で、1期生30.1%が必修科目(教養・専門)のいずれかで不合格となり、2年次での再履修を余儀なくされたのだ。

学習支援担当の岩﨑香子教授は「入学直後は意欲があっても、それまでの学習スタイルから脱却できず、不安を抱く学生がいる」と話す。特に1年次前期は、一人暮らしを始めたりアルバイトで帰宅が遅くなったりして生活の自己管理が難しくなり、それが学習にも影響を及ぼしがちだという。

早期の学習習慣確立について検討するため、学習支援委員会を設置

保健医療学部の3つのコースは医療系の国家資格取得をめざす積み上げ型のカリキュラムで、1年次前期から各コースの基礎となる解剖学や生理学などの科目履修が始まる。
2年次からはコース専門必修科目が増えるため、1年次のつまずきがそれ以降の学習の負担をより大きくしてしまう。
また、2年次の単位修得は3年次進級要件やCAP制による履修登録制限にも関わってくる。

こうしたことをふまえ、村中博幸学部長は、早期に学習習慣を確立することが学生にとって最優先だと考え、学習支援委員会の設置を提案。岩﨑教授を含む5人の教員が委員になった。

自習講座の目的は学習習慣の獲得や基礎学力向上

再履修が決まった1期生には進級前から個別支援を行う一方、2期生からは再履修者を出さないために、委員会が課題を洗い出した。
同大学には工学部と経営経済学部もあり、入学直後の国語と数学のプレースメントテストを全学で実施している。一定の基準に達しない学生にはこれら2科目の基礎学力講座の受講を課しているが、保健医療学部には追加の施策が必要だという結論に至った。具体策として初年次、「ブラッシュアップ講座(BUC)」による支援を始めることにした。

BUCの目的は
①早期に学習習慣を身に付ける
②基礎学力の向上
③規則的な大学生活を送れるようにする
の3つ。

各コースとも、1年次は1限目に必修科目があり、2限目は空き時間になっている学生が多い。
そこで、月曜~金曜の2限目(90分間)をBUCにあてた。直前に受けた必修科目の復習の時間とし、授業が入っていない学生に参加を推奨。学部の時間割にBUCを入れて教室も明記し、「この時間はこの教室に行って勉強する」という意識と行動を促した。

BUCの事前オリエンテーションでは「大学は高校までと違って主体的に学ぶ場である。BUCはあくまでも自習という位置付けなので、単位認定はしない。不参加でも注意はしないので、自分で納得した学び方を探してほしい」と呼びかけた。履修科目によって学生個々の参加可能な回数が異なるため、学習支援委員会の教員は履修登録状況から曜日ごとの学生リストを作り、参加を確認した。また、委員会の教員が担当する曜日ごとに課題を用意した。
回を重ねるうちに、BUCが単位修得につながることを実感した多くの学生が参加するようになった。

学生同士の教え合いを見守り、単独参加の学生をケア

BUCでは毎回、委員会が提供する10~15問程度の課題に30分ほど取り組み、ウェブ上で提出。残りの時間は学生同士で教え合いながら自習し、わからないところを教員に質問する。オフィスアワーもあるが、BUCはより気軽に参加でき、疑問をすぐに解決できる場となっている。

教員は主体的に参加する姿勢を尊重し、和気あいあいと学ぶ様子を見守る。盛り上がり過ぎて脱線しかかったら、勉強に戻るよう促すという。担当教員の一人・野村達八助教は「一人で参加している学生や質問をためらっている様子の学生にはさりげなく声をかけ、丁寧に向き合っている」と話す。
学生にとっては、自分の所属コース以外の教員にも気軽に質問したり話しかけたりできるよう、コミュニケーションに慣れていく場にもなっている。

BUC.png

学生はBUCに参加するたびに、どんなことをやったか、感想とあわせてポートフォリオに記入する。ポートフォリオは学習支援委員会の教員と共有しているため、教員から適宜コメントを受ける。主体的に学んだ記録を積み上げさせ、自信とモチベーションを高める工夫と言えそうだ。

参加率が高いグループほど「全科目合格」の割合が高い

2024年度の前期、BUCは計68回実施された。68回の「参加延べ人数」÷「参加できる(そのコマの授業がない)学生の延べ人数」で算出した平均参加率は71.2%だった。
前期の必修科目のうち一つでも再履修となった学生の割合は、1期生が23.0%だったのに対し、2期生は18.3%に下がった。再履修が2科目以上ある学生の割合も13.5%から11.0%に。  

BUC参加率を①67%未満、②67%以上85%未満、③85%以上の3グループに分けて分析したところ、参加率が67%以上だと全科目合格の学生の割合が高かった。
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一方、参加率の低い学生は、必修科目の欠席が多くGPAが低いこともわかった。

入学時の学力ではなく学習習慣が単位修得に影響

入学時の学力が合格・不合格に影響していないか確かめるため、全学のプレースメントテストとの関係も分析。国語の得点は3グループ間に大きな差はなく、数学はむしろ参加率の高いグループ③で得点の低い学生の割合が高かった。

これらの結果から、学習支援委員会は「前期の必修科目の単位修得には入学時の学力は影響せず、継続的な学習習慣を身に付けることが単位修得やGPAなどの成果につながる」と捉えている。岩﨑教授は「能動的な学習を繰り返すことで、学びに対するモチベーションを維持できるのではないか」と考えている。

BUC終了前に行ったアンケートで講座に対する満足度を5段階評価で尋ねたところ、「満足」と答えた学生は全体の94.7%に上り、そのうち60.6%が「高満足」だった。BUCについて、「時間の使い方」「コミュニケーションの場」「単位修得との関係」などの面で好意的に捉える学生が多かった。

ピアサポート学習の仕組みづくりやコース横断での支援を推進

初年度から手応えが得られたBUCの2年目以降について、岩﨑教授らはどのような課題を抱えているのか。
まず挙げたのは、学生の参加をさらに広げる必要性だ。「参加率の低い学生は正規の授業も欠席する傾向があり、生活習慣の乱れがドロップアウトにつながりかねない。主体性を重視しつつ、どのようにして参加を促すか、検討の余地がある」と語る。

この課題に対する手立てとして2025年度、学生同士のピアサポート学習を促進する仕組みづくりや、BUCでの個別支援の強化に取り組んでいる。これらについては「各教員が個々の強みを生かして、コース横断で学生を支援することが今後さらに重要になる」(岩﨑教授)と考えている。

BUC2年目となる3期生のデータは11月現在、解析中だが、前期はやはりBUCへの参加率が高い学生の方が全科目に合格する傾向だったという。
一方、2期生は、診療放射線学コースで2年次に受験する第二種放射線取扱主任者試験(国家資格)の合格者が前年より増え、岩﨑教授は「学力的な成果が見えつつある」と話す。

BUCの開始時には、主体的な学びの観点から学科内でも実施に賛否両論あったが、2期生は専門 科目だけでなく物理や化学などの選択科目の合格率も向上した。「継続的な努力が成果につながることを体感できた学生は、その自信がさらに謙虚に学び続ける力となっている」  と岩﨑教授。

日本文理大学では初年次の学力獲得だけではなく、卒業後も学び続ける力の育成をめざし、正課外教育活動としてのBUCに取り組んでいる  


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