2023.0616

大学の学修への移行を促す入学前教育と初年次教育を改善-北陸大学

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●その時々の学生の実態や課題に応じて継続的に見直す
●薬学教育担当のセンター設立以降、組織的に効果検証
●入学前教育の受講者データを指導や効果検証に活用

北陸大学(石川県金沢市)薬学部では、大学での学修へのスムーズな移行を促す入学前教育や初年次教育に力を入れている。その時々の学生の実態や課題に応じ、これらの内容と実施体制を継続的に見直してきた。基礎教育を担う薬学教育研究センターの設立以降は、入学者の追跡調査を通して改善の適否を組織的に検証し、次の見直しを検討しようとの機運が生まれている。


●初年次のゼミへのアクティブラーニング導入で主体性に変化

 北陸大学薬学部では、2006年度の6年制への移行後、入学者の学力が多様化し、身につけさせるべき学力要素が変わったという。そこで、初年次教育の充実を図った。その一つが2010年度の「基礎ゼミⅠ」の開講だ。「聴く・読む・調べる・整理する・まとめる・書く・表現する・伝える・考える」といったアカデミックスキルを修得させるこのゼミでは文章作成に重きを置き、独自のテキストをもとにリーディングやライティングを指導した。
 2017年度にこれを見直し、主体的な学びを促すことを重視してアクティブラーニングの手法を多く採り入れることにした。答えのない課題にグループ単位で取り組み、スタディスキルやスチューデントスキルを修得させる内容だ。薬剤師としての心構えや将来像を考えさせる課題を設定。教員の役割は議論のファシリテートなどのサポートに変わった。
 これにより、「学生の姿勢がかなり変わった」と薬学教育研究センターの武本眞清准教授は話す。「以前の『基礎ゼミⅠ』では、学生は基本的に指示待ちで受け身の姿勢が目立った。見直し後は、教員が何も言わなくても主体的に動くなど、徐々に成長するようになった。グループの内外で学生同士で話し合うことが刺激になっているようだ」。学生の主体性は「基礎ゼミⅠ」以外の授業でも表れ、提出する課題の質が向上したという。
 ストレート進級率(留年せず進級する学生の割合)も改善した。薬学教育研究センター長の高橋達雄教授によると、同大学の薬学部では化学の学力と進級率に相関があり、入学直後のプレイスメントテストの化学の得点が低い学生ほど、留年リスクが高い傾向にあるという。
 下図は、プレイスメントテストの化学の得点区分別に、4年次までのストレート進級率を示している。「基礎ゼミⅠ」を見直した2017年度以降、プレイスメントテストの化学の得点が30点台の学生の進級率が大きく改善した。

graph1.png
 
 「学修につまずくことなくストレートで進級するうえで、正しい学び方や必要な知識を身につけていることに加えて、他者と協力し合えることも大事な要素となる。学生がこれらの要素を修得しやすくなるように『基礎ゼミⅠ』を見直したつもりだが、教員の入れ替わりなどもあり、進級率改善の要因は複合的かもしれない。また、3、4年次はストレート進級率が向上する一方で2年次進級率にはあまり差が見られなかったことや、化学30点未満の学生のストレート進級率が依然低いことなど、まだまだ改善の余地は大きい。こうした点もふまえ、何が改善の要因となるのか、引き続き分析したい」(高橋教授)。

●教育の負担を抑えつつ効果を上げることが入学前教育の課題に

 薬学部では入学前教育についても改善を図ってきた。
 入学前教育は2005年度、推薦入試による入学者全員を対象に開始。当初は外部プログラムのDVD教材で生物や化学などの復習を促した。しかし、課題を郵送するだけで学内から提出の促進はしなかったため、課題完了率は低かった。
 そこで、教職員が受講者と接する機会を設けようと、2013年度に入学前集合研修「薬学関連セミナー」に変更。大学の講義室でDVD教材を視聴してもらい、最後に各科目について質疑応答の時間を設定した。
 この形式で3年間実施するうちに、教員の負担の大きさが指摘されだした。そのため、2016年度からは集合研修における化学の復習を対面講義に切り替え、学外の講師に担当してもらうことにした。外部講師による個別面談も設けるなど、丁寧な指導によって参加者の満足度は高かった。
 2018年度には薬学部に薬学教育研究センターが設置され、現在は高橋教授と武本准教授が所属する。同センターは、学修につまずくことなく6年間で卒業できるよう学生を支援するという課題の下、基礎教育や入学前教育を担当する。
 高橋教授は「薬学部の教員はセンター設置以前から、基礎ゼミや入学前教育について見直しを重ねてきた」と話す。従来、教員が個別に検証していた教育の効果については、センターが中心になり組織的に考えるようになった。入学者の追跡調査や指導時の手応えをもとに、教員間で「ここをこのように改善した方が良い」と話し合う風土ができつつある。
 入学前教育について、高橋教授は「外部講師による指導は充実していたが、私たち教員が入学前後の学生と直接関わって教育のあり方を考え直さなければいけないタイミングだった」と語る。教員が負担を抱え過ぎることなく、スムーズに高校と大学の学びを接続させるためには、どのような入学前教育にすべきかをセンター教員と考えた。

●入学前教育受講前に意義を説明し、モチベーションを高める

 2019年度に新たに導入した入学前教育は、薬学系の学問系統に沿ったプログラムだ(薬学系入学前教育プログラム)。武本准教授は「生物・化学という高校までの科目のリメディアルだけではなく、薬学の専門的な学びに興味を持たせる仕掛けがなされている」と説明。教育関係の事業者との連携によって課題提出促進など運用の負担を減らしつつ、納品される定量・定性の受講データをもとにきめ細かい指導や実施後のスピーディな検証ができるようになった。
 武本准教授は2019年度の薬学系入学前教育プログラムの効果を検証した。同プログラム受講者を4月のプレイスメントテストの総合得点をもとに上・中・下位の各層に区分し、それぞれ同じ区分の未受講者との間で、プレイスメントテストの総合得点平均点、①1年次後期の専門科目GPA、②2年次ストレート進級率を比較。

graph2.png

 プレイスメントテストの総合得点平均点にはあまり差がなかったが、①1年次後期専⾨科⽬GPAと②2年次進級率は、すべての得点区分(とりわけ中位層と下位層)でプログラム受講者の⽅が⾼かった。武本准教授は「基礎学力や学習量に課題がある入学者をいかにスムーズに大学教育に接続させるかが課題なので、2019年度の入学前教育の見直しは適切だったと言っていいのではないか」と話す。
 2023年度も、入学前教育に工夫を加えた。同センターは「受講のモチベーションが上がれば、受講前後の確認テストの得点上昇率は高くなるだろう」と考え、プログラムに取り組む意義をしっかり伝えることにした。受講期間中に教員によるオンライン面談を実施し、プログラムの目的、その内容が入学後の学びと将来にどう結びつくかを説明し、モチベーションを高めた。受講中は事業者から提供される取り組み状況やアンケート回答等のデータに基づいて、入学までの学修計画を立てさせるなど、継続的な学習を促した。
 前年度の受講者と2023年度入学の受講者との間で、確認テストの得点上昇率を比較したところ、前年度の受講者は+7.6%だったのに対し、2023年度入学者は+13.2%だった。高橋教授は「入学者の学力の多様化によって今回の方が伸びしろがあったとも言えるが、モチベーションを高めるための教員の適度な関わりについて手応えを感じている」と話す。

●教育を見直した目的を考えながら、効果を検証

 高橋教授は「入学準備期間や入学してからの1か月間という非常に大事な時期に、学生にいかに多くのことを提供できるかを考えたい。入学前教育や基礎ゼミには、薬剤師としてのあるべき姿を学生に考えさせる重要な役割がある」と話す。
 武本准教授は「入学時に基礎学力が足りなくてもストレートで進級する学生もいる。それは教員の力ではなく、薬剤師をめざすうえで自ら目標を持ち、仲間と一緒に努力できるからだろう」と語る。「教員の役割は、学生同士が学び合う環境や成長する仕組みを絶えず整備すること。基礎ゼミをはじめとする授業では、そういう意識を持ちながら日々の指導にあたっている」。
 北陸大学薬学部は、その時々の学生の課題に応じて入学前教育や基礎ゼミの中身と教員の関わり方を絶えず見直してきた。薬学教育研究センターの設置以降は「学生にとって効果的な教育ができているか、教育の結果を振り返って検証すべきだ」という意識が生まれている。
 「効果検証で特に大切なのは、教員全員が共通の目的意識を持ってデータを分析すること」と高橋教授は言う。「学内には学生に関するデータが大量にあるが、それらを漠然と収集するだけでは何もわからない。基礎ゼミも入学前教育も、どういう目的で見直したのかを考えながら妥当なデータを収集し、検証の精度を高めていきたい」。


*入学者育成研究会による「入学前教育・スクーリングの効果検証の仕方」資料ダウンロードページはこちら
*進研アドの「入学前・導入教育『学問サキドリプログラム』」のご案内はこちら