2024.0304

基礎教育と専門教育を横断するプロジェクト型授業を初年次教育でスタート-崇城大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●初年次は専門知識を要しない課題で汎用的能力育成と専門への動機づけを図る
●学生の成長を最大化するため、基礎教育と専門教育の接続を重視
●専門科目へのプロジェクト型授業導入を全学の総合教育センターが先導

崇城大学(熊本市)では、学修した知識と技術を実社会で生かす実践力をきたえる「SOJOプロジェクト教育」を構築中だ。そのスタート科目として、初年次教育のPBL型科目「SOJO基礎」を開講している。学生の成長を最大化するために、基礎教育課程と専門教育課程の連携も重視。2年次以降の専門科目でも「SOJOプロジェクト教育」を展開すべく、「SOJO基礎」に接続するPBL型教育が試行されている。その先導的な役割を担うのが、総合教育センターの初年次教育・キャリア教育部門だ。


4年間にわたる展開を想定した「SOJOプロジェクト教育」

崇城大学(旧熊本工業大学)は工科系単科大学として1967年に創設された。2000年に校名を変更し、現在は工学部、情報学部、生物生命学部、芸術学部、薬学部の5学部9学科を擁する。
学生のポテンシャルを最大限に引き出して変革の激しい社会で活躍できる人材に育てるという目標の下、2019年度にカリキュラム改革を行い、「SOJO教育刷新プログラムⅡ」をスタートさせた。新たなカリキュラムは、基礎教育や専門教育、キャリア教育など、あらゆる教育を有機的に連携させるという基本理念に基づいて設計されている。
その教育の柱のひとつとなるのが、全学共通の基礎教育課程から専門教育課程まで4年間にわたる展開を想定した「SOJOプロジェクト教育」で、学年ごとの専門性の深化に対応するPBL型授業を試行し、重層的な展開を目指している。

「汎用的能力の修得には継続的、反復的な学修が重要」

汎用的能力の修得には継続的、反復的な学修が重要との考えの下、「SOJOプロジェクト教育」では専門知識の活用を段階的に深化させていく。
これを推進しているのは、全学の基礎教育課程を担当する総合教育センターの初年次教育・キャリア教育部門だ。そこに所属する藤本元啓教授は「企業が学生に主体性、コミュニケーション力、チームワーク等の汎用的能力を求める一方、理工系の学生は、大学の授業でこれらの能力を修得する機会が少ないと感じている。『SOJOプロジェクト教育』で修得機会を提供し、学生と社会双方のニーズに応えたい」と説明する。

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「SOJOプロジェクト教育」のスタート科目として2019年度に導入したのが、全学共通の初年次教育「SOJO基礎」だ。工学部・情報学部・生物生命学部は前後期必修科目として「SOJO基礎Ⅰ・Ⅱ」、薬学部は選択必修科目として「SOJO基礎(薬学)」を開講。いずれも1クラス30人で計24クラスを編成。総合教育センターの教員約15人が授業を担当している。
この科目にはキャリア教育の要素も取り込まれ、身近な問題解決を通して情報収集、討議、発表、協働等の基礎的能力を身につけさせると同時に、キャリア意識を育てる。

学科の専門領域の課題を一般的知識に基づくアイデアで解決

「SOJO基礎Ⅰ・Ⅱ」では、前期・後期合わせて3つのテーマに取り組む。
「崇城大学HPの探究」「所属学科研究室の調査」といったテーマの下、チームビルディングに取り組んだり、学科の学びの領域を理解したうえでキャリアデザインを行ったりする。
最後のテーマ「教員提供課題のアイデア的解決」では、企業等から提供されるという想定の下、教員が出す課題に取り組む。
例えば、工学部機械工学科の課題は「ドローンを使用したこれまでにないビジネスの提案」、情報学部情報学科は「農業や漁業分野へのAI活用の提案」など、学科ごとの専門領域に対応しているが、専門的な探究ではなく、1年次でも備えている一般的な知識を基にアイデアレベルでの解決を考えさせる。
そのプロセスを通して汎用的能力を修得させること、社会や就職について考え、その後の専門分野の学びへの動機付けをすることを目的としているからだ。
同大学には2・3年次の選択科目として、企業との協働による課題解決型のコーオプ教育プログラム(「キャリアプレコーオプ」「キャリアセミナー」)がある。「SOJO基礎」は、その履修に向けた準備の役割も果たしている。
「『解のない問題』にチームで向き合い『アイデア的な解決』に挑む経験が、自らを能動的学修者に転換していくスタートになる。PBL型授業で討議とプレゼンテーションを繰り返すことによって、協働やチームヘの貢献、相互評価の重要性に気づいて内省を深めることができる」と藤本教授は語る。

各学科がPBL型授業の導入を試行

「SOJO基礎」の導入から5年がたち、初年次のPBL型授業が各学部・学科に定着してきた。現在はその成果を2年次以降の学修に接続させようと、専門教育課程に「SOJOプロジェクト教育」を導入する試みがなされている。
「SOJO基礎」導入時に教育改革本部長だった藤本教授が、「SOJOプロジェクト教育」の基本指針を発案。各学科はこれに基づき、専門科目へのPBL型授業導入を図りつつある。「SOJO基礎」で修得した知識やスキル、および学年のレベルに応じた専門基礎的な知識と技術を使って企業等から提供される課題に取り組むというのが、2年次以降の「SOJOプロジェクト教育」の基本方針だ。

藤本教授は「学科の専門科目に、チームで課題解決に挑む教育方略が、徐々にではあるが浸透しつつある。本学ではPBL型授業の導入が遅れていたが、初年次教育で取り入れ、専門教育で発展させるという方向性がようやく明確になってきた」と話す。

過去の反省をもとに全学的視点による教育デザインに取り組む

崇城大学では「SOJOプロジェクト教育」の導入以前も、学生の成長を最大化することを目的に、リメディアル教育、初年次教育、キャリア教育、教養教育等をすべて連動させた「基幹キャリア教育分野」科目群を設けていた。
しかし、当時は科目群全体を見渡して調整的な役割を明示的に担う部署がなかった。そのため、「科目群としての教育目標がなく、担当教員任せになり、科目間の整合性や連続性もなかった」(藤本教授)。

その反省から、2019年度のカリキュラム改革では全学的視点での教育デザインに取り組んだ。「SOJOプロジェクト教育」の基本指針を全学に浸透させるために、初年次では「SOJO基礎」において、総合教育センターが各学科の専門領域を反映しながら、その後の専門教育に橋渡しする体制にした。

産業界との協働による教育の構築もめざす

藤本教授は「これまでは基礎教育課程と専門教育課程との間に『相互不干渉の壁』があり、それが学生の知識・スキル修得とその実践の分断を招いた。これでは学生本位の教育とは言えず、学生の成長を最大化するためには基礎教育課程と専門教育課程との有機的な連携が不可欠だ」と語る。
その組織的な実現には、全学的な視点で教育をデザインする責任と権限を持つ部署が必要との認識が、カリキュラム改革の起点になったと言えよう。

「理工系中心の本学では、基礎教育と専門教育の接続という基盤の上に産業界との協働による教育を構築することも重視している」と藤本教授。近年は学生が地元企業から提供される課題の解決に取り組み、企業から評価を受ける新たな実学教育の兆しが各学科で生まれていると言う。
「学生の自主的、創造的な学修姿勢を育てるためには教員の意識変革と新しい教育体系の構築が欠かせない。スピード感をもってこれらを進められるよう、教育改革推進部署を常設する必要がある」


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