2024.0131

入学前教育の受講データを入学後の要フォロー学生の指導に活用-大分大学

入学前教育・初年次教育

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3行でわかるこの記事のポイント

●自前の入学前教育では問題解決が難しく、外部プログラムに切り替え
●高校の数学・物理の重要性を理解しながら復習に取り組める理工系教材
●受講データに基づくグループ編成で教員の負担を平準化

国公立大学の2024年度入試における総合型選抜と学校推薦型選抜の募集人員の合計は、全体の23%を占めた。国公立大学でも一般選抜の募集人員を減らして年内入試に移す動きが広がり、同時に入学前教育に対する関心も高まっている。大分大学理工学部理工学科知能情報システムプログラムは、2023年度入学者から外部の教育事業者が提供するプログラムを活用して入学前教育を刷新。要フォロー学生の抽出など、受講データを入学後の指導に活用している。


年内入試と一般選抜、それぞれの入学者の基礎学力の差を危惧

大分大学理工学部理工学科知能情報システムプログラムでは、ICTの基礎に加え、ビッグデータ活用のためのマルチメディアや知識処理の最新技術を学ぶ。2023年度の学部改組に伴い、プログラム全体の募集人員の目安が60人と設定され、そのうち総合型選抜と学校推薦型選抜の年内入試枠はそれぞれ5人、9人となっている。

年内入試による入学者と一般選抜による入学者の間での基礎学力や学習習慣の差は、以前から危惧されていた。
入試方式に関係なく、プログラムの入学者全体に共通する問題もあった。入学前教育の見直しを推進した中島誠教授は「知能情報という最先端の学びにおいても高校の数学・物理の知識が必要不可欠であることを真に理解できていない者もいて、基礎学力が十分でない年内入試の入学者は、入学後の戸惑いが特に大きい」と話す。

そのため、年内入試の入学者に対しては、これらの入試方式を導入した直後から入学前教育を実施。「英語・数学で復習しておくべきこと」を文書にして合格者に郵送し、自習を課した。さらに、数学・物理の大切さを伝えることを目的に参考図書を指定し、感想文を提出させた。
しかし、この入学前教育の効果は必ずしも十分とは言えなかったようだ。学力試験を経ていない対象者の一部は学習習慣が定着していないため、課題を与えるだけでは主体的に取り組むことができない。参考図書に託したメッセージもなかなか伝わらず、基礎学力の向上には結びついていなかった。

学部改組を機に2023年度入学者から、外部のプログラムを導入して入学前教育を刷新することを決めた。

課題提出状況をモニタリングして学習習慣の定着を促す

知能情報システムプログラムは、数ある外部の入学前教育プログラムの中から、入学まで学び続けられる学習量であること、数学と物理の基礎学力を底上げできる内容であることを条件にして選択。対象は引き続き年内入試による入学者で、費用は知能情報システムプログラムが負担している。

導入した入学前教育プログラムでは、課題提出状況をオンラインで管理。提出が遅れている受講者には個別に連絡し、学習スケジュールを意識させる。プログラム提供事業者との連携によって教員の負担を軽減しつつ、課題としていた学習習慣の定着を図っている。
学問系統別のラインナップから選んだ教材は、身近な暮らしに生かされている技術の基になる理工系の学びを紹介。その学びと関連付ける形で、数学や物理の問題を解く構成になっている。専門分野に対する興味・関心を高めながら、高校で学んだ科目の重要性を自然に理解して復習できる点が、教員に評価されている。

「外部の専門家との連携で、教員はより手厚い指導を」

入学前教育プログラム修了後には提供元から受講データが納品される。学習に関するアンケート、課題の取り組み状況やテストの結果から受講者の「学力」と「学習力」を割り出し、入学後につまずくリスクの高い要フォロー学生も抽出して示す。
受講結果報告会では他大学の一般的傾向も交えて説明を受け、入学者の全体傾向と個々の学生の特徴や課題を把握。これを基に入学後の指導を検討することができた。

2023年度入学者について、学年の担当教員は「要フォロー学生など、受講データから割り出された分析結果は、実際の指導におけるわれわれの肌感覚とほぼ一致している」と説明。
入学直後のグループ分けでは、特定の教員に負担が偏らないよう、受講データを基に要フォロー学生を分散させることができた。これらの学生の状況や対応の工夫について、教員間で情報を共有しながら指導にあたっている。

中島教授は「本来は教員自ら教材を作るのが理想的だが、その余裕がないのが実情だ。外部の専門家と連携して入学前教育の品質を担保し、教員はより手厚い指導に時間をかけたい」と話す。

受講データを面談の優先順位づけにも活用

今後は、入学前教育の受講データを活用して学生とのコミュニケーションを強化したい考えだ。
これまで、本当に必要な学生に対して個別面談を実施できていないという悩みがあったが、基礎学力に問題を抱えがちな入学者については、受講データを基に面談の優先順位をつける予定だ。データを参照しながらきめ細かい指導ができる点にも期待している。

中島教授は「同じ要フォローの学生でも、課題提出等を『やらなかった』のか『できなかった』のかによって指導が違ってくる。2年目となる2024年度入学者については、プログラム提供元と連携し、データ分析の解像度をさらに上げたい」と話す。

入学前教育以外の施策も取り入れ、より円滑な高大接続を図る計画もある。
高校の普通科から知能情報システムプログラムに入ってくる学生にとって、初めて学ぶプログラミングは負担が大きく、つまずきがちだという。
中島教授は「入学後のプログラミング教育については時代の流れに則して改革を進めているので、安心して入学してほしい。ただし、入学前から情報分野に触れ、少しでも慣れておくことは大切だ。合格を目的にしなくていいので、基本情報処理技術者試験やITパスポートの試験を入学前から受けるよう促す施策も検討している。入学後の成長をより大きなものにできるよう、入学前からの準備を積極的に支援していきたい」と話す。


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