2024.0513

入学前教育のスクーリング①徳島文理大学
保護者の不安を解消し、サポート体制の一員として組み込む

入学前教育・初年次教育

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3行でわかるこの記事のポイント

●個別面談での励ましと助言で課題完了率の向上を図る
●受講生同士の交流による協同学習のコミュニティづくり
●保護者も参加し、カリキュラムに対する理解を深める

入学前教育の一環としてスクーリングに力を入れている大学を紹介するシリーズ、初回は徳島文理大学の香川薬学部を取り上げる。保護者もスクーリングに参加する点が特徴で、薬学部のハードなカリキュラムについて理解を深め、学生の成長を支える「同心円状のサポート」に加わってもらうユニークな実践だ。


年内入試合格者とその保護者が抱く不安

徳島文理大学は、徳島キャンパスに薬、人間生活、保健福祉、総合政策、音楽の5学部、香川キャンパスに香川薬、理工、保健福祉、文の4学部があり、入学定員は合わせて約1300人。

香川薬学部では約40人の入学予定者のうち、総合型選抜と学校推薦型選抜の合格者約20人に入学前教育を必修で課している。実施の目的は、入学予定者の①学力向上、②特性の把握、③不安の解消、の3つだ。

①学力向上
入学後の指導がスムーズになるよう、一般選抜による入学者との学力の差を縮めることが第一の目的だ。

②特性の把握
受講生一人ひとりの学習意欲や学習習慣、パーソナリティを把握し、入学後のフォローにつなげたいという考えがある。

③不安の解消
香川薬学部の竹内一准教授は、高校訪問などで聞く話をもとに次のように話す。「年内入試による入学予定者は、合格から入学までの数か月間をどう過ごせばいいか不安になる。保護者も合格通知の後、大学からの連絡が途絶えると、わが子は大学の授業についていけるのか、今のうちにやっておくことはないかと落ち着かない」。入学前教育プログラムを通して大学と入学予定者が早期につながりケアすることによって、こうした不安を解消し、高校教員や保護者との信頼関係を築きたいという意図がある。 

意欲向上を促すテキストを評価し、長年にわたり活用

香川薬学部では2016年度から、外部の入学前教育プログラムを活用している。大学での学びに対する意欲の向上を促すテキストは、「薬学系」を採用。高校段階の教科学力の底上げを目的とするテキストは、生物と化学を採用している。

竹内准教授は特に前者のテキストを高く評価する。「教科の教材と違い、大学での学びを紹介して意欲や期待を高めるようなテキストは、われわれ教員にはなかなか作れない」。

長年にわたりこのプログラムを使っているもう一つの理由が、受講生一人ひとりの受講データを得られることだ。データは、後述するように面談の参考資料として活用されている。

「6年間、頑張り抜くためには保護者のサポートが不可欠」

香川薬学部の入学前教育では、スクーリングにも力を入れている。教員が直接、受講生を励ましたりアドバイスしたりすることによって、前述したテキストの課題完了率の向上を図る。受講生同士をつないで協同学習のコミュニティづくりを促すことも意図している。これらが、入学前教育全体の目的である学力向上や不安の解消にも結び付いている。

「オンラインで提出する課題の進捗を日々モニタリングし、必要に応じて声がけをしても、提出が滞る受講生がいる。直接向き合って滞りの原因を聞き出し、アドバイスすれば、残りの期間の取り組み方が大きく変わる」と竹内准教授。

保護者にも参加してもらうユニークなスクーリングについて、竹内准教授は次のように説明する。「大学と言えばかつての緩いイメージしか浮かばない保護者には、資格取得をめざす薬学部のハードなカリキュラムが想像できない。必修科目で時間割が埋まり、朝から夜まで実習や演習で拘束されることも多い6年間を学生が頑張り抜くためには、保護者の理解とサポートが不可欠だ」。

入学前のスクーリングが、保護者に対してもカリキュラムや大学のサポート体制について説明し、安心感を与えて自らもサポーターの一人だと認識してもらう場になっている。

グループワークでは教員が前面に立たず側で見守る

スクーリングは2月下旬の日曜日に実施。約3時間で、「ガイダンス」「学生同士、および保護者同士のコミュニケーション」「個別面談」を行う。

〈ガイダンス〉
カリキュラムの概要を説明し、入学に向けて準備すべきことを学修と生活の両面から伝える。

〈受講生同士のコミュニケーション〉
各自、「入学後にやりたいこと」を5つずつ付箋に書き、それをもとにグループでディスカッション。KJ法(断片的な情報・アイデアを整理するブレーンストーミングの手法)で整理する。

教員は必要に応じて助言する程度で、受講生が自分たちの考えに沿って主体的に進める。「今どきの若者は指示されなくても、やるべきことについて納得できれば主体的に動ける。教員は前に立って引っ張るのではなく、側で見守ることが大切」(竹内准教授)。

受講生が他のメンバーの目標を聞いて刺激を受けたり、ワークを通して仲間意識を高め、助け合う関係を築いたりしてほしいとの期待がある。

〈保護者とのコミュニケーション〉
保護者にも「大学生活を通じたわが子への期待」をテーマに、KJ法でディスカッションしてもらう。竹内准教授は「他の保護者の考えを聞くことによって大学教育に対するイメージがシャープになり、わが子への向き合い方を深く考え直す。そうした気づきに基づくサポートが、学生の6年間での成長度や満足度を高める」と話す。

受講生と保護者が意見を交わしたり、保護者が教員に質問したり要望を述べたりする場も設けられる。

〈個別面談〉
教員が、入学前教育プログラムの受講データ(課題の提出状況や得点)、受講前アンケート(高校での履修科目や学習習慣)などの個人票をもとに、課題への取り組み状況について聞き、困っていることや入学後の不安に対してアドバイスをする。

「課題の提出期限や提出方法がわからないために滞っているなど、対面でないと聞き出せないつまずきがあったりする。面談を通して、受講データだけではわからないコミュニケーション力や個性も把握できる」と竹内准教授。

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グループワークや面談で把握したコミュニケーション能力や個性は、プログラムの受講データと共に学内のシステムに蓄積し、教員間で共有する。各教員はチューターを担当する学生の強みやリスクを早めにつかみ、適切なフォローにつなげる。

入学前教育と一体的に運用される初年次教育においても、指導の参考データとして活用される。

多様なサポーターを巻き込む体制で多様な問題に対応

ここまで述べてきたように、高校から大学への学びの移行期において、竹内准教授が重視するのが協同学習のコミュニティづくりだ。「学生を孤立させないことが何より大切。孤立によって『次の授業は教室が変更になった』『課題の提出期限が早くなった』といった細かな情報をキャッチしにくくなり、そこから意欲や学力の低下、ひいてはドロップアウトにつながる」。

逆に、一緒に頑張る仲間がいれば学生はめざましく成長するという。だから、意欲の乏しい学生や学習方法がわからない学生は、逆のタイプの学生と同じグループに入れて一緒にワークをさせるよう心がける。「気になる学生がいたら、友達はいるのか、学内に居場所があるか注意深く見てケアをする」。

こうした配慮の一方で、竹内准教授は、学生のサポートの全てを教員だけで背負うのは現実的ではないとも考えている。提唱するのは、多様な担い手による「同心円状のサポート」だ。

「同級生や先輩、さらには保護者や学内の学習支援センター、外部の入学前教育プログラムなど、対象学生とのさまざまな距離感をもつサポートを多層的に組み込めば教員の負担が減り、その分、教員ならではのサポートに注力できる。担い手が多様であれば、どんな問題を抱える学生であっても何らかの対応ができるし、誰かが一時的に同心円から離脱しても別の誰かがフォローできる。いいことづくめだ」。

入学予定者を手厚くサポートし、成長させる取り組みを伝えるべく、今後の高校訪問では、テキストの見本を示して入学前教育プログラムについて紹介する計画もある。共感する高校教員を同心円に組み込むことによって、サポート体制はさらに強固なものになりそうだ。

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