2023.0213

国の基金による理系学部設置等の支援は最長10年間、20億円程度まで

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3行でわかるこの記事のポイント

●理・工・農×「デジタル」「グリーン」分野への転換を促す
●収容定員を増やさないスクラップアンドビルド方式を優遇
●大学院レベルの機能強化による高度デジタル専門人材育成も支援

文部科学省はこのほど、3000億円の基金を活用して、大学による「デジタル」「グリーン」等の特定成長分野の学部設置等を継続的に支援する事業の案を公表した。理・工・農の3分野を対象に、最長10年間、20億円程度までの支援を予定。デジタル分野の高度専門人材を養成する大学院レベルの教育も支援する。対象校の要件等を近く確定し、年度内にも申請受け付けを開始する。

*文科省の資料はこちら
*1月25日の大学分科会で配付された全資料はこちら
*参考記事はこちら(Between情報サイト)


●理・工・農いずれかの学位分野を含む融合分野も対象

 デジタル化や脱炭素等、世界的課題への対応を迫られる中、日本では大学で理工系を専攻する学生がOECD平均より低いことに、政府は危機感を強めている。そこで、単年度ごとの助成ではなく、基金による継続的な支援を行うことによって、大学の学部再編等を促す。
 文部科学省は基金創設のため、2022年度第2次補正予算で3002億円を確保。政府を挙げて取り組む「デジタル」「グリーン」を「特定成長分野」に位置づけ、これらの分野をけん引する人材の育成を支援する。具体的には理学・工学・農学の各学位分野、およびこれらのいずれかを含む融合分野が対象となる。教育に反映すべき「デジタル」「グリーン」の具体的中身について、文科省は「詳細は未定だが、大学の意欲的な取り組みを尊重したいので、構想があれば相談してほしい」と話している。

●設置審で認可されなかった場合の継続支援も想定 

 文科省はこの事業の中で「支援1」と「支援2」の区分を設定。支援1では公立大学と私立大学を対象に、学部再編等によるデジタル・グリーン分野への転換を支援する。支援2ではデジタル分野の高度専門人材の確保に向けて、国公私立大学を対象に、原則として大学院の体制強化を支援、高専も対象にする。
 支援対象に選定された場合も、設置認可申請や届け出等、従来の手続きは必要となる。検討段階の支援は最長3年間を想定、支援期間全体は完成年度まで最長10年間とし、学部設置等がスムーズに認可されない場合も計画の練り直しや設置準備の支援を継続する。
 この事業については、文科省が策定する基本指針の下、大学改革支援・学位授与機構が新たな業務として大学からの申請受け付け、助成金交付等にあたる。早ければ2023年3月末にも申請の受け付けを開始。支援対象校は有識者の委員会が選定する。

●支援1は2032年度まで申請を受け付け、2027年度までは補助率を優遇 

 2種類の支援について詳しく説明する。
<支援1>
 学部・学科の設置や収容定員増について検討・準備段階から完成年度まで継続的に支援。検討体制構築の経費、施設設備整備費、学部等開設後の戦略立案経費等について、定率で20 億円程度まで補助する。
 2032年度まで申請を受け付けるが、迅速な学部再編等を促すため、2027年度までの申請については補助率を優遇する。また、18 歳人口の減少をふまえたスクラップアンドビルドを重視する観点から、総収容定員の増加を伴わない取り組みも補助率を優遇する。

<支援2>
 情報科学系学部・研究科を持つ大学が対象。大学院の研究科・専攻・コース等の設置・定員増や課程の見直しを中心に、これに伴う学部段階の学部・学科・コースの設置等も支援する。すでに大学院レベルの教育がなされていることを原則とするが、学部段階での専門人材育成の実績を持つ大学については、一定数に限り、新たな研究科の設置も対象にする方向で検討されている。
 施設設備整備費、教員人件費等について定額で10億円程度まで補助する。申請受け付けは原則として、2025年度まで。
 この支援によって国立大学が学部の定員を増やす場合 、一定の期間内に他学部・他学科を中心に同規模の定員削減をする必要がある。 

●応募資格として高等教育修学支援制度の機関要件を適用

 支援対象となる大学や取り組み内容について説明する。
<応募の資格要件>
①高等教育修学支援制度の機関要件を満たすなど、財務状況や収容定員充足率が適正であること。
 修学支援制度についてはこれら経営に関わる要件を厳格化する方向で、基金事業においても見直し後の要件が適用される。
②社会的な人材ニーズがすでにある分野の学部設置等であること。
 支援1については、地域における関連企業等との事前協議が必要だ。
③支援2(大学の場合)については、大学院段階までの人材育成の取り組みで、高度情報専門人材育成の実績があること。
④支援2については、文科省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」に認定されているか、認定申請の予定があること。

<審査の観点>
(1)特定成長分野における学生数の拡充を図る取り組みである。
(2)学生確保の見通しが十分にある。
(3)適切な管理・教育体制の確立の見通しが立っている。
(4)支援1については、18 歳人口の動態をふまえた再編等である。
(5)産業界等のニーズをふまえた体系的な教育カリキュラムや体制が構築されている。
(6)実務経験のある教員による授業科目を設ける。
(7)初等中等教育段階の学校との連携に関する取り組みを行う。
(8)女子学生確保の取り組みを行う。
 基本的には、これらすべてを満たすことが求められるが、それぞれの程度については文科省が検討している。