2018.0925

文科省が学生調査実施へ-学生本位の政策への転換、大学の活用をめざす

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3行でわかるこの記事のポイント

●2019年度は試行調査を予定し3000万円を要求
●1年次と4年次に実施し、成長実感や満足度の要因を把握
●「学生の声は大学を変えられる」というメッセージを発信

文部科学省は2019年度から大学生を対象に教育満足度調査を実施する方針を固め、概算要求に必要経費を計上した。学生の声をふまえた政策立案へと高等教育行政のあり方を転換し、調査結果の公表によって各大学の改革にも生かしてもらう考えだ。「いわゆる難関大学に劣らぬ教育力がある大学を浮かび上がらせる」というねらいや今後の検討課題について聞いた。


●大学改革の成果が学生に伝わっているかを確認

 文科省の学生調査では、1年次と4年次を対象に成長実感(教育による伸び)と教育満足度について質問する方向だ。授業内容やアクティブラーニング、オンライン授業など手法に対する満足度、教員との関係性などについて評価してもらい、成長実感と教育満足度を高める要因について分析する。学修時間はどのような聞き方がよいか検討したうえで設問に加えるか決める予定で、設問の数は極力抑えたいという。
 多くの大学が独自の学生調査を実施し、企業・団体が提供する汎用的調査も広く行われている中、今なぜ、国による調査なのか。文科省の担当者は「大学改革の成果を直接、享受する立場である学生の声に耳を傾けることで政策の妥当性を検証し、課題を発見して修正したり新たな政策立案につなげたりしたい」と説明する。調査結果を公表することによって各大学の改革に活用してもらおうとのねらいもある。
 背景には、これまでの高等教育行政に学生の視点が欠落していたとの問題意識がある。さまざまな施策や各大学の実践によって改革が進んできたとの自負があるが、例えばGPA制度の導入状況について大学対象の調査は実施しても、実際にその効果が実感されているか学生に確認することはなかった。
 「中教審でも大学団体や産業界、自治体等からのヒアリングはしているが、学生に来てもらったことはないし、いざ呼ぼうと思ってもどうやって誰に声をかければいいかもわからないのが実情。国が直接、学生とつながる仕組みが必要だと考えるに至った」(担当者)。さまざまな場を通じて「学生にも政策や自分の大学に対するしっかりした考えや思いがある」と感じるという。「声を上げることで自分自身や後輩たちの学びがより良い方向に変わる、学生にも大学や社会を変える力があるというメッセージを発信することこそが、国が学生調査をやる意義だと思う」。

●受験生の大学選びに活用される情報公表をめざす

 将来的には全学生に対して調査を実施したい考えだが、2019年度は一部の学生を対象とする試行調査を念頭に予算3000万円を要求。10月に予定される文科省の再編で「教育分野におけるEBPM(客観的根拠に基づく政策立案)」の推進を担うべく新設される総合教育政策局調査企画課(仮称)と高等教育局とが連携して実施する。
 11月頃に予定される中央教育審議会大学分科会の将来構想部会の最終まとめでは「全国的な学生調査」の必要性が提起される見通しだ。これを受け、文科省内に協力者会議を設け、試行調査の方向性を検討。早ければ2019年の秋から冬にかけて調査実施という方向になっている。大学の協力を得て学生を確保するのか、コンソーシアムや企業・団体が有する学生ネットワークを活用するかといった点や調査の公表方法は今後の検討課題となる。
 受験生の大学選びに活用してもらえる情報の提供が前提となるが、一覧形式や相対的な順位がわかる形での公表には大学の懸念が強いことも考慮したい考えだ。担当者は「すでに学生調査を行っている大学にとっても、教育改革の成果を比較できるベンチマークとして活用される調査、学生からも積極的な協力が得られる調査になるよう、大学関係者も加えて丁寧に議論していきたい」と話す。初年度の試行調査については全体傾向のみにとどめることも視野に、何等かの公表はする方向だ。
 「大学の本当の価値は入試難易度ではないはず。4年間の伸び幅や学生の満足度に差がないなら、地方の小さな大学もいわゆる難関大学に劣らぬ教育力があると言える。例えば、小中高の学習でつまずいても、学び続ける意義を見出し、社会の中で自分の役割を果たせるような力をつけて送り出している大学もある。そんな大学に光を当てられる調査をめざしたい」


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