追手門学院大学~アサーティブ入試の検証から施策の改善・立案へ(下)
学生募集・高大接続
2018.0515
学生募集・高大接続
3行でわかるこの記事のポイント
●入学前から大学での学び方について理解を深め、入学直後のつまずきを防止
●入試方式にかかわらずアサーティブプログラムを受講した入学者を増やす
●アサーティブの知見を全学の教学支援に生かすために組織を改編
追手門学院大学は、アサーティブプログラムとアサーティブ入試の成果を検証する実証研究の結果、ねらい通りの学生を迎え入れられていることを確認した。一方で2年次進級時にいくつかの課題も見つかったため対応策の検討を進め、一部で着手している。今回の研究の成果は、アサーティブ施策の改善だけでなく全学生を対象にした成長支援にも生かされる。学生の意欲や期待に応える支援、不本意入学者をポジティブな姿勢に転換させる支援をどう構築していくのか。アサーティブ施策のキーパーソンへの取材をまじえて解説する。
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追手門学院大学がベネッセ教育総合研究所と共同し、「大学生基礎力レポート」(ベネッセiキャリアが提供するアセスメントテスト)を活用して行った実証研究では、「入学時に一定の望ましい資質・能力を持つ学生が選抜され、その資質・能力が2年次まで維持されている」という結果が導き出された。自習時間や読書量など、学習行動に関する得点は入学時から2年次にかけて高まることも分かった。これらのことから、個人面談とMANABOSSシステムを柱にした主体性や協働する力の育成、基礎学力の向上などが有効に機能していることが実証された。
一方で、入学時から2年次にかけて大学納得度の低下が見られ、基礎学力についても同様であるなど、アサーティブ生が抱える課題も明らかになった。「進路意識・行動」「協調的問題解決力」における優位性を保ち、入学後に学習行動が改善するにもかかわらず、これらがなぜ基礎学力を押し上げるまでに至らないのか。また、大学に対する納得度が低下するのはなぜか。
その原因を探るため、学生に対するインタビューを実施した。インタビューは、入学時と2年次、2回のアセスメントを受検した2017年度の2年生の中から、大学や自身の現状に対して不満を抱えていると考えられる学生10人を抽出し、2017年7月に実施された。その約半数をアサーティブ生とし、残りの半数を他の入試方式から抽出した。これは、実証研究がアサーティブ施策の成果検証だけでなく、学生の成長を可視化し、その結果を全学的な学生支援に生かすことも目的の一つにしているためである。
インタビューでは「入学前にはもっと外で活動する学部だと思っていたが、実習以外は座学が中心で拍子抜けした」「1年生の時は心理学の授業が少なくてイメージと違い、やめたいと思っていたが、2年生になって認知心理の授業が増えて面白くなった」「入学直後のモチベーションが最も高かったが、大学で友達ができずバイトの暇つぶしに大学に行く感じになった。2年生になりゼミが始まってからまたモチベーションが上がってきた」といったコメントが聞かれた。
「入学直後は、それまで思い描いていた授業や大学生活とのギャップに戸惑い、面白くなかった」という声は、アサーティブ生・非アサーティブ生の双方から複数出たという。この実証研究に関わったアサーティブ課課長兼アサーティブ研究センター研究員の志村知美氏は、学生とのコミュニケーションを通じて「カリキュラムや履修単位、シラバスといった大学での学び方の基本についてきちんと理解しておらず、理解させるための支援策にも敷居の高さを感じてアクセスできないでいる」と指摘。授業についていけず、困難を抱える学生に対する大学側の支援が今以上に必要ではないかという課題認識を持っている。
アサーティブ施策を担当するアサーティブ課がそうした学生の「駆け込み寺」となる中で、抜本的な対応の必要性を痛感してきた。「入学前の面談で『これがやりたい』と期待を高めても、カリキュラムの仕組みを知らず、入ったらすぐにその専門分野を学べると思い込むため失望も大きい」と志村課長。これを解決するため、入学後のガイダンスで行われているカリキュラム、単位修得、シラバス、成績評価等の仕組みの解説を、アサーティブプログラムの中に前倒しで組み込むことを検討中だ。
入学前から教学に対する理解を促し、入学後の施策にスムーズに接続させるという発想は、他の入試方式による入学者も抱えているであろう問題の解決にもつながるはずだ。「一般入試で入学した学生には不本意入学者が多く、ネガティブな感情を引きずりがち」(志村課長)という中、入学直後のつまずきは中退に直結するリスクが高い。そこで、追手門学院大学では、アサーティブ施策を通じて入学前から学生とのコミュニケーションを重ね、入学後の支援にもあたってきた知見やノウハウを全学の教学支援に生かそうと、入試部に置かれていたアサーティブ課を2018年度、教務部に移した。
アサーティブ施策は2018年度に完成年度を迎え、次年度から新たなステップに入る。スタート当初はアサーティブ入試による入学者の割合を拡大していく方針を掲げていたが、今後は入試方式にかかわらずアサーティブプログラムを受講した入学者の増加をめざす方向へと軌道修正を図る。アサーティブプログラムが自学の高大接続システムの要になるという確信があり、実際に他の入試方式でもプログラム受講者の出願・入学が増えているという。
「このプログラムを通して学ぶ意欲を高めた学生ならどの入試方式で入っても早く独り立ちして主体的に学んでくれるようになる。そんな学生の割合が高まれば、独り立ちや中退防止のためにかける私たちの労力が軽減され、その分もっと本質的な成長支援に集中できるようになる」(志村課長)。
実証研究によってその確信が高まり、施策の精度を上げるためのエビデンスが得られたという。「今回のデータを基に、入学前から意欲を育てることと、意欲を維持してもらうための教学改革とをセットで進めていきたい。学生にとってわかりやすく、体系的な履修が可能となるよう、2019年度には全学部でカリキュラムマップを作成して開設科目を精査し、ナンバリングを行う予定だ」。
今回の実証研究は、全学的な成長支援のためのさまざまな施策に生かされる。
学生インタビューでは教育効果の高い面談のプロトタイプを開発すべく、議論を重ねて質問項目を設計した。学生から引き出したいことを明確にしたインタビューフローシートや、しかるべき担当部署に情報を引き継ぐための面談カルテ等を開発。今後はこれらのツールを使って全学生を対象に面談を行い、そこで成長を促せるよう標準化を図る。
学生支援を強化するための基礎データとして、2018年度から全入学者を対象に「GPS-Academic」(「大学生基礎力レポート」から移行するアセスメントテスト)を実施、問題を抱える学生を把握して面談につなげる。
「学生ポートフォリオ/学生カルテ」の開発も進んでいる。学修や各種活動、面談結果などを記録し、学生にとっては自らの成長を確認して新たな目標を設定するためのツールとして、教職員にとっては学生の成長段階に合わせて的確な支援やアドバイスを行うためのツールとして活用される。
体系化されたカリキュラムの下で教育してアセスメントで成長度合いを定点観測し、その結果もふまえて面談を実施する。一連のプロセスと成果を「学生カルテ」で教職員が共有し、必要な支援にスムーズにつなげる。そうした流れをすべての学生を対象としてつくり上げていく方向だ。
ベネッセ教育総合研究所の岡田佐織研究員は実証研究を振り返り、「追手門学院大学では、大学進学における高校生の意思決定を支援するアサーティブ面談を通じて評価の観点や助言の手法が鍛えられ、共有化されてきた。高校生の『成長しつつある姿』というプロセスを評価し、支援するという動的な評価軸に特徴がある。今回の共同研究では、入学後の学生にも同様の評価軸の適用が可能であり、アサーティブ施策を強力なプラットフォームとして学生の成長を可視化できるという手応えを得た」と話す。
入試部から教務部に移管されたアサーティブ課が入学後の成長支援に関わることで、入学前から卒業後までの成長の姿を動的に捉え、支援するという新しい成長支援の実践モデルをつくり出せるのではないかと、志村課長はじめ研究メンバーは期待を高めている。