2018.0723

DPに基づく評価指標の下、多面的評価で学生の能力を可視化-高知大学

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●全学共通の「10+1の能力」を定義し、自己評価やパフォーマンス評価を実施
●面談を通じて自己評価の力を高め、学修のPDCAを回す
●地域のステークホルダーを加え、アセスメントシートを見直し

学修成果の可視化と教育の質保証が大学の課題となる中、先行する大学ではさまざまな実践がなされつつある。高知大学は、ディプロマ・ポリシーに基づく全学的な能力評価指標を設定し、その指標の下で学生の能力を多面的に評価している。学生による自己評価を中心に据え、自らを客観的に評価するスキルを向上させることによって学修成果の可視化の精度を上げ、「生涯学び続ける学修者」を育成する点が特徴的だ。


●文科省のAP事業中間評価で最高レベルのS評価を獲得

 高知大学は、自学の強みとする「地域協働による教育」をさらに充実させるため、ディプロマ・ポリシーの達成度を可視化し、学生の成長を支援する仕組みづくりを進めている。この取り組みは2016年度、大学教育再生加速プログラム(AP)の「テーマⅤ 卒業時における質保証の取組の強化」に採択された。その中間評価では、学生の授業外学修時間、卒業生追跡調査の回答率などが目標値を大きく上回っているとして、最高レベルのS評価(計画を超えた取り組み)を獲得した。
 ディプロマ・ポリシーに基づく「10+1の能力評価指標」を開発し、これを共通の下敷きとして学生による自己評価や教員によるパフォーマンス評価、民間企業のアセスメント、さらには卒業生調査といった多面的な評価の導入とブラッシュアップを続けている。
 「10+1の能力」とは「対課題力」「対人関係力」「対自己調整力」の3領域で構成する「10の能力」、およびこれらの能力を「統合して外に働きかける力」である。2016年度には3つのポリシーの見直しと連動させる形で、「10+1の能力」に基づいて学科・コースごとの能力評価指標を策定した。

「10+1」.jpg

●2018年度からは各学科の必修科目でパフォーマンス評価を開始

 高知大学では学生が自らの能力を評価するセルフアセスメントシートを2012年度に導入。その後、教養教育のあり方の検討に伴って「10の能力」を定義、さらに統合・働きかけの力を加えて「10+1」にするなど、伸ばすべき力を明確化するたびにセルフアセスメントシートを改訂してきた。

self_ases.jpg

 2017年度の改訂時には地元の教育委員会や企業を加え、地域で求められる人材の育成・評価の観点から内容を検討。2018年度にはルーブリックを導入し、具体的な場面にブレークダウンした設問で論理的思考力や協働実践力などのレベルをより詳しく把握する。セルフアセスメントは1年次、3年次、4年次の3回実施する。 
 学生の自己評価能力を高めるため、2016年度からはセルフアセスメントシート以外の評価ツールも順次取り入れている。他者からの評価と突き合わせることによって学生が自己評価の妥当性を確認し、自分の能力をより客観的に捉えられるよう促すねらいがある。下図は、一連の評価スケジュールを示している。

skeju-ru.jpg

 2018年度から新たに導入するのが教員によるパフォーマンス評価だ。「10+1の能力」の「+1」、すなわち「統合・働きかけの力」を評価する対象として必修科目を学科・コースごとに設定し、3~4項目のルーブリック評価を行う。

●学外のアセスメントでカリキュラム満足度の高さが判明

 自己評価であるセルフアセスメント、他者評価であるパフォーマンス評価に加え、学外のアセスメントによる客観的評価として2017年度に導入したのが「大学生基礎力レポート」(ベネッセiキャリアが提供するアセスメントテスト)だ。汎用的なアセスメントの結果を他大学と比較し、自学の強みと弱みを明らかにするねらいもある。「10+1の能力」に引き寄せる形で設問を選び、1年生と3年生を対象に実施した。その結果から、カリキュラムや教員に対する満足度が全国平均より高い一方、就職支援に対する満足度が低いことが判明。2018年度以降も1年次と3年次で継続的に実施し、学生一人ひとりの2年間の成長も把握する。
 これら在学中の評価に加え、2016年度には卒業後1年目調査も実施した。「10+1の能力」一つひとつについて、どの程度身に付いているか、どのような場面で身に付いたかを質問。ゼミ・卒論・研究による教育効果が高いことがわかった。
 卒業生調査のブラッシュアップを目的に、2017年度にはベネッセ教育総合研究所との共同研究として、29人の卒業生(卒業後1~5年目)にインタビューを実施した。高知県内での就職者19人と首都圏での就職者10人について、本人に加え上司にも協力を依頼。首都圏の企業は社員である卒業生に「職場で求められるスキル・能力につながる経験・学び」を期待しているのに対し、県内企業は「人間としての幅を広げ、成長するための経験・学び」を期待する傾向があることなど、地域協働型の人材育成を進めるうえで重要な地域特性を把握できたという。

●学生と教員の協働による形成的評価を重視

 アセスメントシートの改訂など、地域との協働による評価ツール開発の過程で、企業関係者などから「評価者と被評価者とが評価結果について話し合い、観点を共有する機会を確保することが重要だ」と助言を受けた。そこで1年次、2年次、3年次の計3回、アドバイザー教員によるリフレクション面談を実施。3年次1学期は将来のキャリアを見据えた振り返りを行うリフレクション・セメスターと位置づけている。
 面談ではe-ポートフォリオに蓄積された各評価結果から自己評価と他者評価との間に乖離がないか確認したうえで、キャリア形成を視野に入れた新たな目標を設定し、実現までのプロセスについて話し合う。大学教育創造センターの塩崎俊彦教授は「学生と教員のコミュニケーションを通して学生の自己評価能力を高める。大学が一方的に評価するのではなく、学生と協働して評価を作っていく形成的評価を重視している」と説明。目標設定、学修、評価・振り返り、次の目標設定というPDCAサイクルを学生が適切に回すことを支援できるよう、FDを通じた教員の面談スキル向上にも力を入れている。
 これら多面的評価の結果は副学長が議長を務める教育企画会議で共有され、対応すべき課題について話し合われる。その結果は各学部等の学務委員会等で施策に反映される仕組みになっている。

●ディプロマ・サプリメントに加えポートフォリオ・サマリーも作成

 卒業までの学業評価や修得単位数を記載する「学修内容に関する証明書(ディプロマ・サプリメント)を開発する予定だが、「学修成果を証明するディプロマ・サプリメントを提供されても採用活動では使わないという企業の声もたびたび聞いている」(塩崎教授)。
 採用時にはサークル活動やアルバイトだけでなく、大学教育の成果をきちんと評価してもらおうという大学側の機運と、企業の意識との間には依然、ギャップがあるようだ。そこで、高知大学ではディプロマ・サプリメントに加え、e-ポートフォリオに記録された学生のPDCAの「P」「D」「A」の軌跡を一覧できる「ポートフォリオ・サマリー」を作り、エントリーシート作成時に活用することを検討している。
 学修成果の可視化のための多面的評価は、2018年度のパフォーマンス評価によってラインナップが出そろい、今後はこれらを継続的に実施してPDCA構築を図っていく。塩崎教授は「コンピテンシーを評価するというと『学生をランク付けするのか』と抵抗感を抱く教員もいる。しかし、客観性の高い自己評価スキルを修得させ、適切な評価をもとにして次の目標設定から学修へと導いて生涯学び続ける学修者としての成長を促すことが、われわれの取り組みのねらいだ」と話す。


*関連記事はこちら

追手門学院大学~アサーティブ入試の検証から施策の改善・立案へ(下)
学生調査データを使いIRを体験-ベネッセが大学教職員向けイベント
AP選定の東京都市大学-4年間の成長支援と卒業時の質保証
APの新テーマへの示唆―共愛学園前橋国際大学の学修成果可視化の取り組み