2018.0301

THEアジア大学ランキング-ランクアップめざす国内機運の向上に期待

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3行でわかるこの記事のポイント

●「被引用論文」「国際性」という課題があらためて浮き彫りに
●ランクアップは4校、ランクダウンは51校
●平均スコアは改善したが、改善幅は中国やインドを大きく下回る

イギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education(THE)」が2月7日に発表した「THEアジア大学ランキング2018」では日本から22大学が初めてランクインし、THE幹部に「日本には優れた大学がアジアの他の国より多くある」と言わしめた。しかし、いくつかのデータを見ると、日本の大学はランキングで上位をめざそうとの機運が、アジアの中でまだ弱いと言わざるを得ない状況だ。国際競争力強化に向け、各大学の取り組みが期待される。

*「THEアジア大学ランキング」発表の記事はこちら
*THEの発表はこちら


●他の国は被引用論文のスコアが伸びている

 「THEアジア大学ランキング」は2017年9月に発表された「THE世界大学ランキング」と同じ5分野13指標によるデータベースを使い、一部、重みづけを変えてランキングしている。下の表では、アジアランキングトップ20の大学、および日本の全ランクイン大学について、分野(教育、研究、被引用論文、産業界からの収入、国際性)ごとのスコアを示している。

top20score.pngjapan_score.png

 トップ20の表から、日本の大学は「教育」と「研究」のスコアが高い一方、「被引用論文」と「国際性」が低いことがあらためて確認できる。THEによるとアジアの他の国・地域は被引用論文が伸びていて、それが日本の大学にとって脅威になっている。
 ランキングトップのシンガポール国立大学は、「国際性」のスコアが96→95.8とわずかに下がった以外は全分野で向上した。
 順位を一つ落とし8位になった東京大学のスコアを分野ごとに前年と比べると、強みとする「教育」(80.7→75.9)と「研究」(87.2→82.1)の両方、および「産業界からの収入」(53.4→52.7)が下がり、「被引用論文」(62.4→63.7)、「国際性」(30.6→32.2)は改善した。
 ランクアップした京都大学は「研究」が10ポイントアップ(67→76.9)、「産業界からの収入」が19ポイントアップ(75.1→93.8)、同じくランクアップした大阪大学も「研究」が9ポイントアップ(50→58.6)、「産業界からの収入」が7ポイントアップ(73.9→81.3)と、いずれもこの両分野のスコアが大きく伸びた。

●韓国の2大学が初ランクインで20位と22位に

 THEは、日本の平均スコアの改善やランクイン大学数の多さを評価する一方、中国などが急速に順位を上げる中で日本の大学から脱落が出ている状況も指摘した。THEが提供しているデータからその背景が浮かび上がる。
 下図では中国、インド、日本、台湾、トルコについて、13指標の平均スコアの前年からの上昇/下降の度合いを示している。スコアが下がった指標は赤、上がった指標は緑でその度合いを示し、13指標の増減を累積した総合スコアの上昇/下降の度合いを青で示している。
 日本は12指標で上昇して総合スコアの平均も伸びたが、他の国・地域の総合スコアの伸びは日本の3倍以上で中国は7倍近い。

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 スコアのこうした状況は各大学の順位変動に反映されている。ランクインした日本の大学89校のうち、順位が上がったのは京都大学、大阪大学、北海道大学、横浜国立大学の4校で、順位が下がったのは51校あった。初めてランクインした22校のうち最上位は藤田保健衛生大学の83位、次が会津大学の131位。これに対し、韓国から初ランクインした延世大学校と蔚山科学技術大学校はそれぞれ20位と22位だった。前者は産業界からの収入、後者は被引用論文の突出したスコアで一気に上位に躍り出た。こうした潜在力のある大学がアジア各国・地域には多く存在すると考えるべきだろう。
 スコアとランクイン大学数の関係も見ておこう。下の図は25の国・地域について、ランクイン大学数を四角形の面積、スコア平均を四角形の色で、それぞれ表している。中国はランクイン大学数が全体の5分の1を占め、日本の4分の1には劣るが、スコア平均では上回っている。ランキング1位のシンガポール国立大学を擁する「少数精鋭型」のシンガポールと、「数は多いが全体的なレベルはあまり高くない」日本は対照的だ。

rankusu_score.jpg

 これらのことから、日本では大学がランクインをめざして動きだし成果が表れ始めているが、強力な改革によって順位を上げようという機運はアジアの中でまだ弱いと言える。
 多くの大学がランクインすることに加え、国内の上位大学が世界トップレベルの教育と研究にふさわしい地位を獲得し、他の大学も着実に順位を上げていくことが期待される。高等教育における国際競争が激化する中、国内大学の総合力を底上げしつつ、アジア、そして世界をリードするトップのポジションも強固なものにする。この課題は、各大学のランキングへの積極的な取り組みによって前進していくはずだ。


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