2017.1004

THE世界大学ランキング-国内トップ校、論文引用数の世界での位置は?

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3行でわかるこの記事のポイント

●東大は教育で17位だが論文引用数では392位
●国際性は「外国人教員増加→英語論文増加→引用数増加」と連鎖的に影響
●地方小規模大学の知名度向上は日本の高等教育の多様性アピールにつながる

先ごろ発表された「THE世界大学ランキング」は、国内トップ大学の苦戦、初ランクインで国内上位になった大学など、さまざまな話題を提供している。日本の大学が世界で今より上位に行くためには何が課題で、克服のためにどんな手段が考えられるのか。ランキングが発表されたロンドンサミットに参加し、THE幹部や世界トップ大学の生の声を集めた進研アド・グローバル営業部の山田太郎グループリーダーが解説し、日本で好結果を得た大学の成功要因も概観する。

*「THE世界大学ランキング 2018」発表の記事はこちら


●THE幹部が「東大・京大は教育・研究では世界準トップ」と評価

 近年、「THE世界大学ランキング」が発表されるたびに、国内では東京大学と京都大学の順位に注目が集まる。今回も東京大学が7つ順位を下げて46位になったことがメディアで話題になった。
 しかし、ランキング結果について詳しく解説した冊子で、THEの幹部は「東京大学と京都大学の教育と研究のレベルは依然、世界の準トップ級だ」と讃えた。5つの分野のうち、東京大学は教育力で17位で、総合30位の清華大学の次につけ、アジアトップで総合22位のシンガポール国立大学より1ランク上。京都大学(総合74位)の教育力は29位で、これは総合25位のロンドン・スクール・オブ・エコノミクスと同ランクだ。kyoiku.png

 研究力では東京大学が21位で京都大学が32位と、こちらも総合順位に比して高いランクとなっている。

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 それにもかかわらず、この2大学が総合ランキングで順位が下がるのは、論文引用数が少ないためだ。ランキングにおける教育、研究、研究の影響力(論文引用数)の比重はそれぞれ30%を占め、教育力と研究力が高くても研究の影響力が低ければ総合スコアで上位に位置するのは難しい。
 研究の影響力のスコアは、マサチューセッツ工科大学とロンドン大学セント・ジョージ校の100(満点)を筆頭に、ほぼ0.1~0.3の刻みで各大学がしのぎを削り、スコア90以上の大学が96ある。その中で東京大学のスコアは63.7で392位、京大は50.9で518位にとどまる。東京大学の一つ上のランクは総合301-350位の大学、一つ下は401-500位の大学で、京都大学は総合601-800位の大学にはさまれている。 inyousuu.png

 論文が引用されるには、その論文の存在が世界で知られていることが前提となるので、日本の大学にとってハードルが高くても、やはり英語の論文を増やしていくことが不可欠だ。タイのある大学では学長が全教員に対し、年1本以上英語の論文を書くよう課しているという。恐らくはその取り組みも要因となり、近年、ランキングに登場するようになった。また、日本のある大学は「THE世界大学ランキング」のランキング対象条件である「年間での論文数150以上」を念頭に、論文の英訳を支援する部門を設置。世界への発信に力を入れて今回、初めてサブミット(提出)し、ランクインを果たした。

●産業界からの収入は外国人教員の招聘資金となり、国際性に影響

 論文が引用されることによって教育・研究の国際的評価が上がり、それぞれの評判調査のスコアを押し上げるという効果もある。教育の評判調査の比重は全体の15%、研究の評判調査は18%と大きい。この点でも、論文引用数がランキングのカギとなっている。
 「国際化」と「産業界からの収入」の比重はそれぞれ7.5%と2.5%で、総合ランキングに及ぼす影響は限定的だ。ただし、「国際化」は中期的、「産業界からの収入」は長期的に影響がある。外国人教員が多ければ英語の論文を増やしやすく、論文引用数の増加につながる可能性を高められる。また、「産業界からの収入」は、外国人教員の招聘、留学生受け入れのための資金となる。比重は小さくてもこれらの実績を着実に積み上げることも有効な施策となる。
 このように、各分野や指標のスコアは関連し合って総合スコアを構成している。ランクインやランクアップをめざす大学は自学の現状を分析したうえで、まずはどの指標でスコアを上げていくべきか、そのために何をすべきか考えておきたい。

●研究支援のURA部門を置く京大は研究力で躍進

 今回は発表校数が前回の980から1102に増え、日本からのランクインは69校から89校に増えた。日本の平均スコアは1ポイントほどダウンし、多くの大学が801位以下でのランクインとなった。その中で、ランクアップした2校、および初ランクインした2校について触れておきたい。japan20.png

 京都大学は総合順位が91位から74位へと大きく上がった。研究のスコアが前回から8.5ポイントアップ、産業界からの収入も18.7ポイントと大幅にアップ。THEの冊子では同大学の研究における躍進ぶりに言及。リサーチ・アドミニストレーター(URA)が研究支援を担う学術研究支援室(KURA)を設置していることなどを紹介している。
 もう1校、順位を上げたのが大阪大学で、前回の251-300位から201-250位になった。京都大学同様、研究(前回のスコア49.6から57.6に)と産業界からの収入(73.9から81.3に)のスコアアップが大きかった。今後、収入を活用して研究力をさらに強化し、論文引用数を上げるという好循環を作り出していけるかが注目される。
 藤田保健衛生大学は初のランクインで501-600位、私立大学のトップであった。論文引用数の突出したスコア74.5が注目を集めた。日本の大学で論文引用数のスコアが世界の平均(48.9)を上回ったのは5校のみ。その中で同大学がトップで、2位の東京大学と10ポイント以上の差がある。研究力のスコアが低いので現時点では評判調査のスコアはさほど高くないと考えられるが、今回の結果がこの先、大学の知名度を上げ、次回以降の評判調査で多くの研究者から名前が挙がる可能性もある。質の高い英語論文を継続的に発表していくこと、ランキングに対し中期的な影響力を持つ国際性のスコアを上げていくことなどが課題と言えそうだ。
 公立の会津大学も初のランクインで601位-800位。国際性のスコア67.5は国内トップで、2位の筑波大学との間に30ポイント近い差がある。「THE世界大学ランキング日本版」での23位に続き、注目を集めている。1993年の開学当初から「国際化」「ICT」「ベンチャー」を3本柱とし、外国人教員の割合は4割近い。日本語と英語両方を学内公用語とし、外国人教員の生活面の相談に乗る専門スタッフも置いている。程子学副学長は「今後、量と質の両面で研究の実績をさらに上げていくことが課題となる」と話す。研究実績も含め、地方小規模大学である同大学が世界で知られるようになれば、日本の高等教育の多様性、層の厚さを世界にアピールすることにもつながるはずだ。


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