2017.1113

THE世界大学ランキング日本版・留学経験者の割合(短期)1位の梅光学院大の施策

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3行でわかるこの記事のポイント

●希望者全員が参加できるプログラムを設け、学生の17%が短期留学を経験
●語学力、費用、単位認定などの"留学の壁"を取り払い、参加を促す
●ランキング結果が評価され、学生募集で手ごたえ

入試難易度以外の指標も加えて大学の強みを明らかにし、教育の特色に光をあてる――そんな教育力重視の「Times Higher Education(THE)世界大学ランキング日本版」の意義と影響力を実感している大学の一つが、梅光学院大学だ。学生募集におけるランキング結果の効果、参考データ「全学生に占める留学者の割合(短期)」の高スコアにつながった留学支援制度について聞いた。


●高校教員から「語学の梅光が戻ってきた」との評価

 山口県下関市にある梅光学院大学は、「THE世界大学ランキング日本版2017」で総合順位こそランク外だったが、国際性で22位にランクイン、教育充実度は141-150位だった。さらに、ランキングには使われない「参考データ」として公表された「全学生に占める留学経験者の割合(短期)」はトップ。学生数約1100人の小規模大学は、「エリアを代表するグローバル大学」「留学を実現できる大学」として一躍、地元の高校生の注目を集めるようになった。
 同大学は1967年にミッション系の女子大として開学。地元では伝統校、名門女子大という評価を確立していたが、20年ほど前から学生募集が厳しくなった。共学化や子ども学部設置の後も定員割れが続き、2011年度から2年続けて定員充足率が60%台に落ち込むに至り、危機感が高まった。2012年度に法人、および学内の組織を一新して改革に取り組み、2013年度以降は志願者数が増え続けている。
 この改革の中で特に力を入れたのが、留学生の送り出しだった。

*梅光学院大学の改革に関する記事はこちら
前編
後編

 只木徹副学長は、「募集広報では『希望者全員参加型留学』『留学ホーダイ』などのキャッチコピーで『誰でも留学できる大学』をアピールしてきた。ランキングのいわば『短期留学日本一』が強力なお墨付きとなり、われわれが掲げてきたことの信憑性が一気に増した」と話す。
 募集広報でランキング結果を積極的にアピールした結果、手応えを感じている。オープンキャンパス参加者やAO入試エントリーにおける語学系3専攻(英語コミュニケーション専攻、国際ビジネスコミュニケーション専攻、東アジア言語文化専攻)の志望者数は、対前年比で2~3割増加。模試の志望者も同様に増えた。
 学生募集関係のイベントには、従来はあまりいなかった偏差値上位の高校生が参加し、積極的に質問するようになった。AO入試の面接で、ある受験生は「自分は日本文学・文芸創作専攻志望だが、梅光ならグローバルな視野も身につけられる」と志望動機を語った。高校訪問では「語学の梅光が戻ってきた」、オープンキャンパスに同行した保護者からは「梅光をめざす以上、かなりの英語力が必要だと言って、今からお尻をたたいている」といったコメントを聞くようになったという。

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●語学留学にボランティア活動を組み込み成長を促す

 梅光学院大学は、文学部と子ども学部で構成され、文学部人文学科には語学系3専攻を含む5つの専攻がある。「THE世界大学ランキング日本版」の指標となった外国人学生比率は6.1%、外国人教員比率は9.8%(いずれも2015年度)だった。外国人留学生の多さの背景には、北九州を含む地元・近隣の日本語学校での積極的な募集活動があり、近年は「日本語教育、学生ケアの両面で日本語学校の教員が本学を評価し、積極的に学生に勧めてくれるようになった」(樋口紀子学長)という。外国人教員の多さは、語学中心のミッション系大学としての長い歴史が影響している。
 では、短期留学経験者の割合を日本一に押し上げた「希望者全員留学」の制度とはどんなものなのか。特色は、「語学に自信がない学生でも気軽に参加できるレベル別・ステップアップ式の多彩なプログラム」「語学留学に現地での保育園やスラム街等でのボランティア活動を組み込み、人間的な成長を促す点」だ。
 送り出しの推進役を務めるのは、自身も大学卒業後の留学体験で人生観が180度変わったという樋口学長。「学生のうちになるべく多くの海外体験を積むことが大切」と考え、語学力、費用、留学の単位認定など、「留学の壁」を取り払い、背中を押すプログラムを構築してきた。 

●短期プログラムには専攻外の学生の参加も促す

 2017年度は、3段階でステップアップする英語留学として「ビギナーコース」と「スタートダッシュコース」の2つのモデルを設定。ビギナーコースの3つのステップはいずれも語学留学だ。例えばビギナーコースでは、「第1段階=夏休みの1か月間、フィリピンのセブ・パナイ島へ。留学前後にオンラインレッスン、現地ではマンツーマンレッスン」「第2段階=2か月間、マレーシアの大学の能力別クラスで学ぶ」「第3段階=5か月間、オーストラリアの大学で梅光独自のプログラムで学び、ホームステイも経験」という内容だ。第1段階は全学部・全専攻から学年を問わず参加可能で、第2・3段階は英語コミュニケーション専攻と国際ビジネスコミュニケーション専攻の学生が対象。
 スタートダッシュコースは一定の英語力のある学生を対象に、ビギナーコースの2段階目と同じマレーシアでのプログラムから始まり、アメリカまたはアイルランドの協定校との交換留学(8~9カ月)まで進む3ステップのコースとなっている。
 東アジア言語文化専攻でも同様に、中国語、韓国語を学ぶ学生を対象にそれぞれ3ステップのコースがある。「専攻外の学生でも気軽に参加できるよう、中国語コースの第1段階は治安の面でより安心感が高い台湾でのプログラムにしている」と樋口学長。
 交換留学先の授業料を全学免除するほか、多くのプログラムで、大学関係者からの寄付や保護者会費の一部を活用した奨学金で支援してきた。全てのプログラムを単位認定し、4年間での卒業を可能にしている。

●小規模大学ならではの意思決定の速さが強み

 充実した留学制度の出発点となったのは、2013年度のセブ島プログラムの開設だ。授業料は大学が負担し、渡航費のみ自己負担にしたため多くの学生が参加。「行って良かった」という評判が学内で広がり、2年目からは全額自己負担にしても参加者が集まるようになった。現在は毎週の礼拝で、学生が各留学先での経験を聖書の言葉と関連づけて積極的に紹介している。
 参加者の増加に合わせて毎年のようにプログラムを追加・拡充し、さまざまなステップアップコースができた。今では語学系3専攻の学生のほぼ全員が卒業までに留学を経験するようになった。中国語、韓国語を専門とする学生の語学検定の成績はビジネスの即戦力として通用するレベルに向上し、大手企業に就職する者が増えたという。
 海外インターンシップにも力を入れている。外国語系の学生以外にも専門性と関係がある海外体験を提供しようと、フィリピンの小学校での教育実習(子ども学部対象)、台湾の博物館での実習(日本文学・文芸創作専攻および地域文化専攻で学芸員をめざす学生対象)を設けたり、その準備を進めたりしている。
 樋口学長は、小規模大学ならではの意思決定の速さが、短期間での数多くのプログラム開設を可能にしたと振り返る。「いいプログラムがあると聞けばすぐ視察に出かけ、年度途中でもパイロットケースの学生を送り込み、次年度には正式にプログラム化することができている」。

●「教育大学」の具現化のためにランキングを活用

 「THE世界大学ランキング日本版2017」の対象となった2015年度の短期留学経験者は全学生953人中166人(17.4%)で、2016年度は長期・短期を合わせた留学者の数が増えた。2018年の第2回ランキングでは国際性の要素として海外留学者数が追加される予定で、同大学はランクアップへの期待を高めている。
 間もなく大学開学50年記念事業の新校舎建設が始まり、2019年春にはアクティブ・ラーニング仕様の開放的な施設、教職協働を促すフリーアドレス(席を固定しない)のオフィスなどが完成する。充実した学びと学生支援によって学生満足度を上げ、教育充実度でもランキングの順位を上げていきたい考えだ。

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 樋口学長は「本学がめざす『教育大学』を具現化し、特色を可視化するという目的の下、戦略的にランキングを活用したい」と話す。


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