〈共に挑む学生募集DX〉vol.05 ナーチャリングで「知っている」から「受験する」へ。甲南大学、MA活用で戦略ターゲットとの接点を構築
学生募集DX
2026.0205
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3行でわかるこの記事のポイント
・「好きで志望し続けてくれる」コア層に加え、「知っているが受験しない」層を新戦略ターゲットに設定
・MAツール(infoCloud)運用定着の裏にあったチーム体制と伴走支援
・オープンキャンパスの申し込みをLINEに一本化し、業務効率化と機会損失の解消を実現
甲南大学は従来、「低学年から自学のことを好きで、志望し続けてくれる」コア層を大切にする募集広報を行ってきた。しかしその一方で、「大学の名前は知っているが、受験校としては意識していない」層へのアプローチ不足が、志願者数増加を阻む壁になっているとの認識もあった。この課題を解消し、新たな「戦略ターゲット」を獲得するための変革の中核を担ったのが、MAツール「infoCloud」の導入である。アドミッションセンターの荻山菜邦課長と中島隆之課長補佐は、この新ターゲット層を「ナーチャリング(育成)」して志願へつなげることを目指し、その基盤となる接点構築に着手した。導入初期はツールの習熟に課題を抱えたものの、チーム全員で運用する体制を構築。オープンキャンパスの申し込み導線をLINEに一本化するなど、高校生視点に立った施策を徹底した。その結果、イベント申し込みのハードルを下げるとともに、データに基づいた広報予算の配分見直しやイベント定員の最適化といった成果を生み出している。定量データ活用で広報戦略の「土台」を築いた甲南大学の軌跡を追う。

甲南大学の募集広報は、数年前まで「甲南大学のことを知っていて、好きでいてくれる人に入学してほしい」というスタンスを大切にしてきた。兵庫県内の高校生を中心とするコア層は、今も同大学の志願者の基盤である。しかし、周囲の大学が多角的な入試戦略を打ち出す中で、荻山課長には「コア層以外の受験生の興味を引き付け、自学を好きになってもらうきっかけ」を十分に作れていない、という課題認識があった。
特に、「『甲南大学』という名前は知っているけれども、受験校として深く知ろうと思っていない潜在層」が広範に存在し、この層へのアプローチ不足こそが、志願者数増加への課題であると明確に認識していた。
この層は、関西のみならず中四国にも存在し、関関同立や産近甲龍をめざす層と重なる。こうした、名前は知っているが受験は考えていない層に、受験校として意識してもらうこと。それこそが、同大学が新たに設定した「戦略ターゲット」の中心であり、募集広報のスタンスを変える転換点となった。
こうした潜在層を振り向かせるには、まず大学に興味を持ってもらうきっかけが必要になる。そこで、高校生が受験しやすいと感じる入試制度改革と、一度の接触だけでなく継続的なコミュニケーションで関心を育てていく仕組みをセットで作らねばならなかった。
継続的なコミュニケーションのための手段として浮上したのが、MAツールの導入だった。だが、新たな戦略ターゲットを設定して入試を改革し、かつ新しいツールを導入するとなれば、学内の合意形成は不可欠だ。経営層や大学執行部といった上層部とのコミュニケーションにおいては、模試の結果などのデータを基に「何が狙いか」を重視して説明を行った。
その結果、理解は速やかに得られたという。一方で、入試制度改革についての議論は慎重にならざるを得なかった。従来の手法を変えることに対し、「それは本当に大丈夫なのか?成功するのか?」という懸念の声が学内から上がったからだ。
荻山課長は「時間をかけて議論を進めました」と当時を振り返る。上層部の同意を得ていたとはいえ、一方的に進めることはしなかった。
「提案をして、意見をもらい、それを加味した内容で再提案する」という対話を何度も重ねた。
この丁寧なコミュニケーションこそが、結果的に学内の深い理解につながり、変革を成功させる重要なプロセスとなった。

戦略ターゲット層へのアプローチにMAツールを活用する最大の目的は、見込み層を志願者へと育てる「ナーチャリング(育成)」にあった。
「資料請求などで接点を持った高校生の数は、実際の志願者数に対してかなりの規模に上っていました。そこからより多くの接触者を、志願につなげることが課題でした」と荻山課長は話す。
しかし、その実践には高いハードルがあった。導入当初は、理想として「関心度合いや属性で細分化したセグメント配信」を行いたいと考えていたが、リストの切り分けやコンテンツの作り分けは、リソースの面から現実的に難しかった。それ以前に「導入初期は、多機能なツールを使いこなすところまでいけなかった」という。
まずはツールを使える状態にしなければ、ナーチャリングは始まらない。同大学は、チームの運用体制と外部のサポートによってこの「使いこなす」壁に挑んだ。学内で推進役となったアドミッションセンターの中島課長補佐は、infoCloudの導入直後に着任した。使い方が定着していない状態だったが、募集広報チームの5、6人が「極力みんなで触ってみる」ことを徹底。「イベント登録」や「メッセージ配信」など機能ごとに担当を分担し、全員が最低限の機能を使える状態を目指した。
加えて、カスタマーサポート体制も活用した。「導入初期は毎日のように問い合わせを行った」と中島課長補佐は話す。進研アドや日東システムテクノロジーズとの定例会などを通じ、機能面の不明点を解消していった。中島課長補佐のチーム内への働きかけと、外部支援の活用が、着実な運用定着につながった。
MAツールの運用が軌道に乗る中で、チームは「高校生とのコミュニケーションにはLINEが効果的である」という確信を得る。「クリック率などの数値を見ても、私自身の生活者としての感覚としても、メールよりLINEが使われている」と中島課長補佐。そこでアドミッションセンターは、大きな決断を下す。オープンキャンパスなどすべての対面イベントの申し込みを、LINE登録に一本化したのだ。
中島課長補佐は「当初はなかなか踏み切れなかった」と明かす。「LINEに限定することで、申し込みの心理的ハードルが上がるのではないかという懸念がありました。しかし、進研アドから他大学の成功事例などを聞いて、実施を決めました」結果として、懸念していたトラブルは起きなかった。むしろ、メールとLINEの二重管理がなくなり、設定ミスや職員の業務負荷が劇的に改善された。高校生にとっても、使い慣れたLINEからそのまま申し込める利便性が、結果的に「申し込みのハードルを下げる」ことにつながったと推測される。

MAツールの導入効果は、LINE活用による業務効率化だけに留まらなかった。想定していなかった副次的な成果として、中島課長補佐は「広報施策の見直し」が可能になった点を挙げる。
infoCloudにデータが集約されたことで、資料請求からの来校率など、施策の効果検証が可能になった。「どういう層が資料請求をしているかもわかるので、効果的な媒体に予算を再配分するための判断材料になっています」イベント設計にもデータ活用は波及した。予約の推移が可視化されたことで、「イベントの予約枠が募集開始後すぐに埋まっている」という事実が明らかになったのだ。これは、参加意欲があるのに申し込めない高校生がいる「機会損失」を示唆していた。そこで、従来1日1回だった入試に関連するイベントの開催を「午前、午後の2回開催」に変更し、定員枠を拡大した。その結果、より多くの高校生に参加してもらえるようになった。
MAツールにすべての情報が集約されている状態は、チーム内の円滑な進捗共有にも役立っている。
「MAツールを手放すという選択肢はない。競合と同じ土俵で戦うには必須のインフラ」と中島課長補佐は断言する。「ただし、導入するだけでなく、使いこなしてこそ本当の価値が生まれる」。甲南大学は、こうしてデータ活用の基盤をチーム一丸となって築き上げた。
だが、戦略ターゲット層の心を真に動かすには、MAツールで「数」を見るだけではなく、その背景にある「なぜ」を知る必要がある。後編では、甲南大学が「なぜ」につながる高校生の「インサイト(深層心理)」、すなわち定性的な情報をどう掴み、施策の「質」の向上に繋げたかを紹介する。
写真左から、甲南大学 アドミッションセンター・荻山菜邦課長、進研アドDX事業本部 コンサルティング部・元宗わかな、甲南大学 アドミッションセンター・中島隆之課長補佐
(文・写真:大坪 侑史)
(文責:進研アド DX事業本部 本部長 高橋 毅)
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