共愛学園前橋国際大学の新学部〈前編〉 デジタルの活用で社会や生活を豊かにできる人材を育成
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2026.0209
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3行でわかるこの記事のポイント
●既存のリソースを生かしマネジメントや食のDXについて教育
●社会人の学び直しも視野に、専門科目群をパッケージ化
●多様な入試方式のすべてで数学を重視
共愛学園前橋国際大学は2026年度、初の理系学部である🔗デジタル共創学部を新設する。地方大学の改革モデルとして注目されてきた同大学の新たなチャレンジもまた、地元で築いてきたネットワークによって支えられている。新学部の概要や設置の背景・経過を2回に分けて取り上げる。前編では、教育の中身と学生募集について紹介する。
共愛学園前橋国際大学のデジタル共創学部はデジタル共創学科の1学科体制で、入学定員は100人。既存の国際社会学部の250人と合わせ、1学年350人になる。
理系分野の学部等設置の促進を目的とする文部科学省の「大学・高専機能強化支援事業」に2023年に選定され、準備を進めてきた。
新学部がめざすのは「デジタル技術の知見を生かしながら、他者と共にWell-Beingな社会を創造できる人材」の育成。現・国際社会学部長で、新学部の学部長に就任予定の村山賢哉教授は、人材像について次のように説明する。
「デジタル技術は、日本が今後、世界の中で競争力を維持するうえでの基盤になる。デジタルに関わる技術者は、暗い部屋で一人黙々とキーボードをたたいてプログラミングするハッカーのようなイメージを持たれがちだが、決してそうではない。システム開発には全体の統括やコーディングなど、さまざまな知見を集めてチームで取り組む必要があるため、学部名にも人材像にも『共創』を入れた。そして『Well-Being』には、デジタル技術はアナログの対極にある冷たいものではなく、社会や生活といった人の営みをより良いものにし、本学が掲げてきた『学生の未来の幸せ』を実現するものだという思いを込めた」
地域との協働を通して学生を成長させ、地域で活躍できる人材を送り出してきた前橋国際大学。新学部もまた、地元・前橋市の「デジタルグリーンシティ」構想などの実現に貢献することを強く意識して設計された。
当初は、市の構想や文科省の支援事業と足並みをそろえ、「デジタル(DX)」と「グリーン(GX)」両軸での人材育成を考えた。「しかし、『グリーン』は環境や農業など定義の幅が広い。地方小規模大学がその全体をカバーするカリキュラムを作ろうとすると焦点がぼやけ、高校生にとってわかりづらくなる。自学にできる教育をしっかりやるため、『グリーン』は外すことにした」(村山教授)。
こうして「デジタル・グリーン学部(仮称)」は、「デジタル共創学部」に変わった。
人材像が示すように、デジタル技術そのものを究めること以上に、技術を活用して社会や生活を豊かにするための教育を中心に据える。そこに、既存学部の経営や、短大部の生活・食などの分野の教育リソースが生かされる。
デジタル共創学部のカリキュラムについて説明する。
専門の学びは、テーマごとに体系化した4つの「モジュール」(各6科目12単位)で構成される。デジタル技術が社会や暮らしの中でどう使われ、どんな価値を生み出しているかを学ぶ「DXモジュール」は、3年次まで全員必修だ。
1年次にDXの基礎に触れたうえで、2年次進級時に専門分野を選ぶ。デジタル技術そのものの向上について学びたいなら「ICTモジュール」、デジタル技術を通して企業や自治体の経営にイノベーションを起こしたいなら「マネジメントモジュール」、暮らしを豊かにするためのデジタル技術の活用を学びたいなら「食・健康・暮らしモジュール」という3つの選択肢を提供する。

「コース」ではなく「モジュール」にしたのは、この先、科目等履修生などとして社会人の受け入れも想定しているため。村山教授は「この分野の学び直しニーズは高い。何ができるようになるかというテーマ別に科目をパッケージ化しておけば、社会人がモジュール単位での選択をしやすいと考えた」と説明する。
全学共通教育の中には、共愛・共生、国際・社会理解、地域理解の3領域を学ぶ「共愛コア科目」、大学の看板とも言うべき実践的な学びを地域との連携によって展開する「グローカル科目」などがある。

数理・ICT・データサイエンス・AIの各領域を扱う「MIDA(ミダ)科目」は、2023年度に国際社会学部で導入された。今後は文系の人材にも数的思考力が必須になるとの考えの下、5科目10単位を必修化。
文科省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」に認定されたこの科目群は、デジタル共創学部では内容や難易度を理系学部向けに調整して開講される。
3年次の「課題演習」、4年次の「卒業研究」はモジュールごとの縦割りではなく、横断的なテーマ設定も可能にする。「ICTモジュールでデジタル技術を深く学んだ学生が、その知見を生かして食の安全について研究するため『食・健康・暮らしモジュール』で科目を持つ教員のゼミに飛び込むなど、モジュール間の垣根を低くして多様なテーマが生まれるようにしたい」
「食・健康・暮らしモジュール」は、短大部栄養学科の学びを移して再構築。これに伴い、短大部は大学と統合されることになる。
「マネジメントモジュール」には国際社会学部情報・経営コースの経営分野の学びを生かし、「ICTモジュール」には同コースの情報分野の一部を移管する。同コースは経営コースに名称を改め、ビジネスに特化した教育を行う。
教員の新学部への学内移動は短大部の2人、および国際社会学部情報・経営コースの村山教授はじめ3人。新学部の15人の基幹教員(従来の専任教員)のうち、残り10人を新たに採用した。特に理系色が強い「ICTモジュール」は、新任の教員が中心になって担う。
新任教員の多くが、企業での勤務経験を経て大学教員などアカデミックポストに就いていた人たちだ。
デジタル共創研究センター長も務める國領二郎教授は、旧電電公社を経て慶應義塾大学のビジネススクールやSFCで教えてきたDXの専門家。ほかにも国際電気標準会議(IEC)の現役議長として次世代エネルギーシステムにおけるサイバーセキュリティの世界標準を規定してきた梅嶋真樹氏、プログラミングでオーディオとビジュアルを融合したアート作品を創造する田所淳氏などが名を連ねる。村山教授は「群馬にいながらにして、世界の一線で活躍する教員陣の授業を受けられる学部になる」と胸を張る。
2025年8月末の設置認可からスタートした学生募集広報について特筆すべきことは、「高校生への学びの体験の提供」と「強力な助っ人の採用」の2つ。
学部新設に合わせて設置したデジタル共創研究センターで高校生研究員制度を設け、研究員を募集した。新学部の教育コンテンツの一部を切り出し、体験してもらうプログラムを企画。教員のパイプを使って、日本で最もセキュリティが厳しいとされる東京のデータセンターを見学したり、ワークショップに参加したりという内容をアピールしたところ、近隣の高校教員からも希望があり、定員はスムーズに埋まった。
初年度は高校生研究員制度を募集広報の一環として活用したが、今後は新しい施設「Fab-Lab」とあわせ、高校生への純然たる体験機会提供として継続する考えだ。新校舎の6号館に設けた「Fab-Lab」では電子工作や3Dプリント、モーションキャプチャ、ドローンなど、さまざまな装置でDXを学ぶことができる。学生はもちろん高校生も積極的に受け入れ、さまざまなチャレンジを応援する。

「DXハイスクールやスーパー・サイエンス・ハイスクールを中心に、県内で盛んな農業や畜産業のDX化の研究に取り組む高校生も多い。本学のリソースを使って研究を深め、難関大の総合型選抜などにチャレンジしてもらってもいい。やりたいことに思う存分取り組んで、夢に向かって羽ばたく環境を提供したい」。
募集広報の強力な助っ人とは、進学実績が県内トップクラスの女子校の前校長だ。国際社会学部の教員として迎え、人脈を生かした高校訪問で新学部の紹介もしてもらった。共通テストに向けて多科目の勉強を続ける理系志望者を念頭に、「国公立大学がだめでも、群馬で最先端のDXを学べる」とアピールした。
募集人員100人の入試方式ごとの内訳は、一般選抜20人、共通テスト利用方式20人、総合型選抜10人、指定校推薦35人、公募推薦5人、特待生選考試験10人。特待生選考試験以外でも、情報処理技術者試験や、地元新聞社主催で起業人材を発掘する「群馬イノベーションアワード」での実績を評価して特待生を採用する。
これらすべての選抜で数学を重視する。学力試験のある選抜では数学を必須で課す。指定校推薦でも全体の評定平均の基準だけでなく、数学の突出した力を評価するため科目単独の基準も設けている。
専願の総合型選抜(育成型)では、数学のウェブ学習システムの16単元中12単元以上の達成を出願要件にした。「デジタルを学ぶ学部の入試にデジタル技術を使うのは自然なことだし、ウェブ学習は特に数学との相性がいい」と村山教授。以前から「体調などの運・不運に左右される一発勝負の入試」に疑問を投げかけていた大森昭生学長も、育成型入試の導入を歓迎した。
年内入試での入学予定者に対しては、入学前教育として年末と2月初旬に課題を与える。地元市町村や社会の身近な問題について考え、レポートにまとめさせる。この課題は入学後の基礎演習に接続し、レポートの内容を紹介し合ってディスカッションすることになっている。