2025.1022

理系学部新設等を支援する事業に「大規模文理転換枠」新設、助成額引き上げへ

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●人材ニーズの将来予測をふまえ、定員構成の見直しを促す
●新設学部の教員人件費、土地取得費も新たに支援対象に
●定員を減らす文系学部もST比改善など、教育の充実を支援

文部科学省は、理系分野の学部設置等を支援する大学・高専機能強化支援事業に2026年度、「大規模文理横断転換枠」を新設する方向で検討している。新設の理系学部だけでなく、定員を減らす文系学部の教育の充実も支援する方向だ。概算要求時点での検討内容について紹介する。

🔗文科省の2026年度高等教育関係概算要求(大学・高専機能強化支援事業は13ページ)


3回の公募で計153大学を選定、理系の入学定員が約2万人増加予定

「デジタル」「グリーン」等、特定成長分野への学部転換等を促す🔗大学・高専機能強化支援事業は、2023年度にスタート。公私立大学を対象に理・工・農の3分野、およびこれらのいずれかを含む融合分野への学部再編等を支援する「支援1」では、原則8年以内、最長10年間で20億円を上限に支援する。

過去3回の公募で計153大学が選定され、すべての改組等が計画通りに実施されると、理系分野の学部レベルの入学定員が約2万人増えることになる。

2022年度第2次補正予算で確保した3002億円の基金のうち、これまでの選定大学に対する支出済み、および支出予定は約7割に上る。文科省は2026年度予算で9億円を追加要求している。

大都市圏の大規模大学で理系枠拡大が進んでいない

文科省の担当者は「この事業によって、地方大学をはじめ全国における成長分野の定員増が一定程度実現できた」と話す。一方で、経済産業研究所の調査結果等で、「AI・ロボット等の活用を担う人材は大きく不足する」「事務、販売、サービスの職種は供給過多になる」という将来予測が出されていると説明。

これまでに選定された計画は理系から理系の他の分野への転換も含まれ、大規模な理系枠拡大が進んでいないという。

そこで、大学・高専機能強化支援事業では、文系から理系への大規模な転換を促すため、「大規模文理横断転換枠」を新設。理系の純増、理系から理系への転換、文系からの小規模な転換など、従来型の「成長分野転換枠」とは分けて募集する予定だ。

入学定員200人以上でも規模に応じて加算

「大規模文理横断転換枠」では、文系学部の定員の全てまたは一部を使い、①AIやデータサイエンス等の理系的要素を取り入れて理・工・農いずれかの学位を授与する文理融合型の学部にする、②これらの分野の理系学部に転換する、などのパターンを想定。

大規模な転換を促すインセンティブとして施設・設備費の支援上限額を引き上げるほか、これまで支援対象外だった教員の人件費、土地取得費も費目に追加。全体の支援上限額を20億円から引き上げる。これまでは入学定員200人の規模が支援上限となり、これを上回る定員でも200人として算定し、加算はされなかった。

「『200人以上の学部を設置する場合、施設・設備費や教員人件費が高額となり、20億では到底足りない』という声が大学から多く聞かれたので、支援額とメニューを見直した」(担当者)。

「大規模文理横断転換枠」では、文系の定員減や理系の定員増の人数、収容定員に占める理系比率等を申請要件とする、またはこれらを確認し、定員200人以上でも規模に応じて増額する方向で検討している。対象は大規模大学に限定しない。

「スクラップ・アンド・ビルドは人件費負担が障壁」との声に対応

文系から理系への転換など、学部のスクラップ・アンド・ビルドについては、日本私立大学連盟が「新設学部の完成年度までは既存学部と両方の教員の人件費がかかることが障壁になる」として、文科省に🔗人件費の追加支援を要望していた。

「経営の観点から、学生定員を減らすと教員も減らす動きが見られるが、少人数授業を増やしたりデータサイエンスやAIの科目を設けたりするなど、改組を機に教育の充実を図ってほしい」(担当者)

1年遅れの新設をめざして再申請する方針の選定校も

大学・高専機能強化支援事業は、過去にない支援規模で大学の関心が高いが、3回の選定を通じて課題も浮かび上がっている。

選定率は初回の100%から95.2%77.1%と低下傾向にある。申請要件に関する記載が不十分であること(例えば、十分な学生確保の見通しを備えた計画の記載)など、事業計画が綿密に立てられていないことが主な要因になっているという。

🔗2024年度のフォローアップ調査では、支援を受けて開設済みの35校のうち10校が収容定員充足率80%未満で、50%未満も4校ある。

また、2026年度新設に向けて設置認可を申請していた選定校の一部は8月末に認可されず、再審査を受けたり申請を取り下げたりしている。1年遅れの新設をめざして再申請する方針を表明した大学もある

文科省の担当者は「今年度設置認可申請をしていた支援対象校から、新設を断念したという連絡は10月上旬現在受けていないので、いずれも再審査や再申請の方向だと理解している」と話す。

「理系志望者拡大のため、まず大学が受け皿となる学部の充実を」

定員割れについて、担当者は「当該の新設学部だけで起きているのか、その大学全体なのか、あるいはエリアの事情など複合的な要因によるものか、見ていく必要があると考える。中長期的な課題として、理系志望者を増やすため、文理分断からの脱却をめざして文科省も高校改革などに局横断で取り組む必要がある」と述べる。

「デジタル、情報等の分野のニーズが高いことは進学動向からも明らかで、この事業によってこれらの学部が増えていることと未充足の問題とは分けて考える必要がある。一方で、今後の理系市場拡大のためにも、まず大学が受け皿となる学部を充実させ、産業界の人材ニーズが高いこととあわせて高校に広報していくことが大切だ。われわれも、ニーズに応えられる学部を増やしていくために大学にどう伴走すべきか、引き続き考えたい」 

文科省は、新設された学部等とその支援を希望するDXハイスクールとをマッチングする広報活動など、高大連携の側面支援にも引き続き力を入れる考えだ。