「充足率7割以下の学部がある場合は新設不可に」などを提起-文科省の有識者会議
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2025.0519
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3行でわかるこの記事のポイント
●「私立大学の在り方検討会議」で規模縮小を視野に議論
●経営指標の見直しと指導対象の拡大も提案された
●地域で存在感を発揮している大学への重点的支援の必要性も指摘
大学の規模縮小や撤退、統合を視野に入れた議論が、文部科学省の有識者会議で活発化しつつある。4月下旬の会議では、設置認可審査の厳格化や文科省による経営指導の強化について、委員らから提案があった。「収容定員充足率7割以下の学部がある場合は新設を認めない」など、踏み込んだ内容が示された。
🔗2回目の「私立大学の在り方検討会議」の資料
「2040 年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議」(座長:小路明善アサヒグループホールディングス取締役会長兼取締役会議長)では、中央教育審議会答申「我が国の『知の総和』向上の未来像~高等教育システムの再構築~」に基づき、私立大学の役割の明確化と、それを果たすための方策について話し合っている。規模の適正化に向けた再編・統合や縮小・撤退の道筋づくりについても検討される。
私立大学に対する支援について、一律ではなく、社会ニーズに対応した規模の適正化や質向上に取り組む大学への重点的支援という方向性を打ち出している。
4月下旬の2回目の会合では、大学設置・学校法人審議会の学校法人分科会長を務める村田治氏(関西学院大学名誉教授)が設置認可の厳格化について、次のような提案をした。
▼収容定員充足率5割以下の学部がある場合は学部新設を認めないという現行基準を「7割以下」と、より厳しくする。
▼ただし、この基準以下の学部について具体的な廃止計画があり、大学全体の収容定員を増やさない場合は学部新設を認める。
▼定員割れの大学を統合した大学については、充足率の基準を緩和する。
▼「経常収支差額3か年連続マイナス」かつ「直近年度の外部負債が運用資産を上回る」場合は学部新設を不可とする。
▼大学新設の申請時に保有すべき経常経費を、現行の「1年分」から「2年分」に引き上げる。
▼申請時のリスクシナリオ(学生募集が計画どおりにいかなかった場合の対応方針)についても審査を実施。設置認可後のアフターケア調査で、必要に応じてシナリオを順守するよう指摘し、順守されない場合には私学助成の減額・不交付等を検討。
▼「継続審査(保留)」をなくし、設置の「可」「不可」のみにする。
こうした提案の背景には、近年、新設学部の約3割が完成年度時点で充足率7割未満という状況がある。大学運営の持続可能性を担保するためのより厳しい基準を設け、安易な計画による新設を防ぐことがねらいだ。
村田氏は基準の見直しに加え、審査体制やプロセスについても見直しを提案。現在は大学関係者が多い大学設置・学校法人審議会学校法人分科会の委員に、経済界の関係者や会計士、弁護士等を増やして財務や経営についての審査を厳しくすべきだとした。
さらに、初年度の学生募集の期間を現状より長く確保できるよう、審査スケジュールを1か月程度前倒しすることも提案。
定員充足率の基準の見直しは2029年度開設分、それ以外は2028年度開設分から適用すべきだとしている。
東京大学大学院・両角亜希子教授ら3委員は、学校法人の経営改善支援の観点から検討課題を挙げた。
その中で、日本私立学校振興・共済事業団による経営相談、および文科省が「経営指導強化指標(『運用資産―外部負債』がマイナス、かつ経常収支差額が3か年マイナス)」等に基づいて実施する経営指導を強化し、早期の経営判断、連携・合併や撤退に向けた支援、撤退によって学生に不利益を生じさせない仕組みなどの構築を提起した。
学校法人の経営状況の評価指標を見直し、指導の対象(2025年度は42法人)を拡大する必要があると指摘している。
さらに、学校法人間の連携・合併に向けた支援として、村田氏と同様、収容定員充足率5割未満の学部等がある学校法人を吸収合併した場合、設置認可申請の規制を緩和することも提案。
一方で、これらの取り組みと併せ、「地域で真に必要な教育を行い、地域における存在感を発揮している私立大学や私立短期大学に対して重点的に支援すること」も提案している。
この日の会合では、修学支援制度において、収容定員充足率による対象除外のルールが厳しくなったことについて、「法人支援ではなく学生支援のための制度なのに、このような形で学生が不利益を被るのはおかしい」という趣旨の指摘が相次いだ。