再編・統合、縮小・撤退による規模適正化が不可避―文科省特別部会が中間まとめ
ニュース
2024.0902
ニュース
3行でわかるこの記事のポイント
●「年に90大学が減少するペースで少子化が進行」と試算
●すべての大学に「自分事としての対応」を迫る
●一時的な定員削減後の「定員復活」を支援する制度などを提言
中央教育審議会の大学分科会(分科会長:永田恭介筑波大学学長)で、急速な少子化の下での高等教育の方向性について検討している特別部会がこのほど、中間まとめを出した。直面する危機に対応しなければ今後、募集停止や経営破綻に追い込まれる大学がさらに増えるという強い危機感を表明。従来示されてきた「社会人や留学生の受け入れ推進」にとどまらず、大学の再編・統合や縮小・撤退等による規模の適正化が避けられないとの認識を示した。
大学分科会「高等教育の在り方に関する特別部会」が発表したのは「🔗急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)」。2023年10月から2024年7月までの8回の議論をまとめた。
中間まとめでは、2040年の18歳人口は現在の75%にあたる約 82 万人まで減少し、中間的な規模の大学が年に90校程度減少していくペースで少子化が進行しているとの試算を示した。
この状況の下では、従来期待されてきた進学率の上昇や社会人・留学生の受け入れ拡大が進んだとしても、現在の入学定員と2040 年代の進学者数との間に大きなギャップが生じるとしている。
この危機に対応しなければ今後、定員未充足や募集停止、経営破綻に追い込まれる高等教育機関が増えることは避けられないと指摘。定員未充足によって経営が悪化し、教育・研究の質を維持できなくなったり、地方で質の高い高等教育へのアクセスが確保されなくなったりという問題が生じるとの懸念を示す。
こうした状況について、「全ての高等教育関係者が理解し、自分事として対応していく必要がある」「全ての高等教育機関にとって、決して他人事ではないという認識を強く持つ必要がある」と繰り返し迫り、当事者意識や危機感の薄さへのいら立ちもうかがえる。
そして、「対応は待ったなし」「設置者の枠を超えた高等教育機関間の連携、再編・統合、縮小・撤退の議論は避けることができない」として、特別部会として規模の適正化に向き合う決意を示している。
特別部会の議論におけるキーワードは「知の総和」だ。中間まとめでは、若者が新しい価値を創造して人類の課題解決に貢献し、地域社会の持続的な発展を担ううえで、「人の数と、それぞれの能力の掛け合わせ」である「知の総和」の維持・向上が必須だと説明。高等教育機関がその中心的な役割を果たすべきだとしている。
「知の総和」の維持・向上のための高等教育政策の目的(追求すべき価値)として、次の3つを挙げる。
①教育・研究の「質」
②社会的に適切な高等教育機会供給の「規模」
③地理的、社会経済的観点からの高等教育の機会である「アクセス」
「質」の高度化や「アクセス」の確保に留意しつつ、高等教育全体の「規模」の適正化を図るという方向性を打ち出した。
高等教育機関の機能強化の観点から、設置者の枠を超えた「連携」「再編・統合」「縮小・撤退」の議論を深め、高等教育全体の規模適正化を図るというのが、特別部会の基本的スタンスだ。
規制緩和が進んできた設置認可において、厳格化に舵を切り直す提言も見られる。大学・学部等の新設においては「将来の学生確保の見通しの審査」、学校法人の寄附行為(変更)の認可審査においては「財務基準や定員未充足が生じた場合の対応方針(リスクシナリオ)等の審査の在り方の見直し」を求めた。
経営が悪化した地方私立大学を公立化する動きをふまえ、「安易な設置は避ける必要があり、地域の人材需要や将来の運営の見通しなども十分に吟味」と慎重な検討を求め、「私立大学の公立化のプロセスにおいて留意すべき事項等の明確化」を提言している。
規模縮小につながる具体的な行動に向け、大学の決断を後押しする仕組みも提起された。
「再編・統合の推進」については、「収容定員の引き下げに対する大学等の忌避感の緩和」として例示した「一定の条件を満たす場合に、一時的に減少させた定員を一部または全部戻すことを容易にする仕組みの創設」が注目される。一度定員を減らすと、学生募集が好転して定員を戻す際に認可手続きが必要になるため、多くの大学が定員削減を躊躇しがちだという。そこに配慮した緩和措置を求める提言だ。
「縮小・撤退への支援」としては、「定員未充足や財務状況が厳しい大学等を統合した場合 のペナルティ緩和」を提起。定員割れの大学との統合による未充足については、私学助成の減額ルールを緩和することなどが想定されている。
さらに、学生確保の見通しが甘い状態での学部等の新設がある現状をふまえ、「開設後に定員未充足や不採算の状態が継続する場合における規模縮小や撤退にかかる指導の強化」も盛り込んだ。
近年、入学者の減少により学生募集を停止する地方大学が相次いでいる状況をふまえ、特別部会は、地域での高等教育へのアクセス機会が失われることを危惧。
対応策として、高等教育機関や地方公共団体、産業界等が地域の人材育成の在り方について議論する場の構築を挙げる。検討を促すために「コーディネーターとなる人材の育成・配置」も必要だとしている。
永田分科会長は6月の会議で、「グランドデザイン答申の時は、規模について議論したくても委員の圧倒的な反対によってできなかった。あの時とは時代が変わったのが、ひしひしと伝わる。今回は、想像を絶する状態になっていることを書かないといけない」と話した。
特別部会は9月以降、再編統合や縮小・撤退など、規模の適正化に向けた具体的な方策について話し合い、年度内の最終答申をめざす。