2024.1120

薬学部の教員が入学前・初年次教育の情報交換-「学力の前に意欲の向上」との指摘も

入学前教育・初年次教育

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3行でわかるこの記事のポイント

●各大学の取り組みを通じ、学習意欲向上に向けたヒントを共有
●入学前教育の取り組み状況から要支援学生を見つける
●薬剤師の新たな役割について、初年次教育で理解を促す

進研アドはこのほど、西日本の大学の薬学部で入学前教育・初年次教育を担当する教員に呼びかけ、「薬学系大学間オンライン情報交換会」を開いた。各大学の取り組みにおける工夫や課題を共有し、高大接続期の効果的な支援について考えることが目的だ。


薬学部志望者の学習時間減少に危機感

進研アドの独自調査によると、薬学系を志望する高校生の学習時間は、他の医療系志望者と比較すると多いものの、減少傾向にある。各大学の薬学部の教員には、この傾向がさらに進むと国家試験合格率の低下等につながりかねないとの問題意識がある。

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そこで、薬学部の教員同士が自学の入学前後の学習支援について報告し、情報共有を通して学習意欲向上に向けたヒントをつかんでもらおうと、今回の情報交換会が開かれた。

参加者は次の通り
🔻徳島文理大学香川薬学部薬学科・竹内一准教授
🔻広島国際大学薬学部薬学科・山口雅史学科長
🔻福岡大学薬学部薬学科・池田浩人教授

「入学前教育×プレイスメントテスト」による要支援学生の検知
要支援学生のフォロー体制も工夫

〈徳島文理大学・竹内准教授の報告〉

本学では、入学前教育とプレイスメントテストの結果を活用することで、入学直後の早期に要支援学生を検知し、効果的な指導につなげている。

教員の業務量は年々増加しており、全ての学生を手厚く指導することは難しい。リソースが限られている以上、より手厚い支援が必要な学生を優先して指導にあたることが望ましい。

そこで活用できるデータが、入学前教育の提出状況とプレイスメントテストの得点だ。特に入学前教育の提出状況は、新入生の特性を見極めるうえで有力な指標の一つとなっている。多くの入学予定者が課題に真面目に取り組む中、提出が大きく遅れる、あるいは未提出になる者は入学後に特別な指導が必要になる可能性が高い。
要支援学生の検知は、基礎学力の担保と共に入学前教育の「価値」と言える。

検知できた要支援学生に対するフォローの分担にも配慮している。新入生のチューター担当教員は、学習や生活に関するヒアリングを通じた学生の特性の把握に努める。入学前教育担当者は、それに役立つ事前情報として入学前教育の結果を集約したうえで、授業担当教員や事務組織と情報を共有する。

このように、本学では要支援学生の検知と学生支援における役割分担により、教員の負担軽減を図っている。

初年次教育における薬剤師の職業理解と学習意欲の維持・向上
講演を通してめざすべき薬剤師像をイメージ

〈広島国際大学・山口学科長の報告〉

薬剤師の役割は「薬を処方して病気やけがを治すこと」から、「病気やけがの背景、生活まで理解したうえで、処方とコミュニケーションの両方を通して治療を支援すること」へと変わってきている。
これについて学生に理解させるため、本学の初年次教育では薬剤師や薬学部出身で企業等に勤める人、薬害患者とその家族などの講演を聞く機会を多く設けている。これにより、学生はめざすべき薬剤師像を具体的にイメージし、その実現のためにどのような勉強が必要か主体的に考えられるようになり、学習意欲が高まっている。

ここで高まった学習意欲を減退させることなく、持続・向上させるため、他大学では3年生以降に実施することが多い調剤実習を2年生から実施していく。

入学前教育・初年次教育の効果を高める3つのポイント
学生情報を蓄積するデータベースの整備が重要

今回の情報交換会から、入学前教育・初年次教育のポイントを次のように整理できる。

①特定の教員に負担がかかりすぎない体制の構築
徳島文理大学の竹内准教授は「入学者フォローを担当教員に全て任せると手が回らなくなるため、保護者や教育事業者も巻き込み、それぞれの役割を明確にして対応することが重要だ」と話す。
多忙で疲弊する教員が増える中、特定の教員に負担が集中しない体制づくりが重要と言えるだろう。
🔗徳島文理大学の「保護者参加型の入学前教育スクーリング」

②教職員が自由に学生データを活用できる仕組み作り
教職員が連携して学生のフォローにあたる場合、普段は学生と直接相対することが少ない職員をはじめ、全体での情報共有を可能にしておく必要がある。全学生の出席状況や成績等のデータを蓄積し、支援担当の教職員がいつでも自由に確認・利用できるようにしておくことが望ましい。
学生のデータに対する教職員のアクセシビリティが向上すれば、「どの学生に」「誰が」「どのように」フォローをするか、検討しやすくなる。

③6年間の出発点となる入学前教育で育成すべきは「基礎学力<学習意欲」
広島国際大学の山口学科長は「これまで、本学の入学前教育は基礎学力向上を目的とし、独自教材の作成や個別指導を実施してきたが、入学までの短期間では十分な効果が得られなかった」と話す。2025年度入学生からは、学習意欲向上・学習習慣定着・学習内容の事前理解を主たる目的とする入学前教育に変更。外部講師の講演を通して学習意欲を高める初年次教育とあわせ、入学前から初年次にかけて、大学の学びへのよりスムーズな接続を図っている。

薬剤師国家試験合格をめざす薬学部の学生にとって、基礎学力を向上させる必要性は明らかだが、これを短期間で実現するのは困難だ。6年間という長期間にわたって学力を向上させていくうえで、まずは学習意欲の向上が大切になる。
従って、入学前教育は学習意欲の向上を主目的とし、基礎学力を伸ばすための土台作りを行う方が効果的と言えそうだ。

福岡大学薬学部では今まさに、入学前教育の見直しに向けた検討が始まったところだという。池田教授は「2大学の報告を聞いて、学生情報のデータベースの重要性などをあらためて理解できた。自学の入学前教育の整備に向けて参考にしたい」と話した。

進研アドは今後、他の学問系統でも同様の情報交換会を開催していく予定だ。

*この記事を読んだ方におすすめの資料
🔗新入生面談を効果的に実施する方法~薬学部編~