入学前教育のスクーリング②久留米工業大学
大学1年生の体験談や助言で不安を解消し、学びへの意欲を高める
入学前教育・初年次教育
2024.0617
入学前教育・初年次教育
3行でわかるこの記事のポイント
●プログラムの課題完了率向上を目的に企画
●教員ではなく「1年上の先輩」が語ることで説得力を増す
●仲間づくりを促すためメタバースの活用も検討
入学前教育の一環としてスクーリングに力を入れている大学を紹介するシリーズの2回目は、久留米工業大学を取り上げる。自学の1年生も参加する点が特徴だ。先輩として、課題にしっかり取り組むことの大切さ、入学後の大学のサポート体制などを伝える。受講者の課題をやり遂げる意欲を高め、大学生活に対する不安を払拭することがねらいだ。
久留米工業大学は工学部に機械システム工、交通機械工、建築・設備工、情報ネットワーク工、教育創造工の5学科があり、入学定員は計320人。
総合型選抜と学校推薦型選抜合わせて180人ほどの入学者全員を対象に、入学前教育を課す。当初は内製で実施していたが、2020年度から外部のプログラムを活用している。
内製の頃は、教員がドリルを作って解かせる基礎学力向上型だった。しかし、フォローまでは手が回らず、提出も課さなかったため、実際の取り組み状況は把握できなかった。
現在使っている外部プログラムは、①基礎学力以上に意欲の維持・向上に重きを置いている、②課題提出が滞っている受講者に連絡するなど、フォローが手厚い、といったことが選択の決め手になった。
入学前教育を担当している河野央(ひろし)教授は次のように説明する。
「基礎学力が高いことは理想的だが、3カ月程度で飛躍的に伸ばすのは難しい。それより、大学での学びに対する期待や意欲の方が向上させやすい。本学の教育の特色である地域課題解決のPBLに取り組むには、学力もさることながら、学んだことを生かして誰かの役に立ちたいというモチベーションが大事。それがあれば、プロジェクト活動を通じて潜在能力が花開く可能性が高い」
入学前教育プログラムの課題完了率の向上をめざし、2023年度入学者からスクーリングを組み込んだ。意欲向上のためには、最後まで投げ出さず取り組ませることが大事だと考えたのだ。
「なぜ課題に取り組む必要があるのか、最初に文書で説明しているが、それだけでは十分に伝わらない。直接語りかけて理解してもらう必要がある」と河野教授。
それを教員目線で語っても響かないし、3、4年次の在学生でも受講者にとっては「経験を積んだ大人」に感じられ、共感を得るのは難しいと考えた。「むしろ、話し方にぎこちなさが残るくらいの1年次の先輩が少し前の自分の経験を語る方がリアリティが増して共感でき、受講者の気持ちを動かすことができる」(河野教授)という結論になった。
スクーリングに参加する1年生は、①自身も年内入試で合格して入学前教育を受講した、②入学後の授業態度や生活面に大きな問題がない、③課外活動など一生懸命取り組んでいることがある、といった観点で各学科から1人ずつ選んだ。
事前ヒアリングをもとに、当日どんな話をしてもらうか調整した。江藤徹二郎教授によると、それぞれが自分の入学前を振り返り、「工業高校出身でも授業についていけるだろうか」「ちゃんと友達ができるか」など、不安だったことを思い出したうえで、「後輩にはこんなアドバイスをしたい」と積極的な提案をしてくれたという。
スクーリングは1月中旬、オンラインで90分間実施する。
まず、講師が入学前教育プログラムの概要と進め方を説明。大学での学び方は高校までとは異なること、入学までにしっかり準備したかどうかで大学生活が変わることを伝え、課題は提出期限を意識して計画的に進めることが大切だと強調する。
次に、各学科の1年生が、1人5分程度のプレゼンテーションをする。入学前の課題にどう取り組んだかに加え、大学生活全般にわたってどんな不安があったか、現在はどうか、何に熱中しているかといった話をする。受講者の不安を和らげ、入学が楽しみという気持ちにさせることがゴールだ。
続いて、受講者と1年生が学科ごとのブレイクアウトルームに分かれ、教員のファシリテーションの下でフリートークをする。受講者の疑問や不安に1年生が答える形で進行。
「自分も最初は、何のために入学前からこういう課題をやらないといけないのか、正直、面倒に感じた。でも、やり遂げたことが自信になり、今も頑張れている」といった体験や気持ちが語られる。
1年生によるプレゼンテーションやフリートークでは、基幹教育センターによるサポートの手厚さを印象づける。教員が常駐し、授業でわからなかったところを聞きに行けばマンツーマンで教えてくれる。
地元の連携高校に対しては、入学前教育プログラムのサポートも実施。受講者がセンターを訪れ、解けなかった問題について質問する日を2回設けた。
スクーリングでは実際にサポートを受けた受講者、1年生がそれぞれの感想を話すほか、センターの教員も利用方法について説明した。
入学前教育の刷新から5年目、スクーリングは2年目となった2024年度入学者は、課題の期日内提出率が前年より高かった。スクーリング後のアンケートでは、「不安が小さくなった」「苦手な科目を克服する!」「先輩のように勉強もサークルも頑張りたい」など前向きな声が多く、教員も心強く感じたという。
次年度以降のスクーリングの課題は、入学前からの友達づくりを促すことだ。オンラインでの実施が壁となり、今はその場限りのつながりにとどまっている。
河野教授は「Webカメラをオンにするよう促しているがオフのままの生徒が多く、強制もできない。お互いの顔が見えない中では、なかなか距離は縮まらない」と話す。
九州各地から入学者がいるため、集合形式での実施は難しい。次善の策として考えているのが、メタバースの活用だ。
久留米工業大学はキャンパスをバーチャル上で再現し、アバターによるコミュニケーションや授業への参加ができる「メタバース・ラボ」を構築済みだ。次年度以降はそれを会場にしたオンラインスクーリングができないか検討する。
「アバターを使えばコミュニケーションが活性化し、スクーリング後も励まし合って課題に取り組んだり、入学後すぐに親しく付き合ったりする仲間ができるのでは」と河野教授、江藤教授は期待している。
このようなスクーリングの工夫によって課題への取り組みや仲間づくりを促し、入学後の学びとさまざまな活動に対する期待や意欲をより高めたい考えだ。
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