2024.0909

近畿大学経済学部が起業志望者対象の総合型選抜を導入、入学前から支援

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3行でわかるこの記事のポイント

●高校生、大学生にとって起業のハードルが下がっていることに着目
●事業計画のプレゼンで課題や解決策、ビジネスモデルなどを評価
●多彩なプログラムや活動拠点の提供で手厚い支援

近畿大学の経済学部は2025年度入試から、起業志望の高校生を対象とする総合型選抜を導入した。入学後は独自の課外プログラムによって起業の実現を支援するほか、就職において企業が評価するようになった「起業マインド」を育てる。プログラムの一部を入学前から提供し、スタートダッシュに向けて伴走する。


「起業志向型」含め3つの総合型選抜を新設

近畿大学経済学部は2025年度入試で、3つの総合型選抜を新設する。2003年の学部設置以来、AO入試も含め初めての実施となる。

「総合型選抜A(グローバルキャリア志向型)」は、外国語外部検定試験の一定以上の成績等を出願条件とする。「総合型選抜B(ビジネス・データサイエンス志向型)」では、日商簿記検定やITパスポート試験など、商業系や情報系の資格試験の実績等を評価。
起業志望者を対象にするのが、「総合型選抜C(起業志向型)」だ。

いずれも他大学との併願が可能で、経済、国際経済、総合経済政策の3学科で、3つの総合型選抜によって計10人程度を募集する。 

入試の早期化を受け、「優秀な人材を早めに確保したい」

近畿大学では2025年度入試で、全学的に総合型選抜の新設や募集枠の拡大をしている。その理由について、経済学部学生センターの江川丈晴課長は、①国公立大学を含め入試が早期化し、自学でも優秀な学生を早期に確保する必要性が高まっている、②15学部それぞれの教育にマッチした学生を受け入れるため、適性重視の選抜方式を強化したい-と説明する。

経済学部では前年度までも、海外での経験を評価する帰国生入試、専門高校や専門学科、総合学科での特色ある学びや経験を評価する学校推薦型選抜を実施していた。総合型選抜A Bはその後継的位置づけで、出身高校等にかかわらず本人の能力・適性を重視して選考する。
江川課長は総合型選抜Cを含む3つの入試について、「人物、スキル、将来の可能性を評価する点が共通だ」と話す。

入学前から起業相談や在学生起業家との交流の機会を提供

総合型選抜C(起業志向型)について、詳しく説明していく。
出願条件は、①在学中の起業を強く志望している、②起業経験がある、③高校入学後、ビジネスコンテストやアイデアコンテスト等での受賞経験がある-のいずれかに該当すること。
出願時には志望理由書のほか、事業・活動計画に関するプレゼンテーション動画を提出させる。テーマは「起業によって提供したいサービス、解決したい課題」「起業を実現するため大学で取り組みたいこと」など。

1次審査では、志望理由書と動画をもとに総合的に評価して選考。2次審査でも同様のプレゼンテーションを対面で課し、口頭試問を行う。起業により解決したい課題、解決策となる製品やサービス、競合優位性、顧客、ターゲット市場、ビジネスモデル、収支計画、メンバー等に加え、「近畿大学での時間や環境をどう活用したいか」という意欲や期待も評価する。

この入試を経た入学予定者に対しては、同大学独自の起業支援プログラム「KINCUBA(キンキュバ)」の一部を提供。プログラムを企画・運営する起業・関連会社支援室の髙木純平事務長は、「起業相談やビジネスプランをブラッシュアップする"壁打ち"の機会、イベント・セミナーに参加したり、在学生起業家と交流したりする機会を提供する」と話す。

背景に学生のキャリア観や起業の採用観点の変化

総合型選抜C(起業志向型)を構想した背景について、江川課長は以下の5つの要素を挙げる。

①学生のキャリア観の変化
就職した後も転職や起業など、さまざまな経験を積みながらキャリアアップを図りたいと考える学生が増えている。
②起業をめぐる環境の変化
高校生や大学生でもSNSを活用して情報の収集や発信ができるなど、起業のハードルが下がっている。
③企業の採用観点の変化
人物や専門性といった従来の観点に加え、起業マインドも重視するようになり、起業経験のある学生を優遇するインターンシップも登場している。
④近畿大学の起業支援体制の充実
KINCUBAを柱とする起業支援が軌道に乗り、起業実績も増えている。
⑤経済学部の教育内容
起業において必要不可欠なスキルである統計、データ分析の教育に4年間を通じて力を入れている。

①~③の変化や新たなニーズに応える入試で起業志望者を受け入れ、④⑤の教育体制によって支援しようというわけだ。

目標より1年以上早く「近大発ベンチャー100社創出」を達成

新しい入試と密接に関わる「KINCUBA」について、もう少し詳しく説明しよう。
この名称はKINDAIINCUBATIONを組み合わせた造語。院生も含む学生、研究者らによる大学発ベンチャーの創出を目的とする多様な支援プログラムで構成される。起業・関連会社支援室の専従職員5人に、産学連携や科研費獲得支援などを担当する兼務職員を加えた10人でプログラムを企画・運営している。

2022年10月には、学生が24時間利用でき、法人登記も可能なインキュベーション施設「KINCUBA Basecamp」をオープン。創立100周年となる2025年度末までの目標としていた「近畿大学発ベンチャー企業100社創出」は、1年以上早い20245月に達成している。

充実したリソースに触れさせ、「ここで学びたい」と思ってもらう

KINCUBAによる学生対象の支援においては、①起業に関心がある「起業憧れ層」、②実際に起業したいと考えている「起業予備層」、③具体的なアイデアを温めている「起業準備層」という3層を想定。

①の学生に対しては、起業マインドを高めることを目的に、学生起業家やイノベーターを講師とする各種イベント・セミナーを開催。
②に対しては、ケーススタディ形式で経営スキルを学んだうえで事業プランを作成してプロからフィードバックを受け、実際に起業まで行う体験講座などを開催。
③の学生のビジネスプランに対しては、専門家が個別にメンタリングを実施。法人登記費用の支援やビジネスコンテストの案内などを行う。
こうしたプログラムはすべて、課外活動として位置づけられている。

kincuba.png

 総合型選抜C(起業志向型)による入学予定者には、「起業憧れ層」対象のプログラムを中心に、人的交流の機会を提供する予定だ。
KINCUBAという本学が誇るリソースに触れることによって、併願大学ではなく『近大で学びたい』と思ってもらいたい。入学前からリソースを活用すれば、4月には理想的なスタートダッシュを切れるはずだ」(江川課長)。

起業・関連会社支援室の垂見俊秀氏は、「オープンキャンパスでKINCUBA Basecampを紹介する企画は今年が2年目だが、前年よりかなり参加者が増えた。『この施設やKINCUBAがあるから近大を受験したい』という声も聞いている」と説明。"起業家の卵"たちの総合型選抜C(起業志向型)へのエントリーに期待を寄せる。 

起業志望者対象の入試が成果を上げれば他学部に拡大する可能性も

江川課長は「新入試の成果を検証し、必要に応じて出願条件や選考方法を見直していく。入学後の成績を含め、好ましい結果が出たら他学部への展開の可能性も出てくるだろう」と話す。
「将来的には、経済学部以外の学びに興味がある起業志望者も積極的に受け入れ、『起業するなら近大へ』というKINCUBAのキャッチコピーを大学のブランドにしたい。経済学部の新たな総合型選抜は、全学的な改革を加速させるチャレンジだ」