2024.0520

文科省が総合型選抜の効果に関する調査結果を公表、課題は評価観点の設計

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3行でわかるこの記事のポイント

●全大学・短大対象のアンケートのほか、導入校の面接調査も
●大学の総合型選抜導入率は私立93%、国立78%に対し公立は44%
●9割の大学が「多面的・総合的評価による選抜ができた」

文部科学省はこのほど、大学・短大における総合型選抜の導入効果に関する調査研究の結果を公表した。多面的・総合的な評価、学力型入試では選抜できない資質の評価といった効果が挙げられる一方、評価観点の設計の難しさや業務負担の大きさといった課題が指摘された。導入大学に対する面接調査では、教職協働や専門人材の活用による教員の負担軽減策が報告されている。

🔗文科省が公表した調査結果
*図表は公表資料より


制度導入から20年余りたったことをふまえて調査を実施

「大学入学選抜における総合型選抜の導入効果に関する調査研究」は、前身であるAO入試の制度導入から20年余りたったことをふまえ、総合型選抜の成果や課題を分析し、導入効果を検証することが目的。文科省が民間企業への委託によって実施した。

アンケート調査は782大学、290短大を対象に2023年9月~2024年1月に実施され、回答率は大学97.8%、短大98.3%だった。
他大学に先駆けてAO入試を導入した大学や、この入試方式の導入に積極的な14大学に対しては、2024年1月~3月にオンラインによる面接調査が実施された。

報告書から、大学に関する調査結果を紹介する。

〈アンケート調査の結果〉
大規模・中規模大学の導入率は約95%で小規模大学は83%

大学における総合型選抜の導入率は85.6%。設置形態別に見ると、国立78.0%、公立43.6%、私立93.4%となっている。

規模別では、大規模校95.0%、中規模校94.1%に対し、小規模校はこれらより10ポイント以上低い83.0%だった。

総合型選抜導入の目的は、「学力の評価だけではなく、受験者を多面的・総合的に評価する選抜を実施するため」が最も多く(「大変当てはまる」+「やや当てはまる」=98.6%、以下も同様)、「アドミッション・ポリシーに適った入学者をより丁寧に選抜するため」(97.3%)、「主体性・多様性・協働性をもって学ぶ姿勢や態度をもつ入学者を選抜するため」(95.8%)と続く。

導入の効果は「他の選抜方法と比較して、受験者を多面的・総合的に評価する選抜を実施できた」(90.8%)が最も多く、先述した目的に合致した成果と言える。これに続くのが「他の選抜方法と比較して、学力検査を重視した入試では選抜できない資質をもつ入学者を選抜することができた」(87.7%)、「他の選抜方法と比較して、受験者の個性や特性等を評価する選抜を実施できた」(84.9%)など。

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導入の課題として挙げられたのは「他の選抜方法より、評価する観点の設計が難しい」(59.4%)が最も多い。次いで「他の選抜方法より、選抜に関係する業務時間の負担が大きい」(56.9%)、「他の選抜方法より、評価結果の点数化が難しい」(54.1%)など。

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〈導入校に対する面接調査の結果〉
「入学者確保のために導入しているケースがある」との指摘も

全般的傾向では、各大学の総合型選抜のねらいとして、「学ぶ人材の多様性を担保」するため、「尖った人材」「伸びしろ(本質を捉える能力)を感じられる人材」などに着目した選抜がなされていることがまとめられている。入学後もこうした資質の深化、醸成に努めた結果、学生や就職先企業などの満足度が高いという評価も聞かれたという。

一方、選抜が機能しなくなっている大学が、入学者確保のために総合型選抜を導入しているケースもあると指摘。私立大学においては、一般選抜が機能している一部の大学を除き、年内入試にシフトせざるを得ない状況だと認める大学も多かったようだ。「特に小規模私立大学においては総合型選抜の体制面に課題を感じつつも、受験者の早期入学確定ニーズに対応した動きが拡大している」と分析している。

アンケート調査では多くの大学が選抜にかかる負担の大きさを課題に挙げたが、面接対象校では「教職協働」「職員を中心とする書類選考」「専門人材」等による教員の負担軽減を図るケースも見られた。

入学者の質の確保に向けた取り組みとしては、高大接続プログラムや入学前教育、初年次教育などが実施されている。

ここからは、面接対象になった14大学の中から私立5校について、総合型選抜の特徴や実施体制、入学前教育の内容、導入効果などに関する部分を紹介する。

桜美林大学 高度な研修を受けた職員が書類選考を担当

1996 年に導入した「自分推薦」入試の名称を1999年に AO 入試に変更して以来、長期にわたり総合型選抜を実施。2023年入試全体に占める総合型選抜の割合は30.7%(学校推薦型選抜は22.9%)

一次書類選考は高度な研修を受けた事務職員が担当し、教員の負担を軽減している。現在は 3040人で書類を審査。入学部の専任職員が10人程度、それ以外の部署から2030人が加わる。

学校推薦型選抜の合格者とあわせ、入学前教育はコンピュータ上で5教科の学習ソフトを提供して勉強するよう指導。リベラルアーツ学群の場合、希望者を対象に外部の教材を活用するほか、探究的な取り組みにつながる教材でも学ばせる。グローバル・コミュニケーション学群では、入学後の学修言語として英語を選択した者のうち希望者に英語の集中講座を実施する。
配付する教材については希望者の自主的な学修と位置づけ、到達度の管理や指導は行っていない。 

産業能率大学 教職協働の伝統の下、教員と職員がペアで面接

1998年度に11 月入試でAO入試を導入。2023年度の全入試に占める総合型選抜の割合は21%(学校推薦型選抜は10.4%)

さまざまなタイプの学生が集うことによって刺激し合い、結果として学びの活性化が期待できると考えている。

30年近く教職協働を実践する中で、入試の面接も教員と職員がペアで担当。職員は入試企画部のほか、教務課、学生サービスセンター、キャリアセンター等から推薦してもらう。

入学予定者全員に対して「主体的学習者育成プログラム(問題発見編・問題解決編)」講義・グループワークをはじめとする入学前教育を実施。入学後のPBLも拡充している。「入試で新たなハードルを課すのであれば、入学者が『大学でやりたかったのは、まさにこういうことだ』と感じられる教育プログラムを用意する必要があり、一貫性ある教学マネジメントにも力を入れている」と話している。

東京都市大学 合格者に人気プログラム履修の優先的資格を与える

武蔵工業大学時代の1993年から公募制の自己推薦入試(AO 型入試)を導入。2023年度の入学定員全体に占める総合型選抜の割合は5.1%(学校推薦型選抜は12%)

入学当初は一般入試による入学者の方が学力が高い傾向にあるというが、総合型選抜や学校推薦型選抜による入学者が「あっという間に追いついてくる」としている。

「新時代のものづくりを切り拓く人材の育成」を掲げ、理工学部7学科の領域を横断的に学ばせる「『ひらめき・こと・もの・ひと』づくりプログラム」は学生からの人気が高く、定員を超える履修希望者がいる。総合型選抜の一つ「学際探究入試」による入学者は優先的に履修資格を与えられるため、同プログラムで学びたくて出願する受験生が多いという。
高大接続の一環として実施する独自の探究学習プログラム「OPEN MISSION」では、高校生が各学科から出される課題に取り組む。修了書は総合型選抜出願時にアピール項目として活用できる。 

京都文教大学 入学前教育のデータを入学後の指導に活用

2001年にAO入試を導入。2024年度入試では募集定員440人のうち総合型選抜は65 人 (14.8%)。(学校推薦型選抜は170人で38.6%)。

受験者一人ひとりに対して、自学の教育力で大学卒業まで導くことができるか吟味して受け入れるという理念の下、受験者の「選抜」ではなく、入試で得た情報を入学後の初年次教育に生かすことが重要との考えで総合型選抜に取り組んでいる。

進学の意思や意欲が未成熟な入学者もいるのではとの考えから、入試で手間をかけて大学での学びを体験的に伝えて自律的な進路選択につなげ、新たな高大接続の道筋や受験者層の掘り起こしにつなげたいという。

入学前教育には全学、および学部単位で取り組んでいる。個人面談を組み込み、継続的な学習を課すという方向性だ。大学生活への適応に力点を置き、入学予定者の様子を把握することを重視。学習に向かう態度(学習力)や学習への関心・意欲を把握し、入学後の指導・支援につなぐ取り組みにシフトしつつあるという。
入学後は入学前教育のデータを活用し、教員間で学生情報を共有しながら履修指導や面談、教授法の工夫など、一人ひとりのニーズや状況に応じた支援をしたい考えだ。 

筑紫女学園大学 入学前教育での授業体験によりモチベーションを維持

2019年から総合型選抜「CJアドミッション・ポリシー型入試」を導入。2023年度の入学者全体に占める総合型選抜の割合は11.3(学校推薦型選抜は46.9%)

現在の総合型選抜の一つである「CJアドミッション・ポリシー型選抜」は、初等教育コースが主催する「CJ サマーキャンプ」への参加を出願要件とし、合格後はスクーリングを含む入学前教育を複数回実施するなど、「育成型」の入試と位置付けている。

サマーキャンプでは、高校での学びと大学での学びがどうつながり、その学びが社会にどう接続するかを体感してもらう高大連携の一環として、学科ごとにプログラムを企画する。2 日間、教員や在学生と交流して大学の雰囲気に触れ、プログラムを通じて学習内容を知ることが入学後のミスマッチの防止に効果があるという。

スクーリング形式の入学前教育では、実際の大学の授業への参加やレポート作成を体験することによって入学までのモチベーションが維持されるほか、在学生や教職員とのコミュニケーションの場の創出にもつながっているという。 

各大学の理念とリソースに応じた手法、体制のブラッシュアップを

定員充足や学生の多様性確保、自学の学びに合う学生の確保など、大学ごとのさまざまなねらいの下、今後も全体として総合型選抜が拡大していくことは間違いない。
この調査でも指摘された課題の解決を図るうえで、面接調査に協力した大学の考え方や取り組みは多くの示唆を含んでいる。
それらを参考に、各大学が理念とリソースに応じて選抜手法や実施体制、入学前教育を含む教育接続の仕組みに磨きをかけ、総合型選抜を進化させることが期待される。

610日発行予定の冊子『Between』No.312の「入試戦略」特集でも総合型選抜に関する記事が掲載されます。ご期待ください。