2018.1105

アセスメントを起点に学修成果の可視化、入試改革を推進-成城大学

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●教員の納得感が薄かった社会人基礎力重視のアセスメント
●思考力や学習意欲を可視化するツールを求めていた
●入試方式別の学生の傾向を分析し、入試改革の議論に活用

大学にとって学修成果の可視化が重要課題となっている。そこで活用するデータの取得手段としては学生の生の声を聞く学生調査に加え、汎用的能力等を客観的に測定するアセスメントも有効だ。ベネッセi-キャリアが提供するアセスメント「GPS-Academic」を活用している大学の事例を通して、アセスメント選択のポイントや活用方法を紹介する。今回は思考力の可視化を重視する成城大学を取り上げる。


●「教員が授業を通して修得させたい力を測定できるアセスメント」

 成城大学は経済、文芸、法、社会イノベーションの4学部の学生が4年間を通じて同じキャンパスで過ごす密度の高い教育環境を生かし、少人数制のアクティブラーニングや多彩な国際教育を展開している。
 教学IRにも積極的に取り組んでいる。教学改革におけるPDCAの起点となる学修成果等のエビデンスとして、以前から外部アセスメントを導入して汎用的能力を測定していた。どのような教育によってどのような力がつき、それが在学中にどのくらい伸びているのか。特に、学生の思考力や学習意欲を可視化したいと考えていたが、当初、採用したアセスメントは学修成果として「社会人基礎力」の評価にフォーカスしたものだった。その尺度について、教員陣が考える学修成果の観点からの納得感が低いことが問題視されていた。
 認証評価への対応も念頭に、4学部の学生の傾向を統一的、客観的に評価できるツールを求めていたところ、GPS-Academicを知り、採用に至った。
 GPS-Academicの導入の決め手となったのは、以下の3点だ。
①CBT(Computer-Based Testing)だったこと
②思考力を測れること
③ロジックに納得感があったこと
 ①については、受検に対する学生のストレスの少なさに着目。②については前述の通り、それまで採用していたアセスメントの尺度に対する納得感が全学的に低かったため、思考力や学習意欲を評価できるアセスメントに共感を覚えた。
 ③は②の延長上にある観点だ。GPS-Academicは京都大学の楠見孝教授による認知心理学の理論をベースとし、「批判的思考力」「協働的思考力」「創造的思考力」を測定する。「これらは大学教員が日々の授業などを通じて学生に身につけてほしいと考える能力に近く、思考力、とりわけクリティカルシンキングを学生に求めない教員はいないはずだ」。経済学部教授で教育イノベーションセンター長も務める杉本義行副学長はそう指摘する。また、一部記述式も導入したことで、より精度の高い測定も期待された。これらの点で、成城大学の教員にとってGPS-Academicは自分たちがめざす教育との親和性が高いと受け止められたようだ。

shikoryoku.jpg

 杉本副学長は「社会人基礎力は、いずれ就職して社会に出ていくというトランジションの観点から学習目標として設定すべきだが、思考力ほどは教員に強く意識されていないのではないか」と見る。

●指定校推薦・AO 入試による入学者は創造的思考力が高い傾向

 GPS-Academic導入の主な目的は教学改革における指針、入試改革など、さまざまな施策のエビデンスとしての活用だった。初回の実施となる2018年4月は全学部の新入生1000 人以上が受検。学部ごとに入学時のオリエンテーションに紐づけて日時を指定、パソコン 教室などで実施したところ、81.3%という高い受検率を達成できた。翌月には希望する学生を対象にフォローガイダンスも行った。受検者ごとに入試方式と紐付け、多様な学生が入学しているか、入試方法の検証に利用した。
 杉本副学長は「2020年度に向けて入試改革が話題になっているが、その目的は多様な考え方や価値観を持つ学生を広く全国から集めること」と指摘。自学でも受験生を評価する手法や試験内容の検討を続けているといい、「そこで必要なのは評価の基準となる客観的な指標だ。指定校推薦入試ならこう、AO入試ならこう、一般入試はこうという入試方式別の入学者の傾向がつかめれば、それに合わせた選考方法の議論も活発になる」と話す。
 入学時の思考力や学習に対する姿勢・態度に関するデータを取得できれば、在学中の成長度合いを見ることが可能になり、教学改革のツールとして活用できると考えている。
 2018 年7 月、IR 担当職員らによるGPS-Academic の合同結果報告会を実施。入試データやアンケートデータとGPS-Academic の結果データとをかけ合わせて入試方式別の学生の傾向を分析し、報告した。指定校推薦・AO 入試では「創造的思考力」が高い学生が集まっているという分析結果に関心が集まり、別の尺度で分析してみたいという学部もあった。
 杉本副学長は「このアセスメントデータが入試・教育改革に関する学内の議論を盛り上げる起爆剤になることを期待している」と話す。

●アセスメントのスコアが学生にもたらす気づきにも期待

 今後は全学部の学生が1 年次と3 年次にGPS-Academicを受検する体制を整え、思考力の成長度合いを検証する方向で考えている。学修成果を可視化し、教学改革における活用を強化する予定だ。学部別の思考力の傾向、伸び方の違いなどを数値化できれば、各学部の授業設計にも役立つと期待している。
 GPA とGPS-Academic のスコアとの相関関係にも注目している。杉本副学長は「スコアが学生自身に気づきをもたらす効果にも期待したい。日々の学びが思考力の形成とどう結びついているのか、アセスメントの受検を通して考えてほしい。就職活動での活用を念頭に置いた学生eポートフォリオとの連携についても考えていきたい」と話す。
 成城大学はこれまでも教学IR 活動のPDCA に取り組んできたが、学生一人ひとりに社会で役立つ汎用的な課題解決能力を身につけさせることを最終的な目標に据えている。その能力を測るツールとして、今後もGPS- Academicを積極的に活用したい考えだ。

*GPS- Academicの詳しい説明はこちら


*関連記事はこちら

DPに基づく評価指標の下、多面的評価で学生の能力を可視化-高知大学
高大接続改革期の入学前教育、その課題と可能性~進研アドセミナー報告
追手門学院大学~アサーティブ入試の検証から施策の改善・立案へ(下)