2025.0616

入学前教育を全学で共通化し、入学直後の指導に活用できるデータを取得―甲南大学

入学前教育・初年次教育

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3行でわかるこの記事のポイント

●学びへの接続や学習履歴の把握が可能な入学前教育プログラムに刷新
●全学の教学組織を設置し、入学前教育と共通教育を担当
●受講データに基づき各学部が共通の指標で課題を検討

甲南大学は学部学科ごとに異なっていた入学前教育の内容と運用体制を、2013年度から全学で統一した。学部教育への接続や、受講データが指導に活用できる外部のプログラムを導入し、現在に至るまでさまざまな見直しを加えながら継続している。全学単位の見直しに至った背景とその後の運用について紹介する。


受講前後で「入学後に必要な知識・ スキルを理解」の肯定率が上昇

甲南大学の入学前教育は開始当初から現在に至るまで、年内入試による入学予定者が対象。2012年以前はスクーリングや高校の科目の復習など、学部学科単位でさまざまなプログラムを課していた。

高校までの復習は学習の継続に主眼が置かれていたため、「入学後の学びにつながらず、学習に対するモチベーションを維持するのが難しいのでは」という声が教職員から挙がっていた。また、教材に取り組ませるだけでは、学習の履歴や成果の把握が難しいという課題があった。

これらの課題をふまえて、入学までの継続的な学習を促すだけでなく、「学部学科ごとの学びにつながる教材が選択でき、入学後に向けた意欲を醸成できる」「全学共通の基礎データを取得し、初期指導の改善ができる」という観点から、新しい入学前教育プログラムの導入を検討した。

これらのニーズに最も適したものとして、教育事業者のプログラムを2013年度に導入。2025年度現在、入学者の約3割を占める年内入試入学者と系列校からの入学者を対象に受講を課している。
経営学部は「社会科学系」、日本語日本文学科は「人文学系」という具合に、学問系統に合ったプログラムで入学後の学びへの接続と学習意欲の喚起を図っている。
最新の2025年度入学予定者の受講アンケートでは「大学・学校での学びに必要な知識やスキルがわかっている」の肯定率が、受講前後で平均64.2%から96.5%に上昇。受講後の「大学・学校での学びが楽しみになった」の肯定率は平均94.5%に上った。

教育成果の向上という本質的な課題解決への取り組みをスタート 

入学前教育の見直しの背景には、学外での動きもあった。
2012年当時に入学前教育を担当していた大学事務部(現・学長室)の担当者は当時の様子をこう振り返る。「近隣の競合大学では学部改組や積極的な入試改革、先進的な広告展開など、動きが活発になっていた。募集環境がどんどん厳しくなる中でも、教育成果を上げるという本質的な改革は欠かせない。まずは、学力の問題が顕在化しやすい年内入試合格者のつまずきを防ぐ支援の強化から始め、全学的な支援体制の土台をつくろうと考えた」。

入学前教育の見直しを経て2018年には、全学の入学前教育や共通教育を推進する「共通教育センター」を設置。現在は「全学共通教育センター」と名称変更し、全学教育推進機構事務室の運営のもと、入学前教育と全学共通教育の段階的、継続的、組織的な推進を担っている。

全学共通の入学前教育を実施するメリットについて、担当者は「受講データに基づき、どの学部の教員も共通の指標で課題を検討できる」と話す。「入学前はどのようなコンディションだったか、どのような姿勢で入学前教育に取り組んでいたか、課題終了後、どのようなことに気づいているかなどを比較することができる。特に、受講状況が芳しくなかった場合のケアにおいて、対象者の優先順位を共通の指標に基づいて決められるので、支援がしやすくなる」とのことだ。

データから入学者の変化を予測し、早めに対策

同大学では、入学前教育の結果や汎用的能力の測定結果などのデータを全学的な会議で共有して入学者の状況を把握し、教育活動や学生の指導・支援に役立てている。また、内部質保証や教育改革を行ううえでの定量・定性的なデータとしても活用している。

現在、入学前教育を担当する全学教育推進機構事務室の担当者は「『締め切り期日までに課題を提出できたか』『課題を完了できたか』などを特に注視している。同じ学問系統のプログラムに取り組んでいる他大学の入学者の傾向も含めて、年内入試入学者の学習習慣や学びに対する姿勢が今後どのように変わっていくか、予測にも役立てたい」と話す。教員と共に入学者の質の変化を予測し、早めに対策を立てていく方針だ。

全入学者を対象に文章指導の入学前教育もスタート

全学共通教育センターは2025年度から、入学前教育の内容や入学直後の指導体制を2点改善した。

1つ目は、全入学者を対象に文章力を鍛えるオンデマンド教材を新たに追加したことだ。これまでは特定の学部のみで実施していたもので、レポートの作法や文章の要約について動画で指導する。
「入学前教育プログラムの受講アンケートで『レポート課題が不安』という声が多く、入学後の指導の負担を軽減したかった」と担当者。今後もアンケートの結果や指導教員の声をふまえ、ロジカルライティングなどのアカデミックスキルの育成法を改善していく方針だ。

2つ目は、スポーツ推薦入学者と系列校である甲南高校からの推薦入学者に対する指導体制の充実だ。学習意欲の向上と高等教育への円滑な移行という共通の目標に加え、前者については文武両道の大切さ、後者については10年一貫教育の実現をキーワードとして、2021年度入学生から対面式の入学前スクーリングを実施している。
スポーツ推薦入学者に対しては、生活環境が大きく変わる初年度をスムーズに送れるよう学部ごとに指導副主任制度も併せて導入。学習面や課外活動の状況をヒアリングし、必要に応じて指導主任と連携してつまずきの解消に努めている。
2025年度からは甲南高校からの推薦入学者に対してもこの制度を導入した。

データの全学的活用が課題

担当者は「入学前教育や全学共通教育の充実が全学教育推進機構事務室のミッションだが、まだ課題もある」と話す。「入学前教育の受講データの活用度は学部によって差がある。入学後の指導につながる有益な情報を使いきれていないのは非常にもったいない。学習意欲や学びの意識などを受講アンケートから汲み取り、全学で有効活用できるようにしたい」。
どのような入学前教育や導入教育なら入学直後の育成にスムーズに接続できるのか、引き続き検討していく方針だ。


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