2022.0121

未履修対応の入学前教育で指導に有益なデータを取得-神奈川歯科大学

入学前教育・初年次教育

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3行でわかるこの記事のポイント

●文系科目のみで受験した学生が約1割で、1年次はリメディアル教育中心の授業
●専門分野への興味を喚起する入学前教育で高い学生満足度
●課題提出状況とテストの得点率のデータを活用し、入学後の指導充実へ

神奈川歯科大学(横須賀市)は理科の未履修者の基礎学力向上を目的に、外部プログラムを使って入学前教育を実施してきた。2021年度に導入したプログラムは、受講を通して得られる学習習慣と学力のデータから各学生の特性を捉えることができる。これらのデータにGPAも合わせて分析し、入学後の指導に生かしたい考えだ。

理科未履修者への対応は「入学してからでは遅い」

 神奈川歯科大学は一般選抜で2科目を課す。必須科目はなく、英語と国語など文系科目だけでも受験できる。入学者の1割程度が文系科目で受験し、入学後に必要となる理科の科目未履修者もいる。そのため、1年次は理系科目のリメディアル教育を中心とするカリキュラムを組み、高校レベルの内容から教える。それでも十分に理解できない学生が一定程度いて、教員の間で「入学してからでは遅い」という認識が高まった。
 2012年度に導入した外部プログラムによる入学前教育は専門教育の準備となる内容で、30分程度のインターネット配信講座を視聴し、10問のテストを受けるというものだった。理科の未履修者を念頭に置いた施策だったが、入試方式や受験科目にかかわらず全学生に案内し、希望者に受講させた。「物理」「化学」「生物」の計10講座を推奨し、大学が費用を負担。学生自身が学習計画を立てて学び、1年次の担任が学習状況を管理した。
 しかし、希望者は少なく、申し込んだ者の受講完了率もあまり高くなかった。教員が受講を促すメールを送っても開封されず、こうした管理・対応で教員の負担が増して費用対効果に疑問を抱くようになった。

「学習習慣」と「学力」を軸にした4象限で学生の特性を把握

 こうした経緯を経て、2021年度入学予定者については別の外部プログラムに切り替えた。新しいプログラムは、高校までの学びと大学の学問を接続するというコンセプトの下、専門分野への興味を喚起して意欲や学習習慣を維持・向上させることに力点を置く内容だ。受講状況やアンケート結果のデータを入学後の指導に活用できること、運用・管理を委託することによって教員の負担を軽減できることなどが選択の決め手になった。
 化学と生物の2科目を採用し、従来通り入学予定者全員を対象に任意受講とした。大学が費用を負担すると主体的に受講してもらうのは難しいと考え、まずは自己負担でスタート。初年度は入学予定者約120人の3分の1にあたる39人が申し込んだ。
 下図は、2021年度の入学予定者を対象にした入学前教育の「課題の期限内提出状況」を「学習習慣」、「テストの得点率」を「学力」とそれぞれ読み替え、4象限上の受講者の分布を示したものだ。最も多いのは学習習慣、学力ともに高い「A(自律型)」の学生(33.3%)だが、いずれも不足している「D(要支援型)」も3割に上る。
 さらに、これらとGPAの関係を分析したところ、「A(自律型)」はGPAが高く、「D(要支援型)」はGPAが低い傾向が判明した。

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 初年次教育担当の栗本勇輝助教は「学力は高いが入学前教育の受講ペースが極端に遅いなど、特徴的な学生もいた。個々の特性がわかり、入学後の指導に生かせるデータが得られた」と話す。入学前の学習状況を把握することの重要性を教員間で共有できたこともよかったと考えている。
 プログラムの内容に対する学生の満足度も高かった。その一方で化学、生物を未履修ながら受講しない者、受講登録はしたが修了に至らなかった者もいた。今回のデータ分析の結果をふまえ、「入学前教育にしっかり取り組んだ先輩は成績がいいことを積極的に伝え、受講申し込みや実際の受講を促すことも検討したい」と栗本助教。

学習のつまずきを早期に把握するため、入学前教育のデータを活用

 同大学では理科の未履修について重視し、1年次のカリキュラムはリメディアル教育を柱に据えている。
 7週間を1ステージとする5ステージ制の学事歴を採用。ステージごとに少数の科目を集中的に学んで着実に定着させることがねらいだ。夏休み前の第2ステージまでがリメディアル科目にあてられる。高校での履修状況にかかわらず全員必修だ。
 教員1人が約20人の学生を受け持つ担任制を採用し、5月、および9月から10月の年2回個別面談をするほか、成績や講義の出席状況に応じて随時、面談を行い学習上の困りごとを把握してフォローする。
 2020年度と2021年度はコロナ禍の下、オンラインと対面を組み合わせるハイブリッド型授業が続いたため、成績が振るわない学生についてつまずきの原因の把握やフォローが難しいという。「そのような学生は自分から相談には来ないので、早い時期から教員による働きかけが必要だ。入学前教育の受講データは、フォロー対象の学生を特定するのに使える」(栗本助教)。
 2022年度は大幅なカリキュラム改革が予定され、リメディアル科目は必修ではなく、プレースメントテストの結果による指定履修制に変わる。成績上位者が高校の復習中心の授業でやる気をなくすのを防ぎ、空いた時間を施設見学等の活動にあてたい考えだ。


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