2018.0507

THE大学ランキング日本版2018―「国際性」上位大学の理念と戦略(下)

この記事をシェア

  • クリップボードにコピーしました

3行でわかるこの記事のポイント

●施策を個別に推進するのではなく、組み合わせにより成果を上げる
●インバウンド、アウトバンド両方で多様なニーズへの対応を推進
●自学のリソースと強みの再確認、学生ニーズの把握がカギ

「THE世界大学ランキング日本版2018」の「国際性」上位大学の取り組みを紹介する企画の後半では、7位から10位までの大学を取り上げる。前回の事例も合わせて概観すると、施策をうまく組み合わせて全体としてのパフォーマンスを上げていることなど、多くの大学にとって参考になりそうな共通項も見えてくる。

*「THE大学ランキング日本版2018―『国際性』上位大学の理念と戦略(上)」はこちら
*「THE世界大学ランキング日本版2018」の結果はこちら
*ランキング指標の解説はこちら
*「THE世界大学ランキング日本版」公式サイトはこちら


 「国際性」上位50大学は下表の通り。

kokusaisei.png

●渡航費・滞在費含め大学が負担して留学を推進する例も

7位 名古屋商科大学

① 外国人学生比率
 AACSB International、AMBAなどの国際認証を取得した海外のビジネススクールとの学術交流、交換留学を目的に世界54カ国130大学と提携協定を結んでいる。提携校との交換留学では授業料を相互に免除し、英語のみによる講義を開講して相互に単位認定するなどの便宜を図っている。さらに、留学生専用の寮を完備して日本でのキャンパスライフをサポートしている。

② 外国人教員比率
 国際認証で求められる多様性と世界標準のビジネス教育を実現するため、海外の教育機関で学位を取得し、高い研究業績を有する研究者を積極的に受け入れている。英語をはじめとする外国語科目だけでなく経済、経営など専門分野の科目も外国人教員が多く担当している。

③ 日本人学生の留学比率
 国際社会で活躍できるビジネスリーダーの育成を目的に、学生には海外留学、海外体験を奨励している。提携校との交換留学のほか、ダブルディグリー、語学研修、ギャップイヤー、世界一周、北南米一周、海外ボランティア、海外インターンシップなど、目的や内容の異なる多彩な留学制度を整えている。大学が実施しているプログラムでは授業料や渡航費を奨学金として支給する経済的サポートも行っている。

④ 外国語で行われている講座の比率
 日本で唯一、AACSB InternationalとAMBAの両方の国際認証を有し、世界トップレベルのビジネススクールと連携してグローバルキャンパスを整備している。毎年100人を超える交換留学生が在籍し、全て英語による講義が幅広い分野にわたり開講されている。これらは日本人学生も履修でき、海外留学をめざす学生などが受講している。

nagoyasyoka.png

8位 名古屋外国語大学

① 外国人学生比率
 2016年度から「留学生受け入れ200人計画」の下で協定校拡大に努め、22カ国・地域128校との間で授業料相互免除を基本とする協定を結んでいる。新しい留学生用宿舎も建設中。

② 外国人教員比率
 ネイティブ教員が1人で学生4人を担当する超少人数授業の1年次必修科目「Power-up Tutorial(PUT)」のほか、英語4技能を高める基礎科目を充実させ、常勤・非常勤合わせて155人の外国人教員を採用している。

③ 日本人学生の留学比率
 大学が渡航費・授業料・滞在費・教科書代・保険料を全額負担する「Total Expense Support System(TESS)」や、協定校での履修を単位認定して4年間で卒業できる仕組みなど、支援制度が充実。長期(半年~2年)、中期(3カ月)、海外研修(1~2カ月)の多彩なプログラムを設け、特に長期留学を奨励している。

④ 外国語で行われている講座の比率
 留学生と日本人学生が日本の文化や社会について英語で一緒に学ぶ「グローバルジャパンプログラム」の拡充などを推進。

nagoyagaidai.png

●留学生向けプログラムを英語力の条件を満たす日本人学生にも開放

9位 東京国際大学

① 外国人学生比率
 経済学部と国際関係学部で開講され、英語で専門科目を学ぶ「イングリッシュトラック・プログラム(Eトラック)」を中心に、2017年度時点で60カ国以上の国・地域から約1200人の外国人学生が学んでいる。2023年度の池袋国際キャンパス開設時には2000人に増やす予定。外国人学生の増加に対応できるよう教職員組織の国際化も進めている。

② 外国人教員比率
 Eトラック拡大のため、国際公募等を通じて外国人教員の採用を加速。日本人学生に対する英語教育では北米出身のネイティブスピーカーのみで構成するグローバル・ティーチング・インスティテュート(GTI)を設置し、現在約50人が在籍している。

③ 日本人学生の留学比率
 米国オレゴン州の姉妹校・ウィラメット大学で1年間学ぶ「アメリカン・スタディーズ・プログラム(ASP)」に毎年100人以上を派遣。ASPは語学教育とリベラルアーツ教育を合体させたユニークな内容が評価され、アメリカのアクレディテーション機関・NWCCUの認証を受けている。世界320大学が加盟するISEP(留学促進を目的とする大学連合)等の交換留学や各種語学留学制度も充実させている。アスリート学生向けのスポーツ留学プログラムもある。

④ 外国語で行われている講座の比率
 Eトラックが柱となっている。日本人学生でも英語力が一定の基準を満たせば、Eトラック科目の履修を認めたりEトラックへの転籍を可能にしたりしている。日本人学生対象の英語科目も拡充していく予定である。

tokyokokusai.png

10位 神戸市外国語大学

① 外国人学生比率
 外国人学生対象の日本語教育「Japanese Language Program」で交換留学を中心に広く留学生を受け入れている。大学による住居の確保や英語対応可能なカウンセラーの配置、学生による日常生活の支援など、サポートにも力を入れている。

② 外国人教員比率
 英語による授業への対応等のため、外国人教員は専任・非常勤合わせて一定数を確保している。

③ 日本人学生の留学比率
 「国内最大規模」という奨学金制度で経済的支援を実施。大学が設定した留学プログラムに限らず、日本人学生のいない環境を求めて自ら留学先を見つけてくる学生に対しても、休学中の授業料免除や単位認定などで支援している。

④ 外国語で行われている講座の比率
 学部の国際コミュニケーションコース、および修士課程の英語教育学専攻では英語による授業を標準としている。語学科目以外でも日本人の教員が外国語で行う授業を増やしている。

●「日本語能力不問」など、多様な留学生受け入れを推進

 「国際性」ランキングの上位大学は、外国人学生の受け入れ、外国人教員の採用、日本人学生の留学促進、外国語による授業実施などの各施策を個別に推進するのではなく、相互に組み合わせることによって全体のパフォーマンスを上げていることがわかる。例えば、外国人教員を積極的に採用して英語による体系的なプログラムを開講、そこに留学生を受け入れる一方、日本人学生も一緒に学ばせて語学力向上を支援し、留学へと背中を押すという具合だ。
 学生のインバウンドとアウトバウンドについては、前者で「日本語能力を求めない」「入学時期の選択肢を増やす」「派遣元の国や大学に合わせた特別プログラムを設ける」など、後者では「出発時期や留学期間の選択肢を増やす」「アジアへの派遣プログラムを拡充する」「プログラム内容の種類を増やす」など、いずれも多様化するニーズに対応する努力を惜しまないという、おおよその共通項が見いだせる。
 これらランクイン大学の取り組みは、これから国際性の向上に着手する大学にいくつかのヒントを与えてくれる。自学のリソースと強みをいま一度捉え直し、学生のニーズや地域の期待を十分に分析したうえで重点施策を決め、着実に進めていくことが重要と言えそうだ。


*関連記事はこちら