2018.0329

「THE世界大学ランキング日本版2018」の指標-「国際性」の観点を強化

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3行でわかるこの記事のポイント

●大学の声を反映して「進化するランキング」をめざす
●高校、企業の評判調査を入れて大学の強みを多面的に評価
●国立・大規模私大に有利な「学生一人当たりの資金」の比重を軽減

このほど発表された「Times Higher Education(THE:ティー・エイチ・イー)世界大学ランキング日本版」は、日本の特性に合わせた多面的な評価によって学部の教育力を可視化し、大学に対する社会の見方を変えたいというねらいの下で設計されている。大学の声を反映しながらランキングを進化させるべく、2回目となる2018年版のランキング指標は新たな項目の追加や比重の変更がなされた。多様なステークホルダーの視点を通して教育力を可視化する指標について解説する。

*「THE世界大学ランキング日本版2018」の結果はこちら
*「THE世界大学ランキング日本版」公式サイトはこちら


●「国際性」分野は項目の追加に伴い比重が4ポイントアップ

 「THE世界大学ランキング日本版2018」は学部レベルの教育に力を入れている日本の高等教育の特色を発信するため、学部の教育力に焦点を当てた指標を採用している。その点が、大学院の研究力に比重を置く「THE世界大学ランキング」との違いだ。表1で示すように、世界版で大きな比重を占める「研究」「被引用論文」、さらに「産業界からの収入」が日本版の分野としては設定されていない。

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 日本版では多様なステークホルダーの視点に基づく評価軸を取り入れている。実態として広く参照されている大学合格者の学力も指標として組み込みつつ、大学の入り口と接続する高校、出口と接続する企業等による教育力評価を導入。他国の大学に比べ遅れをとっている国際化を促すための指標も設けている。
 これらの観点を4つの分野に整理。分野名とそれぞれの比重は「教育リソース」34%、「教育充実度」26%、「教育成果」20%、「国際性」20%となっている。表2では、4分野の各項目を2017年版と対比させて示している。2017年版からの大きな変更点は「国際性」分野に項目を2つ追加し、それに伴って「国際性」の比重が「教育リソース」から移される形で4ポイント上がったことだ。

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 これらの指標に基づく算出に使われるデータソースは表3の通り。

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●高校教員を対象に「グローバル人材育成」「能力伸長」について調査

 以下、分野ごとに各指標を説明する。

<教育リソース 34%>
①学生一人あたりの資金(8%)
  ②と共に教育環境の充実度を示す指標として使用。
 経常収入÷在籍学生数
 在籍学生数は学部、修士課程、博士課程、専門職学位課程の合計。
②学生一人あたりの教員比率(8%)
 一方通行の講義型からアクティブラーニング型へと授業の転換が求められる中、学生に対するきめ細かい対応ができる環境かどうか。
 専任教員数÷在籍学生数
③教員一人あたりの論文数(7%)
 研究の卓越性が教育に還元されるという観点から論文の生産性を見る。エルゼビア社のデータベースを使用。
 論文数(2012年~2016年)÷専任教員数
④大学合格者の学力(6%)
 「どのような学力レベルの学生と共に学ぶ環境か」を教育リソースとして捉える。
 ベネッセ総合学力テストにおける大学合格者の学力(2016年度)を使用。
⑤教員一人あたりの競争的資金獲得数(5%)
 大学が自ら獲得している競争的資金獲得件数から教育環境の充実度がわかる。
 前回は文科省が所管する競争的資金のみが対象だったが、他の省庁等にも拡大。
 政府系の競争的資金の大学別獲得件数÷専任教員数
 今回、「国際性」に項目が追加されて比重が増加する分、「教育リソース」の比重が下がった。5項目のうち、国立大学や大規模私立大学に有利に働く「学生一人あたりの資金」、および研究力の評価に近い「教員一人あたりの競争的資金獲得数」が2ポイントずつ下がった。

<教育充実度 26%>
⑥高校教員の評判調査:グローバル人材育成の重視(13%)
 ⑦と共に、高校教員が、大学に送り出した卒業生から情報を集めて教育充実度に関する情報を持っていることに着目して指標化。進路指導における影響力が大きいため、⑦と共に13%の重みづけがされた。調査概要は表4を参照。
 「グローバル人材育成に力を入れている大学」を最大15校挙げてもらい、大学ごとの得票数を合算。
⑦高校教員の評判調査:入学後の能力伸長(13%)
 「生徒の力を伸ばしている大学」を最大15校挙げてもらい、大学ごとの得票数を合算。
 ⑥⑦で全大学数の89.8%にあたる大学の名が挙がった。

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<教育成果 20%>
 ⑧企業人事の評判調査(10%)
 日経HRの「企業人事担当者から見た大学のイメージ調査(2016年)」のデータを使用。
 企業人事に対する大学イメージ調査において、多様な力を側面別に聞いている国内唯一の指標として採用した。調査概要は表4を参照。
 調査内容は次の通り。全上場企業と一部有力未上場企業を対象に近年の新卒採用で正社員として採用・入社した実績のある大学を人数の多い順に10校まで挙げてもらった。各大学について、「学生のイメージ」(「熱意がある」「コミュニケーション能力が高い」等12項目)に関して「非常にあてはまる」~「まったくあてはまらない」の6段階評価をしてもらい、各項目の獲得点数の平均値を合算。
⑨研究者の評判調査(10%)
 THEが世界ランキングのために世界の研究者を対象に実施した評判調査の結果から、日本の研究者が日本の大学について評価したデータを抽出。調査概要は表4の通り。
 「日本で素晴らしい教育をしていると思う大学」を6つ挙げてもらい、大学ごとの得票数を合算。
 2017年版では「企業人事の評判調査」の比重は7%で「研究者の評判調査」は13%だったが、両者10%ずつ均等にして、より教育力を重視した。

<国際性 20%>
⑩外国人学生比率(5%)
 ⑪と共に、日本の大学の課題であるグローバル化を促すために、学内の多様性確保の状況を見る。
  在籍外国人学生数÷在籍学生数
⑪外国人教員比率(5%)
  在籍外国人教員数÷専任教員数
⑫日本人学生の留学比率(5%)...新規
 多様性ある学内環境を活用できる日本人学生の育成状況を見る。
 留学経験者数÷在籍学生数
⑬外国語で行われている講座の比率(5%)...新規
 留学生を教育する仕組みの充実度を見る。
 外国語で行われている講座数(語学を除く)÷全講座数(語学を除く)

●活用度の高いランキングをめざし大学とのコミュニケーションを深める

 以上、13の指標について0~100のスコアに換算し、それぞれの比重に応じて合計したスコアで総合ランキング、分野別ランキングが決められた。
 THEは安定的な指標に基づいて年度ごとの比較が可能で継続的に活用できる「THE世界大学ランキング日本版」をめざす一方、大学の声を反映しながらより活用度の高いものへと進化させたい考えだ。今回、「国際性」に項目を追加したのも「キャンパスのダイバーシティ化だけでなく、受け入れた外国人学生を教育する仕組みや日本人学生を送り出す仕組みなど、他の側面での大学の努力も評価してほしい」という大学の要望に応えたものだという。
 THEは次年度以降も必要に応じて指標を見直す考えで、要望や意見を集めるために日本の大学とのコミュニケーションを深めたい考えだ。


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