2018.0423

今年度からの私学助成配分ルール変更-教育の質の指標が固まる

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3行でわかるこの記事のポイント

●IR機能、アセスメントポリシー、授業評価結果活用などを段階別評価
●定員割れに対する減額率強化の具体的数値について最終調整
●減額率は階段方式から直線の傾斜(リニア)方式に変更

2018年度からの私学助成配分ルール変更に向けた文部科学省と財務省の調整が大詰めを迎えている。教育の質保証への取り組みを一般補助の傾斜配分の新たな指標として導入すべく、私立大学等改革総合支援事業から移す評価項目がほぼ確定。財務情報の非公表に対する減額率強化の具体的内容も決まった。焦点となっている定員未充足に対する減額率強化について最終調整を急ぎ、早ければ5月にも各私立大学に概要を通知したうえで、6月の補助金説明会で詳細を示す予定だ。

*見直しの基本的方向性はこちら


●どの程度からの定員割れをより厳しく扱うか検討中

 今回の見直しは、昨年夏に財務省が文科省に「私学助成が定員割れの大学の延命策になっている」と強く迫ったことが発端。財務省は2012~2016年度の私立大学等経常費補助交付状況をふまえ、「対象校の半数以上が定員を満たしていない」「定員割れが5年間続いた大学等も4割に上る」「定員割れの大学等への補助額が全体の2割を占めている」などと指摘。特に、私立大学等改革総合支援事業など、意欲的な取り組みを支援する特別補助の総額が定員割れの大学等の分で増加傾向にあることが問題視された。
*見直しの背景はこちら
 両省は2017年末までに、定員未充足や財務情報の非公表に対する減額率の強化、教育の質に関する客観的指標の導入といった基本的な方向性について合意。「経営努力が見られない大学への厳しい対応」「教育に努力する大学の支援」というメリハリをつける方針を打ち出した。
 当初は2017年度内に具体的な変更内容をまとめる予定だったが、「細かいすり合わせが残っている」(文科省の私学助成担当者)ため、決着を5月に持ち越した。すり合わせの焦点は、定員未充足の取り扱い基準となる具体的な数値。つまり、「収容定員充足率が9割以下になると段階的に2%~50%の減額(充足率5割以下は不交付)」となっている現行ルールを、「充足率のどのラインからを対象に、どの程度のより厳しい減額率にするか」という点だ。
 文科省には「定員割れしている大学のすべてが経営努力を怠り、進学先としての魅力に乏しいというわけではない。18歳人口の急減で学生確保は厳しいが、地域からは必要とされている大学もあるし、小規模大学では歩留まりの読み違えが充足率に大きく影響する」との認識があり、財務省もこうした指摘には理解を示しているという。未充足がどの程度であれば、補助金をさらに減らすことが適切と言えるのか、世論もふまえて見極めようとしている。
 現在、定員充足率90~87%で減額率2%、86~83%で4%、82~79%で8%...という具合に階段方式になっている減額ルールを、充足率89%台は減額率●%、88%台は〇%...というように直線の傾斜(リニア)方式に変えることは決定済み。充足率が1ポイント変わる「階段」の境目で減額率が4ポイントと大きく変わる現状を改善する。

●アウトカムにも配慮した教育の質に関する指標の導入をめざす

 一般補助における教育の質に関する客観的指標の導入について、初年度は「全学的チェック体制」「カリキュラムマネジメント体制」「学生の学びの保証体制」の3つの観点を設け、それぞれに私立大学等改革総合支援事業「タイプ1 教育の質転換」から下表のような評価項目を移行することがほぼ決まった。同事業での評価と同様、項目ごとに適切な重みづけをしたうえでそれぞれを段階別評価する方向だ。

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 「改革総合支援事業では教育の質の『向上』を掲げながら、実際には質の『維持』に該当するような項目も含まれていた。それらは今後、私学助成を配分する大学に標準的に求める要件として位置付ける」と文科省の担当者。「アセスメントポリシーの整備」は改革総合支援事業にもない新しい項目だが、それ以外は大学設置基準レベルの課題にきちんと取り組んでいれば補助金を大きく減らされることはなく、ある程度、定員割れしていてもここでカバーできるような設定にするという。
 次年度以降の指標の拡充をめざし、今年度、日本私立学校振興・共済事業団が教育の質保証に先進的に取り組む大学を対象に調査を実施。これは、就職率等のアウトカム指標を私学助成の配分に導入するよう求める財務省や経済界の声をふまえたものだ。文科省の担当者は「資格取得率や就職率といったアウトカムは単に入学者が優秀なためで、大学教育のインプットによるものではない場合もあり、そのまま指標にするのは公平でない」と説明。アウトカムとの相関がある程度、実証されている大学の取り組み(インプット)の事例を事業団の調査を通して掘り起こし、汎用性がある取り組みを指標として追加することでアウトカムにも配慮した評価にしたい考えだ。
 財務情報の非公表については現在、最大15%となっている減額率を50%に引き上げ、下表の通り公表度ごとの減額率を変更する。

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