〈学生募集をDXで動かす~接触者育成のシナリオ〉vol.05
武蔵野大学-デジタルツールを通して浮かび上がる高校生一人ひとりの顔
学生募集DX
2023.0823
学生募集DX
3行でわかるこの記事のポイント
●低学年で接触を促し、継続的コミュニケーションを通して育成
●自学のファンになりかけている高校生により良い働きかけを
●できることから始め、課題を整理して次のステップに進む
武蔵野大学のデジタルマーケティングツール活用について紹介します。デジタルツールを活用した新しいコミュニケーションは、担当者に「高校生の顔が見えてきて話を聞きたくなる」、そんな気持ちを抱かせるといいます。
武蔵野大学プロフィール
〈学生募集の状況〉
◆入学定員:2500人
◆課題:
低学年からのナーチャリング
〈デジタルツール導入状況〉
◆導入時期:2021年12月
◆運用する部署(人数):経営企画部大学入試センター事務課(1人)
◆活用目的:
低学年で自学を認知させ、継続的なコミュニケーションで育成して出願に導く
◆主な活用法:
メールとLINEで情報を発信し、反応を見る
ウェブサイト訪問者へのポップアップ表示によるリスト化
◆データ件数:約1100件(3年生6割、2年生・1年生各2割。大多数が一都三県)
武蔵野大学経営企画部大学入試センター事務課の住田優課長が募集広報の責任者として現職に着任したのは、2021年4月のことでした。18歳人口の減少に伴い、志願者数は2019年度入試をピークに年々減少し、2022年度入試は大幅減。2023年度はやや持ち直しましたが、以前の水準までの回復には至らず、「厳しい状況にある」といいます。
住田課長は、自学の募集広報戦略が市場の変化にそぐわなくなっていると感じています。
「高校1・2年生には本学のことはあまり知られていません。これまでは一般選抜で出願してもらうことをゴールに、志望校の選択肢を広げる高3の春から夏にかけて集中的なマス広報を展開してきました。本学を知ってもらい、オープンキャンパスに参加して志望校に加えてもらうというシナリオです」。
「しかし、近年は多くの高校生が年内入試での受験を希望するようになったため、2年生の終わりまでに志望校を絞り込み、3年生で広げることはなくなりました」。その結果、1・2年生の段階で認知されなかった自学は、3年生に資料請求はされても出願には至らないーーそう分析しています。
実際、武蔵野大学では資料請求数は年々増える一方、出願率は低下しているといいます。「認知度を上げるところまでで燃え尽き、志望度を上げるところまで行き着けない、そういう広報活動だったと言わざるを得ません」。
「情報収集の手段がSNS中心になるなど、高校生の発想や行動は今や大きく変わった。募集広報はこの時代変化に柔軟に対応する必要がある」。武蔵野大学ではそんな議論がなされました。
住田課長は「次の一手」を探る中で、次のように考えました。
「低学年で接触してもらい、継続的なコミュニケーションを通して育成する"足腰の強い活動"が不可欠になっています。そのためにはコミュニケーションの頻度を上げる必要があり、資料請求で住所を取得して紙で情報を送るという従来の手法では到底追いつかない。デジタルコミュニケーションが課題解決につながり、リストの取り方から変える必要があると考えました」
こうして、2021年12月にツールの運用を開始しました。
大学入試センター事務課で募集広報を担当する職員は、住田課長はじめ6人。デジタルツールは職員1人がメインで担当し、運用しています。
運用の基本形は「オープンキャンパスの参加者リストを取り込み、メールとLINEで同じ情報を発信する」というもの。大学の概要や入試制度、イベントの予定など、全学の情報を発信し、開封状況を全体傾向と個人単位の両方でウオッチしています。送りすぎてブロックされない/自学のことを忘れられない、この2つのバランスに腐心しながら、定期的な情報の投下を続けています。
「開封率が高いのはどんな情報か」
「よく開封してくれる生徒、あまり開封しない生徒はそれぞれどんな情報に反応しているか」
こうした観点でデータを追いかけ、接触者の育成に効果的なコンテンツを見極めようとしています。
マンパワーの問題もあり、「まずはできることを着実に」というスタンスで既存のコンテンツをフル活用し、LINEは画像中心の発信をしてきました。
学部ごとの広報担当を置いていないため、ランディングページとなる大学のウェブサイトも全学の情報が中心。
発信に対する反応に応じて次のアクションを分岐させられることがデジタルツールの強みですが、1年目は送り分けのストーリーを描くことが難しかったといいます。
2023年5月にまとめた過去1年間のデータに基づく総括は、「各回の発信に対する反応は良好だが、その先で育成につながる発信はできていない」というものでした。
「やはり大学の認知度を上げるところでとどまり、一人ひとりの志向に合う学びの訴求はできていない。ツールを使うと、認知度を上げることと志望度を上げることとは全く別物だと実感します」
今後の課題は①一人ひとりの興味・関心に応じた情報の送り分けと、そこで必要となる②学部・学科情報の充実、③動画など、魅力的なコンテンツの充実――と整理されています。
8月の組織変更で体制を見直し、従来の入試広報を充実させる一方、これらの課題解決にも取り組む予定です。「今後は接触回数をスコア化し、スコアに応じた送り分けにも挑戦したい」(住田課長)。ツール活用のフェーズを一段上げることになりそうです。
武蔵野大学では「いきなり出願」をネガティブに捉えてはいません。大学名が認知され、特段の接触をしないまま出願する受験生の存在は、むしろブランド指標の一つとみなせるという考え方です。
「とは言え、意欲の高い状態で入学してもらうためには1、2回でもいいからやはり事前に接触してほしい。『いきなり出願』に見える受験生でも実際にはイベント参加やウェブサイト訪問を通過している可能性が高いので、これらのタイミングで出願候補者として特定し、行動を可視化したい」。
そこで、ツールでサイト訪問者にポップアップを表示し、LINE登録やイベント参加を促しています。自学に興味を持って訪問した高校生を取りこぼすことなくリスト化し、育成しようというわけです。
今後は合格者を入学に誘うためのコミュニケーションにもツールを活用したい考えです。「接触からオープンキャンパス参加、出願、受験、入学までフェーズごとに使い方がありそう」。
住田課長は、自学の発信に対するレスポンスをツールで捉えるようになってから、高校生一人ひとりの顔が見えるような感覚になったり、その生徒のことが気になったりするようです。「接触者や出願者を『数』で捉えるのが私たちの仕事ですが、何本も動画を見てくれている生徒がいたら、何が響いているのか気になって話を聞きたくなる。本学のファンになりかけている生徒にはより良い働きかけをして育成したい、そんな気持ちが強くなりました」
デジタルツールとのそんな向き合い方が、広報のあり方を見つめ直すきっけにもなっています。
「同じ情報でも、従来の『募集広報』という型にはめず、一人ひとりの興味・関心に応じた自然な伝え方の方が響くのかもしれません。先日のオープンキャンパスで、ある高校生から本学の『MU』というロゴの由来を聞かれました。公式サイトなどでも説明していますが、自ら興味を持って聞いてくれた生徒に対しては自ずと説明の内容や熱の込め方が違ってくるし、届き方も違うのではないでしょうか」
1to1の大切さと可能性についてあらためて考えるようになったという住田課長。最後にこう話しました。「学生募集におけるマッチングとは、『こういう高校生に入ってもらって4年間を共に過ごしたい』という武蔵野大学と、『この大学で学んでこういう人になりたい』という高校生、双方の思いをすり合わせることだと思います。そんな、究極の理想ともいえる1to1のコミュニケーションを探っていきたい」。
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*現在、高等教育機関に対し、複数の事業者が学生募集のデジタルツールを提供しています。
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