2023.1023

〈学生募集をDXで動かす~接触者育成のシナリオ〉vol.08
戸板女子短大-学生と協働で高校生の情報を蓄積し、1to1のアプローチ

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3行でわかるこの記事のポイント

●教職員60人、学生広報スタッフ100人がMAツールに情報を入力
●関心事や温まり具合に応じてメールやLINE、ハガキで個別にアプローチ
●重点校以外の高校訪問を極力やめ、接触者のナーチャリングに注力

戸板女子短大のMA(マーケティング・オートメーション)ツール活用について紹介します。学生広報スタッフを加えた全学体制で高校生の情報を共有・可視化し、1to1コミュニケーションを図るユニークな取り組みが展開されています。


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戸板女子短大プロフィール

〈学生募集の状況〉
◆入学定員:400人
◆課題:資料請求や来校で獲得した「限られた接触者」を確実に出願まで導くこと

〈MAツール導入状況〉
◆稼働時期:2022年4月
◆運用する部署(人数)
入試・広報部5人を中心に他部署の教職員50人、学生100人
◆活用目的
オープンキャンパス参加促進と参加後の情報発信によるナーチャリング
◆主な活用法
関心事やスコアに応じたメール・LINE・ハガキによる1to1コミュニケーション
◆データ件数
約1万5000件(3年生が6割、2年生が3割、1年生が1割)


●コロナ禍で学生募集手法の見直しを迫られる

短大の学生募集が厳しさを増す中、戸板女子短大(東京都港区)は2015年度から2023年度まで9年連続で定員を充足。志願者数もコロナ禍の影響を受けたものの、直近2年間は増加しています。

学生広報スタッフ「といたん」を中心に学生を前面に打ち出す広報によって、自学の学びを理解したモチベーションの高い入学者を確保してきました。「といたん」や教職員がSNSやハガキを活用してオープンキャンパス参加者と丁寧なコミュニケーションを重ね、再びキャンパスに足を運んでもらい、出願につなげるという「ファンマーケティング」で志願者を増やしてきました。

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しかし、2020年春以降のコロナ禍によってオープンキャンパスはオンライン開催を余儀なくされました。参加者は激減し、来校回数も減少。コロナ禍が収束に向かい対面に戻しても参加者数は元の水準に戻らず、従来の学生募集の手法を封じられてしまいました。

●広報担当以外の職員は情報の入力と確認にツールを活用

そこで新たな手法として、顧客との接点を確実に生かして関係を構築するCRM(Customer Relationship Management)に取り組むことを決断。MA(マーケティング・オートメーション)ツールを活用し、オープンキャンパスへの参加促進、参加後の興味・関心を高める活動に注力することにしました。

2022年1月にツールを導入して準備を進め、同年4月に本稼働。現在は入試・広報部の澁谷太輔部長と、2023年4月にキャリアセンターから同部に異動した田熊祥則課長が取り組みの中核を担っています。
ツールのアカウントを持つのは入試・広報部の職員5人と他部署の職員20人、そして教員30人。2023年度には約100人の「といたん」にも共通アカウントを発行しました。現在、入試・広報部以外は情報の入力と、オープンキャンパス前後の情報確認に活用しています。

●検索性を上げるため関心事をキーワード登録

オープンキャンパス参加者との面談は「といたん」が中心となり、1対1で話します。事前にMAツールで確認した情報を深掘りする形で、「関心がある学科や興味がある職業」「なぜ戸板女子短大に興味を持ち、現時点で第何志望か」「気になっている他の大学・短大」などをヒアリング。その情報も ツールに記録します。

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「私も四大に行こうか迷ったから気持ちがよくわかるよ」「私は戸板女子短大でこういうプロジェクトに参加している」などと話す学生に高校生は親近感を覚え、本音を語ってくれるといいます。

入試・広報部をはじめとする教職員も、ガイダンスやオープンキャンパスの面談等で入手した高校生の情報をMAツールに入力。オープンキャンパスの面談は部署にかかわらずほぼ全員が担当し、情報は全学で活用できるよう共有するというルールが徹底されています。
1to1コミュニケーションのための検索ができるよう、情報入力時には関心事や希望する入試方式をキーワードとして登録しています。

「MAツールは本学に興味を持ってくれた高校生の行動や思考、感情など全ての情報をためておく巨大な壺のようなもの」と澁谷部長。壺の中の情報を確認しながらメールやLINEで アプローチするのが入試・広報部の仕事です。一人ひとりの関心事やウェブサイト閲覧履歴、メール開封やイベント参加等のアクションのスコアに応じ、セグメントごと、または純然たる1to1のコミュニケーションを図ります。

●短期間で一気にスコアが上がった生徒は「温まっている」と判断

高校生とのコミュニケーションでは、職員それぞれのキャリアや強みに応じて担当が分かれています。

ある職員は週1回、メールとLINEでイベントの情報を発信。「ウェディング」「英語」「栄養士」など、関心事に合わせて画像やテキストを変え、異なるコンテンツに誘導します。
澁谷部長は週2、3回の入試情報関連の発信を担当。3年生に「もうすぐ出願開始」と伝える時でも地方と関東で内容を変えたり、関心がある学科ごとに内容を変えたりするなど、ユーザフレンドリーなコミュニケーションに徹します。

田熊課長はキャリアセンター時代の個別面談・支援の実績を買われ、1対1の個別コミュニケーションを担当。自学に対する関心度のスコアを見ながら、一人ひとりに合わせた情報をメールやLINE、そして手書きのハガキも駆使して届けます。「短期間で一気にスコアが上がった生徒は『受験に対する気持ちが高まっている』と判断し、すぐにアプローチします」。
高校担当の職員は、オープンキャンパス参加者の情報を集約して重点校の進路指導担当者に共有する一方、参加者についてヒアリングして出願の確度を確認。「指定校推薦希望」等の情報が得られたらMAツールに記録し、自学の指定校推薦の情報を送るといった対応をしています。

澁谷部長は「本学のウェブサイトの記事やYoutubeの動画などを最大限に活用して一人ひとりに合わせた紐づけをします」と説明。「興味・関心と関係ない情報を送ってゴミ箱に入れられたりブロックされたりしないよう、『自分宛に送られてきた』と思ってもらえるコンテンツの配信を心がけます」。

●「自分の働きかけによる高校生の行動が可視化され、感激」

1to1コミュニケーションに対する意識の高さは、澁谷部長と田熊課長がそれぞれ流通業、アパレル系の民間企業出身ということも関係ありそうです。「企業、特に営業や販売では顧客の興味・関心に合わせてオーダーメードの情報をセグメントして届けるのが当たり前になっています」と田熊課長。

田熊課長は、入試・広報部に移って最初のガイダンスで話した生徒から、任意でメールアドレスと自宅住所の提供を受けました。早速MAツールに登録する一方、ハガキを書き、生徒の名前にちなんだ花のシールを貼ってオープンキャンパスを案内。受け取ったと思われるその日の夜、生徒がサイトを閲覧し、オープンキャンパスの参加申し込みをしたことを確認しました。「自分の働きかけが高校生の心を動かしてアクションにつながったことが可視化され、感激しました。このツールを使いこなすモチベーションが高まった原体験です」。 

●メールの平均開封率は6割

澁谷部長がMAツールの導入を提案した時、学内で抵抗はなかったそうです。「紙のDMを送る コストを新しいMAツールにあて、コミュニケーションの頻度を高めて効果もリアルタイムに把握できる方が費用対効果は高いと考えました」。

「現在のツールを選んだのは、LINEとの連携が可能だから。Twitter(現「X」)、インスタグラムなどは高校生の間で以前ほどの影響力がなくなり、今は重要な情報はメールとLINEで入手するようになっていると感じます」(澁谷部長)
澁谷部長はさらに、「『高校生はメールを開封せず即ゴミ箱に入れる』というのは、ECサイトなど多くのサイトに登録し、日々山のようなメールを受け取る大人の思い込みではないでしょうか。学校からの情報はメールで発信されるので、生徒はちゃんと開封すると聞いています」。同短大が発信するメールの開封率が平均6割と聞けば、その見解も説得力を増します。

●毎日決まった時間にMAツールを介して顧客と向き合う

MAツールが実質的に活用されるためにはリーダーである自分がまず知識を習得し、それを現場に共有することが大切だと、澁谷部長は考えました。そこで、自ら先頭に立って1日1時間MAツールに触れ、機能の習得に努めたそうです。2023年度からはそれを部内に共有し、水平展開する体制をつくりました。
「最初から全ての機能を使いこなそうと考えるのではなく、優先順位をつけながら段階的に広げるという考え方で進めてきました」(澁谷部長)。他部署の教職員やといたんに対しては、画面を示しながら閲覧と入力のやり方を説明。誰でもすぐできるようになり、特別なITリテラシーは必要ないといいます。

「1日30分は高校生の心理と行動に向き合おう」という澁谷部長の呼びかけの下、入試・広報部の職員は毎日時間を決めてMAツールにログインし、情報の確認や入力をします。
こうした取り組みを経て、2024年度入試は総合型選抜、指定校推薦ともに前年度と同じ水準の志願者数を確保。4年制大学でも前年維持が難しくなる中、大健闘と言えそうです。

●MAツールが組織の在り方を進化させる

澁谷部長は「MA効果」を別の観点からも説明します。「期待が持てないむやみな高校訪問や高校生への電話をやめることができました。以前は出願見込み人数が目標に達しそうにない時は手分けして高校訪問をしたり、手当たり次第に高校生に電話をしたりしていました。しかし、今は高校訪問は重点校に絞り、MAツールに入れた1万5000人をじっくり温めて『より確度の高い生徒』をあぶり出す方がよほど効果があると確信しています」。

1to1コミュニケーションが深化するにつれ、入試・広報部のマンパワーだけでは対応が難しくなりつつあります。そこで、今後は他部署の職員にもツールを活用したコミュニケーションを担ってもらうことを検討しています。

田熊課長は「本学の運営が成り立ち、さまざまな部署の仕事があるのは、学生が入学してくれるからこそ。学生募集は営業であり広報でもあります。部署関係なく全教職員がそこに関わるという意識で取り組みを強化・拡大したい」と話します。

現在もオープンキャンパスの面談は多くの職員が担当しています。戸板女子短大では、組織の壁を超えて学生募集や入学後の成長に貢献する意識とロイヤリティが根付いています。「MAツールは、本学のこうした組織やマインドの在り方をさらに進化させる可能性を秘めています」(田熊課長)。

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