〈学生募集をDXで動かす~接触者育成のシナリオ〉vol.09
日本福祉大学-MAツールのスモールスタートで接触者と真摯に向き合う
学生募集DX
2023.1113
学生募集DX
3行でわかるこの記事のポイント
●イベント予約フォーム構築、サイト閲覧履歴の取得からスタート
●福祉から医療・保健への関心の変化による接触者の離脱防止が課題
●「オープンキャンパス参加からの出願」という強みが直面したコロナ禍
日本福祉大学のMAツール活用について紹介。組織体制を考慮してまずは優先度の高い施策に絞って始め、導入3年目となる今年度は活用のステップアップをめざしています。
日本福祉大学プロフィール
〈学生募集の状況〉
◆入学定員:1495人(通学制)
◆課題:接触者の離脱防止、立地的な弱点を克服するためのデジタルの活用
〈MAツール導入状況〉
◆稼働時期:2021年5月
◆運用する部署(人数):入学広報課(2人→2023年度から4人)
◆活用目的:オープンキャンパス予約を起点としたナーチャリング
◆主な活用法:
オープンキャンパス参加者にメールとLINEでイベント情報を発信し、継続的な接触を促す
◆データ件数:約15万件(過去5年分)
日本福祉大学(愛知県知多郡美浜町)の学生募集における課題は「離脱防止」です。入学広報課の増岡広昭さんはこう話します。
「小中学生、あるいは高校生でも低学年で福祉関係の仕事に興味を持つ生徒は多いのですが、学年が進むと、報酬がより高いこともあって医療・保健の分野に興味が移る傾向にあります。福祉に興味を持って資料請求してくれた接触者の離脱を防ぎ、出願につなげることが長年の課題です」。
増岡さんは自学の立地も学生募集上のハンデだと指摘します。
「名古屋市内から電車で1時間かかる知多半島にあり、自宅通学を希望する生徒の選択肢になりにくい」。
一方で、この立地をいとわず、一度大学に足を運んでもらいさえすれば、という自信もあります。オープンキャンパス参加者の出願率は50%~70%で推移。福祉分野への関心からまず資料を取り寄せ、大学に興味がわいてオープンキャンパスに参加、その結果高い確度で出願してくれるという、日本福祉大学ならではの学生募集のパターンが確立されています。
ところが、2020年以降のコロナ禍によって対面のオープンキャンパスを開けなくなり、危機感が高まります。キャンパスの雰囲気に触れてもらう機会を確保すべくウェブオープンキャンパスに切り替え、事前予約制に。予約システムを導入するにあたり、登録者のデータから予約以降の接触行動を見られるようにしたいと考えました。
2023年度で入試担当8年目という増岡さんは、コロナ禍以前から募集広報のデジタルシフトの必要性を感じていたそうです。
「立地面のハンデを克服するにはデジタルの活用が不可欠と考え、かなり早い時期からバーチャルキャンパスのシステムなどについて調べていました」。
増岡さんにとっては、ウェブオープンキャンパスへのチャレンジは必然的な課題だったのです。
増岡さんは自学で使うウェブ予約システムを選ぶため、いくつかのデモを見たり実際に操作したりして比較検討しました。
「単なる予約にとどまらず、データを蓄積して継続的なコミュニケーションをしたり、反応を捉えたりすることはMAツールでなければできないとわかり、今のツールに決めました」。
MAツールの導入について、学内で反対意見は全くなかったそうです。学内の情報部会では以前から、「オープンキャンパスでどのコンテンツが人気があるか分かれば、プログラムをブラッシュアップして参加者の出願率をさらに上げられるのではないか」といった声が出るなど、接触行動把握のニーズが高まっていました。
MAツールを導入したのは2021年5月。初期設定と運用は、増岡さんと元IT系エンジニアの職員の2人が担当。
「細かいカスタマイズを可能にするための機能が多く、最初は難しく感じましたが、慣れると難なく使えるようになりました」。
導入からさほど間を置かずオープンキャンパス予約フォームと自動返信メールの設定、さらに大学ウェブサイトの閲覧履歴取得の設定を完了しました。
オープンキャンパスの申し込みフォームは早速、活用をスタート。コロナ禍前のオープンキャンパスは予約不要で、当日、受付用紙に個人情報を記入させていました。後でそれを接触者リストに入力する必要があったうえに、手書きだとメールアドレスを空欄にする生徒も多かったといいます。
ウェブ予約によってメールアドレスを確実に取得できるようになり、データはそのままMAツールに蓄積されます。当日もスマホで受け付けを行い、その入力データもツールに取り込まれます。
オープンキャンパス参加者には入試相談会や対策講座など、次なるイベントを案内して継続的な接触を促します。こうしたフォローは従来、紙のDMが中心でしたが、現在はMAツールからメールDMやLINEで発信。費用はほとんどかからないため頻度を上げられ、開封やランディングページへの遷移の有無など、レスポンスも見られるようになりました。
LINEとの連携が可能なことが、日本福祉大学が使っているMAツールの特色。同大学は以前から公式LINEを運営し、高校生のアカウントを多く取得してきましたが、個人情報との紐づけはできていませんでした。今はオープンキャンパスの申し込みや資料請求の時、高校名や氏名と共にLINEアカウントが入力されると個人を特定できるようになり、LINEでの発信に対する反応も追跡できます。
増岡さんは、比較的気軽になされるLINE登録はライト層、メールアドレスの登録は志望・出願の確度がより高い層という捉え方で、それぞれに有効なアプローチを図りたい考えです。
多くの大学では接触者のメールアドレス取得率は10~20%と言われていますが、日本福祉大学では2023年度入試の接触者のうち39.7%のアドレスを取得できていました。
「今後もMAツールを活用してメールアドレスの取得と的確なアプローチができれば、入学定員を確保できると考えています」(増岡さん)。
メールDMやLINEの活用の一方で紙DMによる発信も続け、送ったらMAツールにフラグを立てて分析できるようにしています。
「メールを開封しない生徒や開封しても中身を読まない生徒もいるので、紙を完全にやめることはできません。紙DMなら本人が開封しなくても保護者の目に留まり、中身を読んで子どもに薦めてくれる可能性もあり、当面は紙とデジタルの併用を続ける予定です」。
メールの配信停止、LINEのブロック、資料送付停止などをされないよう、発信の頻度に注意しているそうです。
〈MAツール導入によって可能になったこと〉
・メールと同様、LINEによる発信の管理、反応の追跡
・ライト層(LINE)と出願確度が高い層(メール)、それぞれへの的確なアプローチ(今後の課題)
・紙とデジタルの使い分け、紙DMに対する反応も含む効果分析
2022年のオープンキャンパス参加者数は過去最高となる一方、2023年度入試の出願は芳しくありませんでした。参加者の出願率は低下し、MAツールによるナーチャリングはまだ道半ばと言えそう。
「最初の2年間は2人でツールを運用していたため、優先度の高い取り組みに絞らざるを得ませんでした」(増岡さん)。
2023年4月の組織変更により、新たに職員2人がツールを使えるようになりました。さらに、学生募集の地方拠点として大阪、東北、九州に設けている地域ブロックセンターにもツールの活用を拡大。
こうした体制強化によって、これまで手付かずだった資料請求者に対するフォローや、ウェブサイトでオープンキャンパス参加を促すポップアップの表示など、さまざまな施策にチャレンジしたい考えです。
今後は募集広報のPDCAサイクルを回せるというツールの利点も最大限に生かす予定です。接触のたびに入力させる志望順位の変動に着目し、どんなアプローチが志望度を高めるかを分析し、施策のブラッシュアップにつなげたいといいます。
増岡さんは毎日約30分をMAツールの入力や確認にあてています。
「『この子はオープンキャンパスの面談の時から第一志望の学部が変わったんだな』など、いろんなことに気づきます」。
入試相談会の前には、そのエリアの高校名やどんな生徒が接触しているかを確認し、インプットするそう。
特に見入ってしまうのが、サイトの閲覧履歴だとか。
「繰り返しサイトを訪問して何ページにもわたって見てくれた生徒を見つけると、感激してしまう。こんなに熱心に調べてくれているのだから、何とか受かってほしいという気持ちになります。以前は受験生がみな一様の姿に見えていましたが、ツールを使いだしてからは一人ひとりの顔を思い浮かべ、これまでとは違う感情を抱くようになりました」。
接触者一人ひとりの顔を思い浮かべ、それぞれの異なる志向や特性、気持ちに寄り添いながらコミュニケーションを重ねることがナーチャリングと言えます。
「出願してくれたら受け入れるという受け身の姿勢ではなく、こちらから積極的に働きかけて育て、出願してもらえるようにする。学生募集が厳しくなる中で大学に求められているのは、そういうことだと思います」(増岡さん)。
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