2023.0807

〈学生募集をDXで動かす~接触者育成のシナリオ〉vol.04
オウンドメディアを磨こう~「ファン度」に合わせた心地良い情報提供を

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3行でわかるこの記事のポイント

●高校生の気持ちに寄り添い「にわかファン以下」から「熱狂的ファン」に育成
●関心の度合いによっては大学案内の送付が逆効果になるリスクも
●適切なオウンドメディア展開とMAツールで最強の導線を構築

進研アド・エリアプランニング部中部エリアプランニング課の野村和幸課長が、オウンドメディアのブラッシュアップによる高校生の「ファン化」について解説します。


コンタクトポイントをつなぐ導線を最適化

この時期、夏休みに入ると多くの大学では学生募集の山場であるオープンキャンパスの最盛期を迎えます。3年ぶりにコロナ禍以前とほぼ変わらないスタイルでの実施が可能になった今年は、どのような結果になっているでしょうか。
オープンキャンパス終了後は、参加者を一人でも多く出願というアクションにつなげる活動に移ります。本連載では、コミュニケーションのデジタル化によって「次のアクションへの取りこぼし=学生募集のもったいなさ」を減らすことの重要性を説いてきました。それはすなわち、コンタクトポイントと次のコンタクトポイントをつなぐ導線の最適化の話になります。

今回は、コミュニケーション全体の効果を最大化するためのコンタクトポイントそのものの最適化、中でも特に重要な「オウンドメディア」の在り方について考えていきます。

オウンドメディアとは、一般的には「自社・自学が保有するメディア」を意味し、主にウェブサイトやブログを指します。自学の情報を自由に発信できるメディアという意味では、大学案内などの紙媒体やオープンキャンパス、SNS公式アカウントなども含めることができます。

せっかくランディングページに遷移してくれても残念なことに...

高校生・受験生の志望度を高め出願者に育てるためには、一度のコンタクトですべて伝え切るのではなく、複数のコンタクトポイント=オウンドメディア間の往来によって気持ちを高めてもらうことが重要です。
例えば、認知を促すWeb広告から自学サイトへ遷移させる誘導施策もその一つで、各大学で工夫を凝らしています。

しかし、どれだけ導線が優れていても、肝心の誘導先の内容まで設計が行き届いていなければ、狙い通りの効果は表れません。
例えば、総合型選抜の告知バナーでサイトへ誘導する際、誘導先が入試情報ページのトップに設定され、総合型選抜の情報を自分で探すことを高校生に強いていないでしょうか。さらに、探し出した情報が入試ガイドのPDFを貼り付けただけのものだったりしないでしょうか。

これではせっかく遷移してくれても、期待する情報が得られずがっかりしたり、途中であきらめて離脱したりしてしまいます。これは、どんな情報をどれぐらい欲しているかという「ファン度」と、そのタイミングで「提供される情報の質(詳細さなど)」のミスマッチと言えます。

エンタメ作品に学ぶ「メディアミックスによるファン育成」

「ファン度」に応じた「提供する情報」の設計については、ファンの育成に特化している原作漫画のアニメ化など、エンタメ作品におけるメディアミックスの手法が参考になります。動画配信サイトの普及など、ユーザーが接触するチャネルの多様化に伴って、作品の世界観を深め、ファン化を促進する手法も進化しています。

エンタメ作品のメディアミックスでは、例えば
1.音楽・動きなどの演出も含めて話題性を重視したTV放映
2.心情の描写に比重を置いた漫画・小説などの活字媒体
3.世界観をより大きく広げるサイドストーリーの有料配信・映画公開
といった具合に、メディアによって少しずつ情報の質を変えています。

これらの違いは「情報深度」の違いと言えます。
1. 初期接触は無料で手軽にできるようにして間口を広げ、「にわかファン」を獲得する。
2. 少しの手間を必要とする接触で理解を深めてもらい、「本格的ファン」に育てる。
3. 有料でも「より深く知りたい」「追加情報を得たい」という「熱狂的ファン」のモチベーションに応える。
という具合にメディアごとに提供する情報深度に差をつけ、より深い情報を提供するメディアへと誘導していくわけです。

はじめは小さな興味を持っただけのにわかファンが、新たなメディアに接触するたびに理解を深め、ファン度が高まっていくように設計されています。ファン度が高まれば有料であることや手間がかかることを惜しまない、むしろその手間に相応する情報提供にこそ満足感を得るファン心理に寄り添っていると言えます。

適切なメディアを展開し、適切な順番で接触させる

エンタメ作品の設計を、学生募集のコンタクトポイントに置き換えて考えてみましょう。
1.自学の学びに興味を持つきっかけを提供する「にわかファン」向け
2.自学の学びの面白さを深く理解させる「本格的ファン」向け
3.「自分ならこう学びたい」と考えを広げさせる「熱狂的ファン」向け
というように、それぞれの段階に合った適切な情報を適切なメディアで展開し、適切な順番に接触させれば、ファン度を向上させることが可能なはずです。

高校生側から見たファン度ごとの行動変化は、
1.(大学とは無関係に)自分の興味のあることの情報収集ができるサイトを検索
2.その興味を学問として追究できることを知り、さらに興味を持つ
3.それを学べる大学に関心を持ち、資料を請求
ということになります。

多くの大学はこうしたファン度の変化を考慮することなく、大学のほとんどすべての情報を網羅するカタログ的な大学案内を、大学名しか知らないような初期接触の高校生に提供しているのではないでしょうか。
さらに、大学案内の内容をそのまま流用したサイトの訪問と合わせて、複数回の接触と見なしているのではないでしょうか。

自学の志望者に育てるため、最終的には深い情報まで触れてもらいたいと考えるのは当然です。しかし、そこで適切に段階を踏むことなく、求めるものと違う情報を提供されると、高校生にとってその接触はかえって負担となり、敬遠されることになりかねません。

自学に都合のいい誘導ではなく高校生の自発的な欲求を引き出す

「ファン度」と「提供する情報」のミスマッチを解消するため、まずは自学の既存の各オウンドメディアの情報の深度と、それはどのような志望段階の高校生に向けたものなのか、整理してみてはいかがでしょうか。
そのうえで、それらをどのような順で辿らせるべきなのか、情報深度の深まりを念頭に置きながら並べてみましょう(カスタマージャーニーマップ)。すると、コンタクトポイントの過不足や、各オウンドメディアの内容を精査する方向性が見えてくるはずです。

ただし、気を付けたいのは、自学にとって都合のいい強制的な誘導ではなく、あくまで高校生のモチベーションに寄り添い、自発的な欲求の先に次のコンタクトポイントが用意されているようなカスタマージャーニーであることです。
タイミングは違えど、ほとんどすべての高校生が、最初のコンタクトの時点では「にわかファン」以下であることも認識しておく必要があります。自学のことのみならず、「大学」というものに対する常識(例えば学問の自由さ、面白さ)さえも持っていない可能性があります。

コンタクトポイント設計における3つの好事例

ここまで述べてきた観点から、コンタクトポイントとしてうまく設計された大学のサイトコンテンツをいくつか紹介しましょう。

甲南女子大学では、初期段階の高校生に接触してもらうためのコンタクトポイントとして、「学問領域」など、大学側の視点ではなく、高校生目線での「面白そう」をテーマ設定の軸にしたオウンドメディア「シーソー」を提供しています。まずは浅い情報で興味・関心を引くことが、結果的に深い情報への誘導につながっていきます。

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広島工業大学の「高校生応援サイト」は、生徒自身が自分の求める深度に合わせて情報を探しやすいように、サイト全体が設計されています。
例えば「学び」のページでは、理系ではあるが学びたいことが決まっていない段階、学びたい系統までは決まっている段階、学部・学科まで決まっている段階と、進路選択のどの段階の高校生であっても自分に合う情報に辿り着ける仕掛けが施されています。

hirokodai.png

日本福祉大学の「日本福祉大学の歩き方」は、乱立しがちなコンテンツを目的別に探せるようにナビゲートすることで、深い情報に快適に進んでいける構造になっています。

nippuku.png


仕掛けた誘導の効果をMAツールで可視化

カスタマージャーニーマップに沿って適切なオウンドメディアが展開できていれば、MA(マーケティング・オートメーション)ツールは高校生一人ひとりの欲求を刺激して次のコンタクトポイントへと有機的につなぐ導線として有効に機能します。

MAツールの強みはそれだけではありません。仕掛けた誘導が実際に成果につながったかがデータで可視化されるため、そのデータを活用して導線や誘導先のオウンドメディアをより効果的なものに改善することができます。実際の行動結果を根拠にして磨き上げられたカスタマージャーニーは、高校生にとって快適に深い情報に進んでいくコミュニケーションとなり、結果として効率的に「熱狂的ファン」へと育っていくことでしょう。

大量の情報に囲まれ、その取捨選択を常に迫られ時間対効果(タイムパフォーマンス)を重視するといわれる現在の高校生。興味を持つ内容も、きっかけも、タイミングも千差万別です。

ファン化の行動原理には「推し消費」の心理が関係しているのかもしれません。カスタマージャーニーマップをより精緻で確実なものにするためには、MAツールによって得られる行動結果のデータに加え、高校生の気持ちや行動のリアルを理解しておくことが欠かせません。高校生のリアルについては、また別の機会にお伝えします。

現在、高等教育機関に対し、複数の事業者が学生募集MAツールを提供しています。
進研アドが提供する学生募集MAツール「infoCloud Digital Marketing」の紹介はこちら


〈今回のナビゲーター〉

野村和幸(のむら・かずゆき)
進研アドエリアプランニング部 中部エリアプランニング課課長

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前職ではグラフィックデザイナーとして多種多様な業界・企業で広告制作やブランディングに尽力。進研アド入社後は「デザインする領域」を拡大し、募集課題・ブランド課題の解決のためのコミュニケーション戦略、広報戦略はもとより、カリキュラム構造の助言に至るまで幅広く支援している。