2023.1010

〈学生募集をDXで動かす~接触者育成のシナリオ〉vol.07
志望校選びで求められるのは「自分の成長をイメージできる情報」

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3行でわかるこの記事のポイント

●「『みんな』ではなく『自分』にとってどう役立つか」に関心
●学びの中身以上に学生の志や行動にフォーカスする広報事例も
●情報の役立ち度をツールで検証し、コンテンツを磨く

進研アド・エリアプランニング部東日本エリアプランニング課の篠田将一課長が「どんなコンテンツが高校生の気持ちを動かす」を解説します。


SNSの発達でマス的な情報が届きにくい時代に

「その大学で何が学べるかだけではなく、自分にとってどう役立つかが知りたい」。進路研究について高校生にグループインタビューをした際に、ある男子生徒が言った言葉です。
また、このような発言もありました。「大学案内やWebサイトで発信されている情報は飾られているように感じる。だからクチコミサイトにある生の声、リアルなコメントを参考にしている」。
大学が発信している情報と高校生の受け止め方との間に、少なからず不協和音が生じていることがわかります。なぜ、こういったことが起きているのでしょうか。要因は2つ考えられます。

1つ目は、受験生が年内入試にシフトして受験校を絞り、「自分に合った大学」という観点をより重視するようになっていること。冒頭の男子生徒の発言も、「みんなにとってではなく、自分にとってどう役立つか」といった趣旨から発せられていました。つまり、高校生は「自分」を主語にしてその大学を捉えようとするのです。

2つ目は、SNSの発達により、生活者一人ひとりが自身に必要な情報を主体的に選別できる受信者であり、自身にとって興味があるものや出来事をリアルタイムで共有できる発信者にもなっていること。いわば「個人の放送局」を一人ひとりが持つ時代になり、可処分時間がさまざまなメディアの利用に費やされるようになった結果、マス的な一方向の情報発信が届きにくくなっています。

自分事化できるリアルな情報が気持ちにスイッチを入れる

このような時代において、高校生の気持ちを動かすコンテンツとはどのようなものでしょうか。下の表は、高校生が志望校を検討する際に重視するポイントを調査したWebアンケートの結果です。「自分の興味分野が学べること」に次いで2番目に多いのは、「自分が成長できそうな大学であること」です。
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先述のグループインタビューでも、「学生や卒業生が学びを通して成長する(した)様子がわかると、学びと将来との繋がりが見える。特に学びや将来像が自分に興味がある分野の話だと、自分事として捉えられる」という発言がありました。
つまり、高校生一人ひとりの興味や関心に寄り添い、自分事として成長をイメージできるリアルな情報こそが、高校生の気持ちにスイッチを入れるコンテンツだと言えます。

学生の成長を点ではなく線でみせる

「成長をイメージできるリアルな情報」、その肝は「学生や高校生が主人公となる物語」です。成蹊大学のWebコンテンツ「成長する成蹊大生の図鑑」では、17人の学生の成長物語をイラストとインタビュー記事で構成しています。

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注目すべき点は、学生がどんな目標を持って学びと向き合い、体験し、成長につながったのかを視覚的につかめることです。
上の例では、コロナで留学が中止になったことをきっかけにビジネス研修に参加した学生が、インターンシップや他者との協働で自信がつき、かなえたい未来を実現するための一歩を踏み出します。ビジネス研修の中身にフォーカスするのではなく、学生の志や行動に焦点をあてているからこそ、うまくいったこともいかなかったこともリアルなストーリーとして描くことができます。

「Between情報サイト」本シリーズのvol.04では、「にわかファン」「本格的なファン」「熱狂的なファン」のそれぞれに、興味の度合いに応じた適切な情報を提供し、次のコンタクトポイントに誘導することの必要性をお伝えしました。学生のリアルな成長を伝える際も、興味の度合いと適切に結びつける設計が重要です。

興味・関心の度合いに応じて「成長の物語」を変える

大学案内、受験生向けサイト、接触者に対するWebメッセージ(メルマガ)など、それぞれのメディアに高校生が接する際の気持ちや情報ニーズは異なります。

例えば大学案内は、ファーストコンタクトのツールとして高校生の興味・関心を醸成する役割を持っています。
受験生サイトを見る高校生は検索して閲覧するくらいの関心があるため、学びや環境、そして大学での成長を深く堀り下げられる情報を必要としています。
接触者向けのメルマガやLINEは大抵の場合、進路のことを意識していない日常生活の中で受け取ります。従って、個別最適化された情報で興味・関心を引き出して日常生活モードから進路研究モードへと気持ちを切り替えさせるコンテンツを提供することが重要になります。

これらの前提をふまえ、文学部志望の高校生に提供する情報の設計について考えてみましょう。

STEP1 出合い
歴史を学びたいけど就職は大丈夫かな。将来について安心できる材料が欲しい。
⇒歴史学のゼミや他学部との連携プロジェクトを通して成長する学生の存在に気づかせる大学案内

STEP2 検証
成長の機会が色々あることはわかったけど、それらが自分に合うかどうかはわからない。
⇒黙々と好きなことに打ち込める環境や歴史を学ぶ学生の1日のタイムスケジュールを通して、自分とのマッチ度を検証させるWebサイト

STEP3 再会
いい大学だと思うけど、オープンキャンパスまでまだ日があるから違う大学も見てみよう。
⇒歴史学を学んで身に付いた力を通して希望の進路をかなえた学生の記事にアクセスさせるメルマガ・LINE

このように、大学における「成長」を段階的に知ることができる情報設計が大切です。
高校生の関心事は一人ひとり異なります。それぞれにとって最適なコミュニケーションを設計するためには、デジタルで意識と行動を捉えてその人その人に響く情報を届ける仕組みが必要です。

データを検証し、情報の役立ち度を磨く

MA(マーケティング・オートメーション)を活用すれば、高校生が「今、必要としている情報」にフォーカスして少しずつ興味・関心を育てていくことができます。そして、コンテンツにはその大学で成長する学生の物語が欠かせません。
MAツールは高校生の反応をデータで可視化できます。出願した生徒のWebサイトの閲覧履歴から、どのような記事が出願に影響を与えるか推測することも可能です。
受け手の反応を真摯に受け止めてコンテンツの改善を重ねることで、高校生に「自分にとっての成長」について考えさせ、自分事化を促すことができるようになります。

*〈学生募集をDXで動かす~接触者育成のシナリオ〉シリーズ全記事はこちら
*現在、高等教育機関に対し、複数の事業者が学生募集のデジタルツールを提供しています。
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〈今回のナビゲーター〉

篠田将一(しのだ・まさかず
マーケティング推進室エリアプランニング部
東日本エリアプランニング課 課長

前職ではコピーライターとして、多種多様なビジネスの課題を言葉の領域から解決。2017年の進研アド入社後は課題解決の領域を募集広報に拡大し、メディアミックスの広報コミュニケーションの設計に従事している。