学部専任教員がリーダーシップ教育を担う体制を3年計画で構築-共立女子大学
大学(募集・接続・教学)
2026.0518
大学(募集・接続・教学)
3行でわかるこの記事のポイント
●必修のPBL型授業で専門家が伴走し、教員の独り立ちを支援
●学生は「傾聴」「支える」など多様な形のリーダーシップを修得
●教養教育で土台をつくり、専門教育との融合をめざす
大学の教育理念を表面的なキャッチフレーズに終わらせず、カリキュラムの中で具体化して全ての学生に浸透させる。共立女子大学と共立女子短大はこうした理想を掲げ、その実践の一歩目を踏み出した。教育理念である「共立リーダーシップ」と専門教育との融合をめざし、「すべての専任教員がリーダーシップを教えられる体制」を構築する。
共立女子大学(東京都千代田区)は家政、文芸、国際、看護、ビジネス、建築・デザイン、児童の7学部、共立女子短大(同)は生活科学と文の2科をそれぞれ設置している。
「🔗リーダーシップの共立」という教育理念の下、大学・短大とも2025年度後期から、1年次必修のPBL科目「課題解決のためのリーダーシップ入門」(通称「KL入門」)を開講している。教養科目でありながら、大学は学部単位、短大は科単位でクラスを編成。そこに所属する専任教員が、外部人材を含むファシリテーターと協働して授業を担当する。
グループワークによる課題解決を通して一人ひとりが自分らしいリーダーシップのあり方を探り、協働の中でそれを発揮するための基礎を身につけることがこの科目のゴールだ。
リーダーシップ教育が専門ではない専任教員が、その専門家であるファシリテーターから授業運営の手法を学び、継承していく体制を構築する。3年間で体制を整え、2028年度からは完全内制に移行する計画だ。
共立女子大学が「リーダーシップの共立」を対外的に打ち出したのは2022年度から。18歳人口の減少によって大学の経営環境が厳しくなる中、女子大としての存在意義と特色を再定義する必要に迫られたことが背景にある。
共通教育センター長の藤田雅夫教授は次のように話す。「本学は従来、面倒見がいい、安心して学べるといったことをアピールしてきたが、それだけでは他の女子大と差別化できない。共立ならではの教育をどう言語化するか、10年ほど前から模索を続けていた」。
そうした中、「相互支援型リーダーシップ」の考え方が社会に広がり、学内にも浸透していることに着目。創立以来140年間続けてきた主体性や協働する力を引き出す教育との親和性が高く、これこそが現代に打ち出すべき価値だと考えた。
藤田教授は相互支援型リーダーシップについて、「強力なリーダーが1人でチームを引っ張るのではなく、一人ひとりの特性やその時々の状況に応じて、聴く・支える・まとめるなど多様な関わり方ができるリーダーシップだ」と説明。「社会に出たらほとんどの仕事はチームで取り組む。メンバーがいろいろな役割を果たせる組織こそが、真の強さを発揮できる」。
共立女子大学は相互支援型リーダーシップの考え方に基づき、「共立リーダーシップ」を「みずからを恃(たの)み『自立』し、『友愛』により他者と協働して目標達成を目指す力」と定義している。
「本学の学生は非常に真面目で素直だが、やや消極的で、『リーダーシップなんて自分には無理』と考えがち。しかし、『グループワークで話す時、相手が目を見てうなずきながら聞いてくれるだけで話しやすくなる。傾聴力もリーダーシップの大切な要素だ』と説明すると、納得して前向きな姿勢になる」
「相互支援型リーダーシップと結び付くキーワードである『心理的安全性』は、自分の意見を言っても誰からも否定されない安心感がある環境を意味する。女子大は共学校と比べて心理的安全性が高く、その点でも本学は相互支援型リーダーシップを発揮しやすい環境だと言える」(藤田教授)
共立女子大学には以前からリーダーシップ関係の科目があるが、いずれも選択科目だ。1年次前期必修の「基礎ゼミ」では「共立リーダーシップとは何か」を説明する機会を設けているが、それに接続して実践力を身に付けさせる科目がなかった。
そこで、2025年度、「KL入門」を1年次の必修科目として新設した。
この科目の内容と実施体制を設計したのが、2023年4月に設置された共通教育センターのセンター長に就任した藤田教授と、リーダーシップ教育センター長の岩城奈津准教授だった。岩城准教授は企業出身でリーダーシップ開発が専門だ。
全14回の授業のうち、4回目まではリーダーシップについての基礎を理解する理論編、それ以降はグループワークで課題解決に取り組み、最後に成果発表と振り返りをするという構成にした。
1クラス30人程度、大学・短大合わせて50クラスの授業を担当する教員の体制は、極めてユニークだ。全クラスに、その学部に所属し、リーダーシップは専門外の専任教員を主担当としてあて、リーダーシップの専門家であるファシリテーターが伴走する。
ファシリテーターは主に、①全学の教育推進機構に所属する学内の教員、②組織開発や人材育成に携わる企業人、③他大学の非常勤講師―で構成。①の教員も、「KL入門」ではあえて主担当ではなく伴走役に回る。
主担当者は極力3年間固定することを前提に、各学部で決めてもらった。ファシリテーターも基本的に3年間、同じ学部を担当する。
50クラスを3グループに分け、以下のように3年計画で主担当教員の育成を図る。
◆2025年度:グループAの各クラスに1人ずつファシリテーターが入り(1人が複数クラスを担当するケースもある)、授業を進行。主担当者はグループワークで学生への助言などを担いつつ、ファシリテーターを観察してノウハウを学ぶ。グループB・Cの各クラスは主担当者が1人で授業を進行し、必要に応じてファシリテーターに相談して助言を受ける。
◆2026年度:グループAとBが交代し、Bの各クラスにファシリテーターが付く。
◆2027年度:グループBとCが交代し、Cの各クラスにファシリテーターが付く。
3年間のいずれかの年に、ファシリテーターと組んでノウハウを学ぶ機会があるわけだ。残りの2年間は、たとえ初年度でも主担当者が単独で奮闘することになる。2028年度からはファシリテーターが抜け、主担当者が独り立ちして授業を担当する完全内制に移行する。
初年度は共通教育センターとリーダーシップ教育センターが授業各回の内容まで考えてシラバスを作成、使う資料も提供した。藤田・岩城両氏が各学部を回って学部長や担当教員と話し合うなど、丁寧に準備を進めた。FD研修、情報共有と課題解決のための定例ミーティングの実施など、支援体制も整えている。
この科目のために、上級生によるLAA(Learning Assistant Apprentice)制度も導入した。「Apprentice」は「見習い」という意味だ。同大学のLAは授業でファシリテーションのスキルを高めたうえで下級生の授業の進行を担当するのに対し、LAAは1年生の身近な相談相手となって教員との橋渡しをするなど、授業の補助的な役割を担う。
「当初は、専門外の授業を担当することに不安を示す教員も多かったが、専門教育の中でグループワークやプレゼン、振り返りを普通にやっている教員も多い。私自身はあまり心配していなかった」(藤田教授)
実際、多くの教員が熱心に取り組み、「期待以上の成果を上げていただいた」と藤田教授。「大学教員は一般的に、自分の専門分野にはこだわりが強く他者のやり方を受け入れたがらないが、専門外のことについては抵抗なく協力し合う。ファシリテーターが付かないクラスでは、学部内で担当教員をフォローする体制ができていた」。
専門領域と関連してグループワークが多い看護学部や児童学部について、藤田教授は「共立リーダーシップ教育との親和性が高い」と説明。両学部の「KL入門」は初年度から下地ができていて、2年目以降も先行好事例になることを期待しているという。
2025年度の「KL入門」では、全学共通の課題として「共立女子大学をより良くするにはどうすればよいか」を設定。「〇〇学部を良くするには」など、学部ごとの課題に落とし込んで取り組んだ。
学生からは「自分らしい役割でリーダーシップを発揮することができた」という感想が多く聞かれた。「いつも先頭に立つタイプだったが、傾聴する側に回って周りがしっかり見えるようになった」という声には、多くの教員が手応えを感じた。
2年目となる2026年度は、「基礎理解」「PBL」「プレゼンテーションと振り返り」という構成を維持しつつ、各学部の独自色を打ち出してもらう。2年次以降の専門分野との接続を意識した内容が想定されている。
2027年度には、共立リーダーシップの理念の枠内で、各学部独自のリーダーシップ教育を構築することを目指している。
リーダーシップ教育の基礎編である「KL入門」を発展させる教養科目として、2年次には、教員が自分の専門や興味のある分野で課題を設定して解決に取り組ませる「現代社会の諸課題」など、3つの選択必修科目を設定。国家試験がある看護学部など、一部を除いて全学生にいずれか1科目の履修を課す。
「KL入門」とは違って学部混成のクラスを編成し、リーダーシップ教育が専門の教員などが担当。企業でマーケティング畑を歩んだ藤田教授も「現代社会の諸課題」を担当する。専攻が異なる学生同士の相互作用も期待されている。
藤田教授は、3年次以降のリーダーシップ教育は教養科目ではなく各学部の専門教育の中に位置づけるべきだと考えている。「リーダーシップ教育は専門の中で生かされ根付いてこそ、大学教育としての意味がある。学部に横串を刺す教養科目で土台を身につけたうえで、それを専門の中で深めてもらうのがあるべき姿だ」。
専門教育との接続を見据えるからこそ、「KL入門」は学部ごとのクラスをそれぞれの専任教員が担当する。グループワークでは、全学共通の課題を学部ごとの課題に落とし込んで取り組むわけだ。
その点が語学やITなど他の教養科目との違いだと、藤田教授は説明する。「1学年1500人規模の学生にこれらスキル系の必修科目を内制で教えるのは無理で、外部の方の力を借りる。共立リーダーシップはスキルではなく、本学の教育の基盤となる大切な理念だ。その教育では140年の歴史の中で培ったものが大きな傘となるから、外部の方に任せることはできない。教員一人ひとりが当事者意識を持ち、専門教育とどう融合させるのか、腹落ちした状態で取り組むことが重要だ」。