ふるさと納税の返礼品として市立大学の授業料クーポンを発行―名寄市
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2025.0217
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3行でわかるこの記事のポイント
●学生の保護者を中心に、市と大学への応援を期待
●1万~50万円の寄付を受け付け、30%のクーポン
●1か月余りで18人から約120万円の寄付を獲得
北海道名寄市は2024年12月から、ふるさと納税の返礼品に名寄市立大学の授業料の支払いに使えるクーポンを加えた。人口約2万5000人の市が運営する"日本最北端の公立大学"の名前を全国に知らしめ、志願者と応援してくれる人を増やそうとの試みだ。
名寄市は北海道北部に位置し、人口約2万5000人。基幹産業は農業で、グリーンアスパラやスイートコーン、もち米などの特産品がある。
1960年開学の名寄女子短大を母体とする名寄市立大学は、公立大学法人ではなく市が直接運営している。保健福祉学部に栄養、看護、社会福祉、社会保育の4学科を置き、学生数は約800人。7割を占める道内出身者も含め、全学生の9割以上が自宅外から通っている。
同市のふるさと納税では、寄付金の使途として大学、天文台、冬季スポーツ振興、農業など7種の事業から一つ、または複数を指定できる。大学支援という選択肢は従来もあり、これを選んだ場合は市が寄付金の一定割合を大学用の基金として積み立て、老朽化した施設の整備などにあてる。
2023年度の寄付総額約6300万円のうち1割以上にあたる760万円が、使途を大学支援と指定するものだった。
一方、返礼品は指定する使途と関係なく選ぶことができ、各種農産品やカヌー&サイクリング体験、地元紙の定期購読などがある。今回、新たに名寄市立大学の学費クーポンが加えられ、大学支援の受け皿がさらに強化された。
市は「公立大学の学費をふるさと納税の返礼品で扱うのは全国で初めてではないか」と見ている。
名寄市立大学の授業料クーポンを返礼品とするふるさと納税では、1万円から50万円までの範囲で寄付を受け付け、1万円につき3000円分のクーポンを発行。寄付者は最大で15万円のクーポンが得られ、半期約27万円の授業料の支払いに使うことができる。
同大学の学生の保護者ら関係者からの寄付が期待されている。
2025年2月末までの寄付者に対しては、2025年度前期の授業料に使えるクーポンを発行。4月以降は後期分のクーポンに切り替わる。
クーポンの対象となった学生には授業料からクーポン相当額を控除した請求額を示し、納めてもらう。
ふるさと納税によるこうした施策は、東京農業大学北海道オホーツクキャンパスのある網走市が2024年7月に導入。名寄市と名寄市立大学の知名度アップの策を検討していた加藤剛士市長がこれに着目し、網走市長に「仁義を切る形で」(名寄市立大学の水間剛事務局長)了承を得て、後に続いた。
名寄市のウェブサイトでは、授業料クーポン発行の目的を「名寄市立大学在学生関係者による名寄市を応援してくれる気持ちに応える」「本学のPRおよび学生確保」と説明。水間事務局長は「市直営の大学なので市の予算の中で運営費を確保しているが、公立大学を持つ自治体の中では最小の財政規模で、非常に厳しい」と、「応援」を求める背景を説明する。
「私立大学に比べれば学費は安いが、学生の9割以上が一人暮らし。生活費を含むトータルな費用を比べると学生募集における競争は厳しく、志願者は減少傾向が続いている。18 歳人口自体が減る中、特徴的な取り組みを打ち出さないと学生確保や大学運営は厳しい」
新しい返礼品について発表した12月中旬から2025年1月中旬までに、クーポンを返礼品に選んだ寄付者は18人で、寄付総額は約120万円。クーポンの発行は52件で、複数回に分けて寄付するケースもあったようだ。18人全員が寄付金の使途も大学を指定しており、「ほとんどが保護者をはじめとする学生の関係者だと推測される」(水間事務局長)。
2024年度は、名寄市に対するふるさと納税の寄付総額が大きく増加。市の担当者によると、これまで寄付総額の最高は2021年度の約7000万円だったが、2024年度は12月時点でその3倍以上の2億3000万円に上った。スイートコーンなどの人気が高まり8月以降、急増したという。
水間事務局長は「授業料クーポンに関する12月の発表で名寄市のことを初めて知り、寄付先に選んでくれた人もいたのではないか」と見ている。
クーポンは譲渡も可能なため、市には市民や商店主から「自分が寄付をしてクーポンをもらい、知り合いの学生に譲りたい」との相談も寄せられるという。ふるさと納税の制度上、市民は返礼品を受け取ることができないが、水間事務局長はこのように申し出る市民の心情が理解できるという。「人口2万5000人の小さな市で、800人の学生は消費やアルバイトを通じて地元経済の活性化に貢献している。市立大学は、市民にとって応援したい存在なのだろう」。
水間氏は名寄市立大学の事務局長を務めて4年目。名寄市では主に農政畑を歩んできたが、それ以前、加藤市長が2010年の1期目当選直後、「役所にも営業的な感覚を」という考えで新設した「営業戦略室」(現在は産業振興室)に当初から所属し、観光や移住など、地域活性化の政策に関わった。
同氏は今回の新たな施策が地域活性化につながり、受験生の大学選びのインセンティブにもなると考え、今後、市の担当部署と共にふるさと納税と学生募集、両方の広報において積極的にアピールしていく考えだ。
「われわれ大学側も大学のことだけを考えるのではなく、市と大学を一緒に元気にしていく発想が必要だ。地域がにぎわい続けてこそ大学が生き残れるので、名寄の応援者を内外で増やしていきたい」
「『名寄』を読めない、どこにあるかもわからないという人も多い。魅力ある特産品などと一緒にまずは地名を覚えてもらい、名寄市立大学ってどんな大学だろうと興味を持ってほしい。ふるさと納税がそのきっかけになるという手ごたえをつかんだ。ほかにもまだ知恵を絞る余地があると思うので、どんどんチャレンジしていきたい」
※「Between」No.314(地域連携特集)に、🔗ふるさと納税の記事を掲載しています。併せてお読みください。