学費収納システム構築で業務を効率化、他大学との共用へ―桜美林大学
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2023.0206
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3行でわかるこの記事のポイント
●従来の窓口振り込み、ネットバンキングで多発するトラブルを解消
●顧客満足度向上を図りつつ、「注力すべき業務」にマンパワーを充てる
●システムを保護者とのコミュニケーションツールに発展させる構想も
大学にとって、学費収納は大きな負担を伴う業務となっている。振込用紙の紛失や転居による再送、振り込んだ学生を特定できないケースなど、さまざまなトラブルが発生し、対応が煩雑になりがちだ。桜美林大学はこうした問題を解消しようと、独自の学費ポータルサイトと学費決済アプリによってオンライン上で請求・支払いを完結させるシステムを構築した。業務のDX化によって生まれた余力を教育の充実に充てたい考えだ。他大学の業務改善にも貢献しつつ、運用コスト低減を図ることを目的に、システムの共同利用参画校を募っている。
多くの大学では学費の収納において、学生・保護者に金融機関の窓口で振り込んでもらう方式を基本にしている。振込用紙に記載された口座にATMやネットバンキングで振り込む学生・保護者もいる。その場合、学生の氏名を入力せず、口座名義人である保護者の氏名しか大学に通知されないケースが多発し、学生を特定する手間が生じる。振込額を「手数料込み」と指定し、不足が発生することも少なくない。これらは、振り込みに関する情報の入力を学生側に委ねることによるトラブルだ。
そこで、学生の学籍番号と氏名を記載した振込用紙を全員に送付し、「指定口座と同じ金融機関からの振り込みなら手数料が無料」というメリットを説明して窓口での振り込みを推奨するわけだ。金融機関の処理が介在することによって正しい額を払ってもらうことができ、振込用紙にある学生情報も大学に通知される。
しかし、この方式にもいくつもの難点がある。振込用紙の送付と休学届け出のタイミングが重なり、本来、払う必要がない学費が振り込まれた場合は返金業務が発生。また、学生の転居のタイミングと重なり、振込用紙が大学に返送されたら新住所を確認して再送する必要がある。振込用紙の紛失による再発行は、桜美林大学の場合、年2回の徴収のたびに約3%の学生で発生していた。振込用紙が学生側に届かない「迷子」状態から学費が滞納され、除籍予備軍を生んでしまうリスクもある。
多くのサービスの支払いがオンラインでできるようになる中、平日の昼間に金融機関の窓口に行くよう求められることについて、疑問を呈する学生・保護者は絶えないという。大学の指定口座と異なる金融機関から振り込む場合の手数料は学生・保護者が負担するという問題もある。桜美林大学で財務管理課長として学費収納システムの導入を担当した大和田直氏(現在は研究推進課長)は「特に、メガバンクの支店が少ない地方在住者が振込手数料を払う不公平さは見過ごせない問題だった」と話す。
さらに、金融機関の間では有人店舗やATM網を整理・縮小してネットバンキングに移行したり、有人サービスの手数料を値上げしたりする動きが加速。同じ金融機関同士であっても、窓口での振り込みを有料に切り替えるところも出てきた。
「振込用紙による窓口支払いは大学、学生、金融機関いずれにとってもデメリットばかり。大学間でほぼ共通の業務にもかかわらず、各大学が多大な労力をかけて個別にやっていることも非効率だ。こうした問題を解消し、本来、力をいれるべき業務にもっとマンパワーを充てるべきだと長年、考えていた」(大和田課長)。
桜美林大学が学費収納の仕組みを抜本的に見直す直接の契機となったのは、2020年春以降のコロナ禍だった。オンライン授業の導入に加え、各種事務手続きもオンラインへの切り替えを推進。危機を好機へとばかりに、積年の業務課題の解決と顧客満足度向上を図るべく、学費収納のオンライン化に取り組むことになった。
同大学と共同でシステムを開発したのは、水道・ガスなど公共料金の収納代行で高いシェアを占めるビリングシステム社。同社は、桜美林大学を含む100校近い大学・専門学校のネット出願の受験料収納も代行している。
桜美林大学とビリングシステム社は、「対象学生の請求額に関する最新情報を使って請求する」「学生本人の名前で正しい額が入金される」「学生側にとって利便性の高い支払い手段を提供する」などの要件の下、システムを検討した。「イメージしたのはネット通販。学生ごとのマイページを作ってそこで正確な額を通知し、そのまま決済画面に移動するというシームレスな流れにしたかった」。大和田課長はそう説明する。
システムの概要は下図の通り。
桜美林大学の学費支払いシステム「OBIPAY」が既存の教学システムから各学生の学籍情報を取得し、学生・保護者に請求メールを送信。学生側は「OBIPAY」と連携するスマホアプリ「PayB for Campus」(ビリングシステム社の公共料金等収納アプリの決済上限を引き上げ、学費収納用にカスタマイズしたもの)を使い、「即時口座振替」という方法で決済する。振込手数料なしで即時、学生側の口座から引き落とされたお金は一旦、同社の口座に入る。入金情報は毎日、大学に通知され、お金は一定の頻度でまとめて大学の口座に移される。
学生側は「OBIPAY」で過去の支払い情報の確認や納入証明書のダウンロードなどができる。スマホを持っていないなど、アプリを利用できないケースを想定し、学生ごとに専用の仮想振込口座も設けている。
教学システムとの連携により、休学など最新の学籍状況を反映した請求額を示すため、不要な入金を防ぐことができる。ペーパーレス化で振込用紙の紛失・再発行の問題も解消した。システム化によって教学システムへの反映や督促業務も効率化できる。
桜美林大学では2022年春学期のシステム稼働以降、安定的に運用している。オンライン化によって印刷代が不要になる一方、新たにシステム利用料が発生するなど、年間のコストはこれまでと大きく変わらないという。しかし、「業務フローの改善によって担当者の負担は飛躍的に軽減された。余力を他の業務に振り向けられるので実質的には人件費の削減となり、システム開発の初期費用を3 年で回収できる見込みだ」。大和田課長はそう説明する。
桜美林大学がビリングシステム社に支払う年間システム利用料は、「学生1人あたり年間単価×学生数+システム保守料金」で設定されている。システムはほとんどの大学で使える汎用的なもので既存の教学システムの改修は原則不要、活用する大学が多いほど学生1人あたり単価を抑えられるという。そこで、同大学はこのシステムを共同利用するために、「学納金収納システム共同利用推進プロジェクト」を設け、参加校を募っている。
同プロジェクトのリーダーで入学部部長・学長補佐を務める高原幸治氏によると、リリース直後の現段階では、導入メリットが明確に表れるのは学生数4000人以上の大学。2022年12月末から2023年1月にかけてオンラインによる説明会を開いたところ、1月末現在、70校前後から参加の意向や問い合わせを受けたという。
桜美林大学にちなんだ「OBIPAY」のように、学費支払いシステムは各大学が自由にネーミングできる。大学ごとのニーズに合わせたある程度のカスタマイズは、ビリング社が対応。桜美林大学では学生1人あたりの年間単価部分を大学が負担しているが、学生負担にすることも可能だという。
桜美林大学では、今回のシステム構築による業務のDX化を働き方改革につなげる一方、マンパワーを大学の本来の使命である教育の充実に充てたい考えだ。「OBIPAY」を土台に、保護者をはじめとするステークホルダーとのコミュニケーション強化、顧客満足度の一層の向上を図るという。
「OBIPAY」を、学習塾が生徒別に設ける「マイページ」のような仕組みに発展させ、保護者との双方向のやり取りに活用する構想もある。「PayB for Campus」に口座振替以外のさまざまな支払い方法を実装し、寄付金収入を増やすことも検討する。受験料や入学金の納入とつなぐ一気通貫のシステムを構築し、大学と学生・保護者双方の利便性を高めることも考えている。さらに、部活動の合宿費用や学内での購買等、さまざまな支払いに対応するサービスへの拡充も検討する。
日本私立学校振興・共済事業団私学経営情報センターの野田文克センター長は「学費収納業務の煩雑さは、多くの大学からたびたび聞いている。ICTの活用によってそれを効率化した桜美林大学の取り組みは、大学経営を圧迫しがちな人件費の削減につなげている点、さらには大学間でシステムを共有してスケールメリットを出そうという点で画期的だ」と評価する。「効率化できる部分に知恵を絞り、学生サービスの充実や研究の高度化にしっかり人の手をかけていくことが大事」と話す一方で、主に地方小規模大学を念頭に、学費収納にあえて人手をかけるという考え方もあり得ると指摘する。「学費収納を保護者とのコミュニケーション機会と位置づけ、学生の学修や生活について情報交換することによって信頼関係を築いている例もある。正解は一つではなく、大学ごとに多様な考え方、やり方があっていい」。
*桜美林大学の学費収納システムの共同利用に関する問い合わせは、桜美林学園学納金収納システム共同利用推進プロジェクトまで。
メールアドレス:tuitionsystem-p@obirin.ac.jp