2024.0930

立命館が職員の学内副業制度を試行、学内外の連携を主導する総合力の強化へ

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3行でわかるこの記事のポイント

●各部署で希望者を募り、選考を経た16人が学内副業を経験
●「大学アドミニストレーター」から「T型の強みを持つプロフェッショナル」へ
●多様なリソースを組み合わせ、新たな価値を創出できる職員の育成を図る

学校法人立命館は「専門性と総合性をあわせ持つ新たな人材育成」を目的に、20241月から8月まで、専任職員の学内副業制度を試行的に実施した。人事部は、制度の継続を提案する方向だ。学内外の多様なリソースを結びつけることによって新たな価値を生み出す職員を育成し、大学のプレゼンスを高めたいという。


勤務時間の2割以内をあて、他部署の業務を経験

立命館の🔗学内副業制度は法人本部をはじめ立命館大学、立命館アジア太平洋大学(APU)、附属校等の専任職員約700人のうち、管理職を除く約550人が対象。
学内副業者を募る部署の募集要項を人事部が集約して学園内で公募。希望者が自ら応募する「手挙げ型」で、応募書類に基づいて募集部署と人事部の管理職が選考する。

今回の試行では、学内副業の期間を6か月以内とした。本来の所属部署に籍を置いたまま、勤務時間の2割以内をあてる形で他部門の業務に従事する。

「大学職員の業務が多様化、複雑化、高度化」

人事部の長田勝次長が「恐らく学校法人初ではないか」というこの制度のねらいは、専門性と総合性をあわせ持つ大学職員の育成だ。

社会の複雑化、18歳人口の減少や進学率の上昇など、大学を取り巻く環境は大きく変わり、社会が大学に期待するものも変化している。「それに伴って大学職員の業務も多様化、複雑化、高度化してきた。立命館ではあるべき職員像について継続的に議論し、さまざまな人事政策を進めてきた」(長田次長)。

立命館が早くから大学アドミニストレーター育成と教職協働に力を入れてきたことは、広く知られている。
政策立案を担う専任職員と定型的な事務を担当する任期制の契約職員(事務職)という体系を敷いたのは、30年以上前のことだ。定型業務を契約職員に任せる体制を徐々に整えながら、「専任職員が担うべき役割は何か」と考えてきた。
2005年には、職員が所属部門の課題解決に向けた政策を立案する「大学アドミニストレーター養成研修」を導入した。

学園内に閉じた連携から学外に開かれた連携へ

2030 年に向けた学園の中長期ビジョンの達成に取り組む現在、めざすべき職員像を「専門性と総合性をあわせ持つT型人材」と明確にし、人材育成に力を注いでいる。
T」の縦の棒は、大学職員として求められる業務分野の深い専門性を意味する。横の棒は、学内の他部署や学外と協働するための幅広い知見やネットワーク、すなわち総合性を意味する。
学内副業制度は、特に総合性の強化に着目したものだ。

長田次長は「これまでの教職協働や職員の能力開発は、大学内に閉じて、教員との協働や課題解決のための能力を高めるという発想が強かった。しかし、今や職員には、教員の研究テーマや学外のリソースを熟知したうえで、自ら共創を主導して社会に価値を提供する役割が求められている」と話す。

「大学アドミニストレーター養成研修の時代も、明示はせずとも総合性が意識されていた。しかし、当時は文字通り『大学の行政管理者』として、学園内に閉じた協働や連携にとどまっていた。現在は学外にも目を向けた真の総合性を重視し、大学アドミニストレーターを超えた次のモデルとして『T型の強みを持ったプロフェッショナル』を掲げている」
「大学に集まる多様な人を束ねて学内と学外をつなぎ、リソースを組み合わせて新たな価値を生み出すことが、今の大学には期待されている」

専門性の深化も必要なため、異動による総合性強化が困難に

従来の人事政策では、部署の異動を通して総合性を身に付けさせた。しかし、近年は必要な専門性もより深くなっているため一部署での在籍期間が長くなり、「異動の機会は限られていくと予想される」(長田次長)。

異動を伴わない形で総合性を高める方策として、兼務やプロジェクト等の制度が立命館にもすでにある。そこに、企業の先行事例を参考にして学内副業制度を加えた。人事の発令は行わず、本人の主体的な意思に基づいて別の業務を経験する点が、他の制度との違いだ。

「この制度によって、組織は多様な人材の協働による新しい価値の創出が期待できる。本人にとっても、幅広い業務経験を通して自らの適性を発見し、キャリア形成に生かせるという利点がある」 

総務系の職員が教員の起業支援をする事例も

今回の試行では6つの課が学内副業者を募集し、16人が他部署の業務に携わった。オンライン会議等の活用によって、学校間やキャンパス間の壁を超えた学内副業も実現した。

人事部は当初、自らのキャリアを見定めていく20代後半から30代前半の職員の応募が多いと予想したが、実際にはすべての年代から応募があり、40代以降の職員の方が多かった。
「『自分のキャリアが他の部署でどの程度生かせるか試したい』『この業務を経験すれば自分の可能性がこう広がるという仮説を検証したい』といった応募動機があり、ベテランにもこのような思いがあるとわかったことも、われわれにとって収穫だ」(長田次長)

こうした応募を経て、立命館大学の教学部門の職員がAPUでキャリア支援に関わる、総務系の職員が教員や学生の起業・事業化を支援する、附属校の職員が秘書課の寄付金募集業務に携わるといった事例が生まれた。

「ゴールを明確にしたうえでの業務開始が重要」

20248月末で、16人全員の学内副業が終わった。人事部は本人とその上長、および受け入れ側の上長へのアンケートをふまえ、「運用に難しい点もあるが、多くが制度の意義を感じている」と総括している。
本人からは「自分のキャリアについて考える機会になった」「転勤や異動のような環境変化を伴わずに他部署の業務を経験し、ネットワークを広げることができた」といった感想が聞かれた。

今回、人事部として業務時間を「82」にするための厳格なルールは設けず、本人による時間配分の工夫と、それぞれの部署のマネジメントに委ねた。結果的に、懸念された勤務時間の極端な負荷は見られなかったという。

一方、受け入れ側の上長からは、限られた時間内の業務を、ケースによっては遠隔でマネジメントする難しさが指摘された。長田次長は「最初にゴールを明確にしたうえで、定期的に業務の進捗を把握し、マネジメントにあたることが大事だという気づきにつながった」と話す。
さまざまな課題はあるものの、その多くは、本人と各上長、さらには上長同士がしっかりコミュニケーションをとることによって解決できそうだという。

人事部では今回の総括をふまえ、法人内で学内副業制度の継続を提案する考えだ。今後もルールを細かく定めていくのではなく、キャリア形成や人材育成の観点を軸にしながら各現場の裁量による柔軟な運用をベースにしたいという。「モニタリングを通して制度の不具合が見つかれば都度、解決しながら改善を図り、意欲ある職員に『この制度があってよかった』と思ってもらえるものにしていきたい」。