2023.0424

学生と職員が支援する入学前キャリア教育で単位も認定-桐蔭横浜大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●年内入試による入学予定者が全学部合同のプログラムに任意で参加
●「なりたい自分」を描いて学びへの意欲を高める
●全職員の約半数がチューターを務め、グループワークを活性化

桐蔭横浜大学は年内入試による入学予定者を対象に、キャリア教育の一歩目となる入学前教育を実施している。初年次必修のキャリア教育科目と同様の内容で開講し、修了すると正規科目の先取り履修として単位認定される。受講者は入学後の課題提出率が高く課外活動にも積極的で、大学側はプログラムの成果に手応えを感じている。


科目等履修生として登録し、入学後の学びに接続

 桐蔭横浜大学の入学前教育プログラム「桐蔭プレアド」は、学校推薦型選抜、総合型選抜による入学予定者が任意で受講する。1月下旬から3月下旬まで7回の講座で構成。それまでの経験を振り返って自分の強みと弱みを理解したうえで将来の「なりたい自分」の姿を描き、その実現のために大学でやるべきことを考えるという内容だ。同大学は、入学後もこのような「ライフキャリア」を育む教育に力を入れている。
 桐蔭プレアドは2021年度入学予定者対象のトライアルを経て、2022年度入学予定者から本格実施。3回目となる2023年は、改組によって新設されたスポーツ科学部、学部等連係課程として新設された現代教養学環を加えた3学部1学環、初めて全学での合同実施となった。
 同大学では、2022年度から導入された全学共通科目「MAST」の中で、キャリア教育科目の「桐蔭キャリアゲート」を初年次必修にしている。桐蔭プレアドはこれと同じ内容で、同じ教員が担当。受講者全員を科目等履修生として登録し、修了すると2単位を認定する。入学前に先取り履修し、入学後の学びに接続するわけだ。 

●学部の壁を超えた学びのコミュニティを構築

 桐蔭横浜大学では以前、入学前教育を学部ごとに実施していた。全学的なキャリア教育への刷新は、同大学が重視する「学校から社会へのトランジション」に基づいて構想された。事務局長兼副学長の河本達毅氏は「将来の見通しを持つことによって学ぶ目的が明確になる。入学前からキャリアプランを考え、入学後の学びに対する期待と意欲を高めるプログラムにしたかった」と話す。
 入学後は他学部と交流する機会が多くないため、全学合同のプログラムを通して学部の壁を超えた学びのコミュニティを構築させるねらいもある。
 必修ではなく任意受講にしたのは、地方からの入学者への配慮に加え、高校教育への影響を懸念したからだ。入学前から必修で課すことの是非を検討した結果、「自らの意思で参加する主体性のある受講者を成長させ、入学後の学びや活動をリードする学生に育てよう」という結論になった。

●オンデマンド配信による事前学習で入学後の学びのスタイルを経験

 全7回の講座、および2回目以降に課す事前学習の内容は次の通り。

1回目:ガイダンス、大学紹介、自己理解のワーク
 事前学習:成功体験・失敗体験を振り返る
2回目:過去の自分を振り返る
 事前学習:OB・OGのインタビュー動画視聴
3回目:桐蔭の学びについて考える
 事前学習:10年後になりたい姿を描く
4回目:未来の自分を考える
 事前学習:大学での学びのストーリーを描く
5回目:もう一度、自分に向き合う
6回目:ポスター作成などの発表準備
7回目:大学で挑戦したいことについて全員が発表

 地方からの入学予定者に配慮し、5回目までは対面と同時双方向のオンラインを組み合わせるハイフレックスで開講。6、7回目は3月末に2日連続、対面で実施する。
 事前学習ではオンデマンド配信による動画を視聴し、課題を提出する。入学後に受講する全学共通科目の多くは、動画による知識のインプットと対面のアクティブラーニングによる知識のアウトプットで構成される。入学前プログラムを通してこの独自のスタイルに慣れておくという効果も期待されている。

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●総務、施設・設備等の部門の職員もチューターとして活躍

 2023年1月~3月に開講された桐蔭プレアドの講師を務めたのは、松井晋作准教授(専門は教育社会学、ESD=Education for Sustainable Development)と溝口侑特任専任講師(専門は青年心理学)。いずれも教育研究開発機構に所属し、全学共通科目のアクティブラーニングでファシリテーターとして活躍している。
 グループワークには職員と学生のチューターが加わり、議論を活性化するために話題を投げかけて発言を促す役割を果たした。事前研修ではグループワークのシミュレーションを通してチューターの役割とポイントを学んだ。
 職員チューターは、希望者と各部署からの推薦を募ったところ、若手を中心に全職員の半数にあたる23人が担当することになり、毎回4、5人が参加した。「総務や施設・設備など、普段は学生と接する機会がない部署にも巧みにグループを盛り上げる職員がいて、教育機関としてのリソースに自信を深めた」(河本副学長)。
 公募に応じた学生チューターの多くは、前年度までの桐蔭プレアドの受講者で、今回は13人が参加した。

●学びのコミュニティの一員という意識が生まれ入学後の課題提出率も高い

 松井、溝口両教員と学生チューターは講義以外でもビジネスチャットツール「Slack」を使って受講者の質問や相談に対応し、コミュニケーションを深めた。課題の提出が遅れている受講者には教員が繰り返し提出を促し、入学後に特別なサポートが必要な学生の早期発見にもつながった。その情報は、後述する修学支援システムを通して各学部や学生支援担当の職員に共有される。
 桐蔭プレアドは「課題を提出しないと授業についていけなくなる」という意識を入学前から浸透させる役割を果たしているようだ。2022年度の全学共通科目における課題提出率は、プログラム受講者の方が全体平均より高かったという。
 初年次必修の「桐蔭キャリアゲート」でも同じ教員が同じように課題提出の徹底を図るにもかかわらず、提出率に差が出るのはなぜか。桐蔭プレアドの事務局を担当し、チューターも務めた学務部の三浦和真氏は「入学前から教職員や先輩学生、同期の仲間との人間関係が形成され、学びのコミュニティの一員だという意識がより高いからではないか」と推測する。
 この推測を裏付けるように、受講者は次年度の学生チューターやオープンキャンパスの学生スタッフなど、さまざまな活動に積極的に参加する傾向がある。河本副学長は「学生の自主活動の提案も活発で、大学へのエンゲージメントが高くキャンパス滞在時間も長い」と説明する。

●修学支援システムで全学の要支援学生の情報を共有

 2023年の桐蔭プレアドは、年内入試による入学者の6割にあたる289人が受講し、全入学者に対する割合は約5割。「意欲が高まった学生が半数を占めるので、全学共通科目の授業がかなり活性化するはず。課外を含むさまざまな活動にもいい影響が出てくるのでは」。河本副学長と三浦氏は期待を高める。
 桐蔭プレアドを通してコアとなる学生を育てる一方で、「誰ひとり取り残さない万全のサポート体制」の構築にも取り組んでいる。学務委員会とIR部門が整備を進める修学支援システムでは、課題提出状況、授業の出欠や長期欠席の情報、さらには教員の肌感覚による「何となく気になる」という定性情報も管理。学務部から各学部に情報が共有され、「前期の成績が出てからでは遅い」という共通認識の下、心配な学生とは早めの面談がなされる。必要に応じてラーニングコモンズの学生支援担当アドバイザーにつなぐほか、学生が面談に応じない場合は保護者に連絡することになっている。

●学生チューターの発案で保護者向け入学前プログラムも実施

 河本副学長は桐蔭プレアドについて「3年間続けてきて型がほぼ出来上がった」と評する。「受講者が成長しているという確かな実感も持てるようになった。初回の講座では『公務員になりたい』と言うだけだった受講者が、最後の発表では『公務員になって〇〇に取り組みたい』という意思を表現するようになる」。
 このプログラムが学生チューターを成長させる効果にも着目し、仕組みをブラッシュアップしたい考えだ。従来のボランティア方式を改め、今回から報酬を支払うことにした。それに伴い、「入学予定者のコミュニティを活性化し、成長させる」という課題解決について積極的な提案を出すよう促した。学生チューターはそれに応え、講座外での2回のオンライン交流会を企画した。
 今回から始めた保護者対象の入学前プログラムも、学生チューターが提案したものだ。升信夫副学長(法学部教授)と河本副学長が講師を務め、3月に2回実施。社会が求める人材像の変化、それに応えるための桐蔭横浜大学のカリキュラムと学生支援システムについて説明した。保護者も学生の成長を支えるコミュニティの一員として、一緒にサポートしてほしいと呼びかけた。
 河本副学長は「学生チューター制度も教育の一環として準正課プログラムに位置づけ、明確な目標を立てたうえで活動してもらい、最後はレポートを課して単位認定するという仕組みを検討したい」と話す。
 これまでは、高校在籍中から大学のプログラムに参加させることについて、高校教員のネガティブな反応を懸念して積極的な広報はしてこなかった。しかし、受講者の成長や学生チューターの活躍に自信を深めつつある現在は、広報に対する考え方も変わった。「高校教員が本学のような立ち位置の大学に期待するのは、まさにこういう取り組みではないか。今回も数人が参観してくれたが、今後はもっと積極的に参観を呼びかけて学生の成長に責任を持つ大学だという理解を浸透させていきたい」(河本副学長)。