2022.0425

教育プログラムを「使い倒す」ための入学前教育を全学で導入-上智大学

入学前教育・初年次教育

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3行でわかるこの記事のポイント

●共通教育刷新に合わせ「上智での学び」の理解と主体的な履修を促す
●入学前準備科目「学びを学ぶ」で生涯学び続ける力の育成をスタート
●背景に「入学後では遅すぎる」「情報の周知が不十分」という問題意識

上智大学は2022年度の全入学者約2800人を対象に、従来にないコンセプトと内容の入学前教育を実施した。刷新した全学共通科目をはじめ、大学が提供する教育プログラムとそこに込めた意図を十分に理解してもらい、入学と同時に計画的で主体的な履修を促すことがねらいだ。生涯にわたり学び続ける力の育成を掲げる新たな教育体系と独自の入学前教育について聞いた。

●新しい共通科目で学びをデザインする力を育てる

 上智大学で全学共通科目(以下、「共通科目」)の運営や入学前教育の企画・実施を担うのは、2021年7月に設置された基盤教育センターだ。センター長を務める文学部の大塚寿郎教授は、「本学の『基盤教育』は専門教育の基盤という意味での教養教育ではなく、生涯にわたって学び続ける力の基盤をつくる教育を指している」と説明。2022年度に刷新した共通科目ではまさに、生涯にわたり自分の学びをデザインする力を育てる。
 下の図が、2022年度からの上智大学の共通教育の体系だ。「人文科学」「社会科学」「自然科学」といった一般的なカテゴリ分類はない。従来の共通科目を、学問分野を横断してつなぐ横の軸(科目群)と、それをレベルごとに区切る縦の軸を組み合わせて再構成した。

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 共通科目は「コア」と「展開知」から成る。

●4年間、継続的に学ぶことを前提に共通科目を設計

 「コア」科目群は、上智大学の教育の精神「他者のために、他者とともに」を実践する人を育てるため、人間観・世界観について考える「人間理解」科目と、クリティカル・シンキングやデータリテラシーといった知の技法を身につける「思考の基盤」科目で構成。「人間理解」科目の柱は、キリスト教ヒューマニズムの基礎となり、ユニバーシティ・アイデンティティ科目に位置付けている「キリスト教人間学」だ。
 一方の「展開知」では、「正解のない問い」について批判的に考える素地として幅広い視座と知識を身につけ、実践や経験に結びつける科目を提供する。
 これらの科目群は、課題に対する気づきを促す1年次必修の「導入」から、高学年の「展開」「探究・統合」までレベル分けされ、それぞれ100番台から400番台でナンバリングされている。つまり、共通科目は4年間、継続的に履修する前提で設計されている。「関心の赴くまま履修し、低学年のうちに単位を取り貯める」のではなく、語学科目や専門科目と関連づけて学び続けることによって確かな力をつける、そんな共通科目として構想されたのだ。
 例えば、「展開知」の「導入」の「課題認識」科目では、置かれた立場によって課題の見方が変わること、そうした多様な視点から課題に多角的にアプローチする重要性について気づきを促す。それを土台として、「展開」以降の「社会課題と展望」「視座」等の各科目を積み上げる。この科目は専門科目の学びの導入ともなる。
 学生は節目ごとに自らの学びを振り返り、修正を加えながら次の学びに向かう。成長を可視化し、PDCAサイクルを支援するツールとして、2022年度から「セルフ学修ポートフォリオ」も導入する。これらのカリキュラムやツールによって、生涯にわたり自分の学びをデザインできる自律した学修者を育てようというわけだ。

●「魅力的なプログラムの存在を知るのが遅く、活用できずに終わる」

 上で示した共通科目の体系には、入学前準備科目「学びを学ぶ」も0番台として組み込まれている。単位認定はされないが、オンデマンドで全員が履修する。上智大学の学びの特色をしっかり理解したうえで、最初の履修登録から自分の学びを主体的にデザインできるよう、2022年度入学者から実施されているのがこの入学前準備科目だ。
 大塚教授は「新入生が履修について考え始めるのが4月になってからという従来のスケジュールは、どう考えても無理がある」と指摘する。「ガイダンスを受け、分厚い履修要覧を配られてわずか1週間で履修登録をする-。これでは、本学の学びの特色と仕組みを理解したうえで自分のやりたいことを考え、教育プログラムを計画的に『使い倒す』ということは不可能です」。実際、学生から「いろんな魅力的なプログラムがあることを知ったのは就活を始めた後で、ほとんど活用できないまま終わりそう」と言われるという。
 教育プログラムについて十分な情報を与えられ、入学時点でしっかり理解していれば、「2年次に留学しよう。そのためには1年次のうちに語学検定でこのレベルに到達する必要がある。入学したら、すぐにこのeラーニングの語学学習プログラムを使って準備を始めよう」といった計画が可能になるというわけだ。

●入学前教育では教育の根底にある大学のルーツに立ち返る

 入学前準備教育では、建学の理念や大学の歴史など、一般的に初年次教育で扱われる内容もカバーする。それらを抜きにして、上智大学の学びを理解してもらうことはできないと考えるからだ。「学びの背景にある大学のルーツや教育精神に触れ、学びの仕組みを理解することによって上智生としての意識も高まるはずだ」と大塚教授。
 プログラムは1回15~20分、全11回のオンデマンド動画で構成される。入学手続き者全員に、3月上旬から2回に分けてまとめて配信した。入学までに視聴してもらい、毎回の確認クイズへの回答を課す。そこで受講状況の確認をするが、滞っても連絡はしない。「自ずと見たくなる魅力的な動画を制作した」(大塚教授)という自信に加え、「上智生になる」という喜びから主体的に見てくれるはずだという期待もある。
 11回のプログラム構成は下図の通り。

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●先輩の体験談を通じてプログラム活用のメリットを理解

 「イントロダクション」は曄道(てるみち)佳明学長からの歓迎のメッセージ。「上智大学のルーツと歴史」「上智大学の教育精神」は、大学の設立母体であるカトリック修道会イエズス会の司祭を兼ねる教員が、教育の根底にあるキリスト教ヒューマニズムや教育精神「他者のために、他者とともに」について説く。
 続く「学びを俯瞰する」でカリキュラムのコンセプトと構造を説明。「座学を超えて『実践・経験』」や「私は上智大学でこう学んだ」では、上級生や卒業生へのインタビューを通して留学やインターンシップなどの各プログラム、キャリアデザインについて理解を深めてもらう。カリキュラムマップやシラバスなど、学びのデザインを支援するツールも紹介する。
 キャリアデザインがテーマの10回目、および最後に再び大学の教育精神に立ち戻る11回目には小レポートを課す。いずれも入学後にセルフ学修ポートフォリオに取り込まれ、1年次の必修科目の授業で参照するなど、入学前準備教育と入学後の学びを接続させる工夫も施されている。

●「カリキュラムは大学のメッセージ」

 独自のコンセプトと内容で実施する入学前教育に、企画・運営する基盤教育推進室の職員も期待を寄せる。豊田みのり室長は「入学前で一番、時間的余裕があり、期待も高まっている時期に大学での学びや活動をリアルにイメージすることによって、これまでの新入生とは全く違う意識で学びをスタートできるのでは」と予想する。チームリーダーの高木航平氏は「共通科目で視野を広げることが専門科目にどう生きてくるか、教育精神がサービスラーニングなどの活動にどうつながっているのか、先輩の体験談を通して入学前に知ってもらえることが、この入学前教育の意義だ」と話した。
 「カリキュラムは大学のメッセージだと思っている」と大塚教授。「4年間で教えられることには限りがあるし、大学で学んだ知識は社会に出ればあっという間に古びてしまいます。われわれが4年間で学生に教え、授けるべきは学び続けることの大切さとそのために必要な力、そして具体的な手法です。上智大学の共通科目にはそういうメッセージを託しました。学生が教育プログラムを存分に使い倒し、身に付けた力を生涯、生かし続けてくれることが、私たちの喜びなのです」。