2021.1201

短大と共にデータサイエンス科目を全学で必修化―武庫川女子大学

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3行でわかるこの記事のポイント

●外部リソースの活用によって検討開始から9か月で開講
●社会ニーズや高等教育行政の変化を説明し、学内コンセンサスを形成
●再履修者を出さないためのきめ細かい学修支援

武庫川女子大学と同短大部は、2021年度から数理・データサイエンス・AI教育(以下、「データサイエンス教育」)のリテラシー科目を全学で必修化し(看護学部のみ2022年度から)、後期から開講している。2020年12月に検討を始めてから9か月後に開講というスピーディな対応を可能にしたのは、外部リソースを活用したオンデマンド方式による授業設計だった。女子大ならではのきめ細かい学修支援を特色とし、文部科学省による2022年度の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)認定」には「MDASH Literacy+(プラス)」での申請を予定している。

●社会変化に対応すべく「無謀とも言える挑戦」に踏み出す

 武庫川女子大学と同短大部(いずれもメーンキャンパスは兵庫県西宮市)が2021年度、全学の1年次必修科目として新設したのは「データリテラシー・AIの基礎」(全15回、2単位)。文部科学省が大学・短大・高専に対して、文系・理系にかかわらず全ての学生がデータサイエンスの基礎的な知識・スキルを修得できる環境の整備を求めていることに対応した。
 大学は10学部に約8500人、短大は7学科に約1000人の学生がそれぞれ在籍。今後は毎年、2500人規模の1年生がデータサイエンス教育のリテラシーレベルを学ぶことになる。教務部次長として取り組みを主導した蓬田健太郎教授(食物栄養科学部)は「ある意味、無謀とも言える挑戦だった」と振り返る。それを可能にしたのは、社会変化に対応するための教育の刷新をいとわない同大学の姿勢と言えそうだ。

●下準備としてのWi-Fi環境整備や学習プラットフォームの活用

 蓬田教授は「工業社会から情報化社会に移行したSociety4.0以降、女子大の教育は、従来の『社会を下支えする人材の育成』から『自ら社会で活躍する人材の育成』へとシフトした。さらに、Society5.0時代の到来で、AIとの共存やDX化に対応できる教育が女子大でも求められるようになった」と解説。
 このような社会環境の変化を受け、同大学は2016年、学内Wi-Fi環境の整備や学習プラットフォームの活用を柱とするICT活性化プロジェクトをスタートさせている。
 創立80周年の2019年には、20年後を視野に入れた長期計画「MUKOJO ACTION & VISION」を策定。その基本コンセプト「一生を描ききる女性力を」は、近年の教育のキーワードである「生涯、学び続ける力」を自学の文脈で表現したものだ。このコンセプトの下、初年次教育を全学(大学・短大)で標準化し、その一部を、学習プラットフォームを活用したオンライン授業で開講。学修成果の可視化をめざし、ポートフォリオを活用した評価方法の見直しにも着手している。
 2020年度、文科省は「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」の認定要件を示した。蓬田教授はこの新制度に、従来の高等教育施策との大きな違いを感じたという。「優れた取り組みをしている大学に補助金を出す従来の制度なら、申請しなくても問題はなかった。しかし、今回の制度では、認定されないと一定の要件を満たしていない大学とみなされる。これはやらざるを得ないと思った」。

●オンデマンド方式によるハードルのクリア

 リテラシーレベルの科目新設について検討した結果、次の5つのハードルが浮かび上がった。①全学共通の内容で開講する場合の各学科のカリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーとの整合性、②学科ごとに開講されている情報リテラシー科目との関係、③担当教員の確保、④教材作成、⑤教室の配当や時間割の調整。
 蓬田教授らは③~⑤については、オンデマンド教材を使うオンライン授業という手法によってクリアできると考えた。折しも、コロナ禍の下で導入したオンライン授業に関する学生アンケートで、オンデマンド型に対する評価は対面型やリアルタイム配信の授業に比べて明らかに高かった。「いつでもどこでも、繰り返し視聴できて知識が定着しやすいためだろう」と蓬田教授。
 オンデマンド型なら全学必修化も実現の可能性があると考えたが、教材を学内で一から作成するとなると教員の負担が大きく、開講まで時間がかかる。自前主義にこだわらない考えで情報を集める中で見つけたのが、ベネッセコーポレーションが提供するオンライン動画教材を活用してデータサイエンス教育を必修化した香川大学の取り組み事例だった。その教材はリテラシーレベルのモデルカリキュラムに準拠し、1科目で認定要件をカバーできること、香川大学では受講者1300人規模の授業を担当教員2人で運営していることや学生満足度が高いことなどに着目した。

●モニタリング調査を経て一部をオリジナル教材に差し替え

 武庫川女子大学・同短大部はそのオンライン動画教材を活用し、全1年生を対象にデータサイエンスのリテラシー科目を必修化する方針を2021年2月に決定。次年度の開講をめざし、全学的な意見交換をしながら急ピッチの検討を進めた。
 提案当初、教員からは「女子大でデータサイエンス教育を必修化する必要があるのか」という「そもそも論」も多く挙がった。蓬田教授は「飴(従来の補助金制度)と鞭(今回の認定制度)」に例えて「大学を取り巻く環境は厳しく、社会が求める教育に背を向けることは許されない」と訴えた。自学の教育方針に合致する改革であるとのコンセンサスを得ていく過程で建設的な意見が多く寄せられ、担当部署が決まり、実現に向けた動きが一気に加速した。
 全学共通の教養科目として開講することによって、各学科のディプロマ・ポリシーとの整合性の問題をクリア。担当教員は、情報関連の科目を担当している教員2人とサポート役の教務助手3人の計5人に担ってもらうことに。学生に実際にコンテンツを視聴してもらうモニタリング調査の結果、一部をカスタマイズすることを決めた。女子学生が苦手意識を持ちそうな「AIの概念」、演習中心の「データリテラシー」の回は、指導を手厚くするため教員が作成するオリジナル教材に差し替えた。

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●受講ガイドのサイトを設けてきめ細かくサポート 

 新設した「データリテラシー・AIの基礎」は学科ごとに開講され、学習プラットフォーム上に計68のクラスを設定。全学共通の教養科目として形式的に時間割上に設定され、毎週その時間になるとプラットフォームに確認テストが提示される。学生は自身の都合の良い時間に動画を視聴し、期限までに確認テストを解いて提出する。
 成績は確認テスト、Excelを使ったデータ分析課題やレポートで評価する。必修で課す一方、極力、再履修者を出さないよう学修支援にも力を入れる。共通教育サイト内に受講ガイドのページを設け、システムログインの方法から教える動画やAI・データサイエンス関係の用語集など、きめ細かい配慮でサポート。質問や相談等のやり取りのため、データサイエンス学習支援ルームも新設した。
 確認テストや課題の提出状況は教務助手がチェックし、提出が滞りがちな学生を把握。これらの得点が目標に達していない学生には、教員が作成する補習用コンテンツによる復習を促す。

●応用基礎レベルの科目も検討

 短大部を含む全学必修化ときめ細かい学修支援の実績をふまえ、文科省による2022年度のリテラシーレベル認定においては、先導的で独自の工夫がなされているプログラムが対象となる「MDASH Literacy+(プラス)」での認定をめざす予定だ。  
 その一方、応用基礎レベル科目についても、今後検討を進める。リテラシーレベルと同様、全学共通の教養科目の中に新設して選択科目にする案、学科ごとに開講している情報リテラシー科目にAI・数理に関する要素を加え、PBLや演習の手法を充実させる案などが出ている。


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