全ての大学生にデータサイエンス教育を実施できる環境の整備へ―文科省
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2019.0805
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3行でわかるこの記事のポイント
●拠点大学・協力校を中心に標準カリキュラムを開発し、全国展開
●2020年度から産業界のニーズも反映した基準でプログラムを認定
●実施が難しい大学については単位互換制度や放送大学などの活用を検討
文部科学省は、政府を挙げて取り組むAI戦略の下、数理・データサイエンス・AI教育を全ての大学生・高等専門学校生が受けられる環境の整備に乗り出す。拠点大学で開発中の標準カリキュラムの普及を図る一方、各大学の教育プログラムを認定する制度を設け、将来的には「キャリア教育のように全大学に普及した状態」(文科省の担当者)をめざす。文系中心の大学や小規模大学など、データサイエンスについて教えられる教員が少ない場合の体制整備が課題になりそうだ。
政府は、科学技術イノベーションの活用を通じて「人間中心の社会」を実現する「Society5.0」の基盤的技術としてAIを位置付けている。「人間の尊厳の尊重」「多様な人々が多様な幸せを追求」「持続可能」という3つの理念を掲げ、その実現に向け、内閣府を中心にAI戦略に取り組んでいる。
文科省は主に、戦略目標の一つである人材育成を担う。高等教育における当面の目標は「全学部の大学生が専攻にかかわらず、数理的思考力とデータ分析・活用能力を体系的に修得するための教育環境の整備」だ。2019年度は「大学の数理及びデータサイエンス教育の全国展開」として9億円(前年から3億円増)の予算を計上。
重点施策となるのが、「拠点大学および協力校を通じた標準カリキュラムの全国展開」と「認定プログラム制度の導入」だ。
文科省は2016年に数理・データサイエンス教育を先導する6つの拠点大学(北海道大学、東京大学、滋賀大学、京都大学、大阪大学、九州大学)を指定。それぞれが全学的な数理・データサイエンス・AI教育(以下、データサイエンス教育)を整備する一方、6大学のコンソーシアムとして学生が身につけるべき基本的な素養を体系化した標準カリキュラム・教材を開発する。今秋には標準カリキュラムを公表する予定だ。
標準カリキュラムの全国展開の足掛かりとして、2019年には全国で20の協力校を選定。こちらも、地域の拠点大学と連携してまずは、自学の全学生を対象とするデータサイエンス教育実施の環境整備に取り組む。標準カリキュラムをカスタマイズし、文系学生向けや複数の分野・レベルに対応した実践モデルを構築することが期待されている。
拠点大学のコンソーシアムは協力校から成果のフィードバックを受けて様々な実践モデルを蓄積。拠点大学と協力校が連携し、それぞれの地域で標準カリキュラムを展開するためのFD活動や大学横断の人材ネットワークの拡大に取り組む。
文科省はこうした活動を通じてデータサイエンス教育を担当できる教員の増加を図る一方、教員が足りない大学でも教育できる仕組みづくりを検討していく。現時点では、拠点大学や協力校において他学部・他大学の教員にデータサイエンス教育の専門的指導に立ち会える機会を提供したり、放送大学やMOOCs(Massive Open Online Course)の授業を活用したりすることを検討している。
専攻にかかわらず数理的思考力とデータ分析・活用能力を修得させる教育環境整備の重点施策の2つ目は、政府によるプログラム認定制度の構築だ。まずは、学部生対象のリテラシーレベルのプログラムを対象にする。
年内にも内閣府・文科省・経済産業省が共同で有識者会議を設置。産業界の人材ニーズに応えられるデータサイエンス教育の内容を検討し、年度内に具体的な基準を定める。2020年度以降、大学等から教育プログラムを募って基準に適合するものを認定する制度をスタートさせる。有識者会議に企業や経済団体を加え、採用活動時に学修成果を活用する仕組みについても検討する。大学にとって、認定プログラムを持っていることが学生募集や就職活動支援のアピールポイントになるよう実効性を持たせたい考えだ。
2021年度からは理・工・農、および商等の学問分野の学部3・4年生を対象にした応用基礎レベルのプログラムの認定も始める。
標準カリキュラムの展開と認定プログラム制度を通じ、2025年には学部の1・2年生対象のリテラシーレベルの教育を50万人、学部3・4年生対象の応用基礎レベルは25万人が履修できる環境を整備する目標を掲げている。データサイエンス教育の必修化は想定されていないが、リテラシーレベルについては、現在のキャリア教育のような普及状況をイメージしているという。
2018年11月の中央教育審議会グランドデザイン答申では、2040年に求められる人材について「数理・データサイエンス等の基礎的な素養を持ち、正しく大量のデータを扱い、新たな価値を創造する能力が必要となってくる」と指摘。また、「基礎及び応用科学はもとより、特にその成果を開発に結び付ける学問分野においては、数理・データサイエンス等を基盤的リテラシーと捉え、文理を越えて共通に身に付けていくことが重要である」としている。
データサイエンス教育に取り組む大学は増えつつあり、現在、滋賀大学、横浜市立大学、武蔵野大学にデータサイエンス学部が設置されているほか、グローバル系の学部や学部横断型のオナーズプログラムのカリキュラムにデータ分析に関する科目を設けているケースもある。
文科省選定の拠点大学のうち、北海道大学では学部教育、大学院教育(修士)、大学院教育(博士)の3つのレベルでデータサイエンス教育を展開。学部レベルでは情報学、数学、統計学の各分野の科目を1年次の全学教育科目に組み込み、「情報学Ⅰ」は全学必修としている。
九州大学は全学の低学年、全学の高学年と大学院生、情報系の学生(+社会人)という3つのレベルで展開。1年次対象の「情報科学」は学部ごとに必修、選択必修などに位置づけ、全学生が履修できるようにしている。推進役の数理・データサイエンス教育研究センターには数理のほか人文、工学など全学の教員が参画して専門分野に応じた教育を支援している。
文科省の担当者は「国立の拠点大学、協力校を先導役に、公立・私立を含む全大学の学生がデータサイエンス教育を履修できるようにしたい。教えられる教員を増やしていく一方で、教員が十分でない大学でも学ぶことができる環境の整備が課題だ」と話す。