2020.0312

同時履修科目の多さを巡る議論とICUの「集中的に履修させる時間割」

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3行でわかるこの記事のポイント

●教学マネジメント特別委で「履修科目の多さが学修目標達成を阻む」との指摘
●授業科目の週複数回実施、履修科目数の大胆な絞り込みが提言された
●ICUでは時間割の組み方で縛りをかけ、13単位以下のキャップを設定

大学教育を抜本的に変えるための「教学マネジメント指針」を策定した文部科学省の有識者会議では毎回、白熱した議論が展開された。学生が同時に履修する科目数の多さも、強い問題意識が示された論点の一つだ。「安易な履修行動を招いてDP達成の阻害要因になる」とされたこの問題を巡ってどのような意見、提言が示されたのか。国際基督教大学の「履修科目数を抑えて集中的に勉強させる仕組み」とあわせて紹介する。
*「教学マネジメント指針」と関連資料はこちら
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●「週複数回の多様な手法の授業で知識を使いこなすための支援を」

 中央教育審議会大学分科会の教学マネジメント特別委員会では、授業科目・教育課程に関する議論で「学生が同時に履修する授業科目が多すぎる」ということが、東京大学大学院の吉見俊哉教授を中心に何度か指摘された。所定の予習・復習を前提とした単位制度が形骸化し、ディプロマ・ポリシー(DP)に定めた学修目標を達成して教育の質を保証するという教学マネジメントが不可能になるという問題意識だ。
 一度に多くの科目を履修することは、単位を取りやすい「楽勝科目」を選んだり、安易に履修放棄をしたりといった行動につながりがちだ。教員との接触機会が減って深い学修ができないという問題も生じる。会議では「このような構造が残る限り、シラバスや予習復習の充実、アクティブ・ラーニングの導入といった方策を採ったとしても、学修時間は増えない」との指摘がなされた。
 学生の学修行動を変えるには、大学側が「学ばせ方をデザインする」という発想でカリキュラム編成のあり方から抜本的に見直す必要がある。会議では「開講科目数を絞り込んで4単位以上の科目を基本とし、1つの科目を週に複数回開講するのが望ましい」「アメリカの大学のように曜日によって講義、演習など多様な形態の授業を行い、知識を使いこなせるところまで支援すべき」といった提案がなされた。

●細分化された授業の統合、必修科目の適切な設定も提言

 こうした議論を経て、教学マネジメント指針には次のように書かれている。「学生の時間は有限であることを前提に、学生の学修意欲を保ち、密度の濃い主体的な学修を可能とするとともに、その学びを狭く偏らせたり、逆に散漫なものとしたりしないためには、必修科目を適切に設定するとともに、学生が同時に履修する授業科目数についても、大胆に絞り込みを進めていくことが求められる」。
 さらに、実現の方策として、必修科目が多い資格系分野は「やむを得ない」例外としつつ、「細分化された授業科目の統合や、学事暦の柔軟な運用による授業科目の週複数回実施に向けた検討に早急に着手していく」よう提起している。
 大学にとって、学生の履修科目を減らすことはなぜ難しいのか。資格系分野の特殊事情のほか、就活や卒論、教育実習などのため、学生は「3年次までになるべく多く単位をとっておきたい」と考えがちだ。
 ある私立大学の教員は「中長期の留学を促すためには、キャップ制による厳しい縛りも難しい」と話す。「留学先で修得できる単位は少ないため、その前後でとっておかないと4年間で卒業できない。留学や地域活動にチャレンジしてもらうには、ちゃんとリカバリできるという安心感を与えることも必要だ」。
 「幼稚園教諭と保育士、両方の資格を取得するためには必修科目がかなり多くなる。文科省と厚労省による精査が必要ではないか」「就活の問題は大学の努力だけではなんともならない」など、社会的、制度的な壁を指摘する声も。
 別の私立大学の教員は「日本式の『転ばぬ先の杖』を重ねた結果、開講科目数が膨らみ、学生の履修科目も多くなった面がある。それでも人文系では近年、開講科目が減ってきていて、大学の覚悟の問題ともいえる」と話す。

●ICUの授業科目は週複数日程の開講が標準

 教学マネジメント特別委員会では、学期ごとの履修科目数を抑えている事例として国際基督教大学(ICU)の時間割の組み方が紹介され、委員の関心を集めた。大学への取材も加え、ICUの独自の時間割について紹介する。
 国際基督教大学(ICU)の時間割は下図のようになっている。同じ番号は同じ科目を表す。

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 1コマ70分で、火曜と木曜には昼休みに食い込む形で105分のコマが設定され、多くの科目が週に複数日程開講される。3単位科目の場合70分×週3コマ、または105分×週2コマで構成される。
 午前の授業は、各科目とも「月・水・金の1限」「火曜の1・2限と木曜の1限」という具合に、曜日をまたいで3コマ開講する「横組み」が基本。月曜日の1限の科目を履修すると、水・金の1限に他の科目は入れられない。午後の授業は「火曜日の5・6・7限」という具合に、1日に3コマ連続で開講する「縦組み」を基本として組まれている。
 非常勤教員の勤務の都合、各教員の授業設計など、それぞれの要望に極力応えながら縦組みと横組みを調整し、時間割が組まれる。多くの教員は各学期、おおむね6単位程度を担当する。

●2年次以上はアドバイザー教員の許可やGPAに基づき履修上限を緩和

 同大学は3学期制で、各学期の履修は原則13単位以下に制限するキャップ制を実施している。下図は2年次の学生の時間割例だ。基礎科目の「言語学入門Ⅰ」(3単位)、一般教育科目の「歴史学」(3単位)、全学必修の「キリスト教概論」(3単位)、専門科目の「思考と言語」(3単位)、保健体育の講義科目「健康科学」(1単位)、計5科目13単位を履修している。

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 1年次は習熟度に応じてレベル分けされる「リベラルアーツ英語プログラム(ELA)」が必修で、これを6単位履修する場合、他の科目は最大7単位しか履修できないことになる。2年次以上になると、アドバイザー教員が許可すれば18単位まで、GPAが3.4以上ならさらにプラスして履修が認められる。
 リベラルアーツ教育で知られる同大学では3年次進級時のメジャー選択までに、メジャーごとに決まっている選択要件科目を履修する必要がある。そちらを優先させ、一般教育科目や保健体育科目を3年次以降に履修する学生もいる。

●学生はどの科目も「落とすわけにはいかない」と真剣に臨む

 学生にとっては学期ごとの履修科目が少なく、成績評価、GPA制度は厳格に運用される。希望するメジャーの選択可否にも関わってくるため、どの科目も「落とすわけにはいかない」という意識で学修に臨む。十分な空き時間を使って予習・復習、課題をこなしてから授業を受けるというサイクルが実質化しているという。集中的な学修、教員との接触機会の確保によって教育成果を最大化することが大学のねらいだ。
 「履修してみてミスマッチに気づいた」ということもあり得るが、その場合は3学期制による科目選択機会の多さが救済になっている。
 各学期に13単位履修すると、3学期×4年間で156単位。同大学の卒業要件は136単位なので、3年次まではコンスタントに13単位を履修し、スムーズに単位を修得した場合は4年次の時間割に余裕ができる。教職課程など必修科目が多い学生も、教職員や先輩のアドバイザーから助言を受けながらキャップ制の下でコンスタントに単位を修得するという。